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2014年11月30日日曜日

人間はそもそも常に希望を抱く(『脳科学は人格を変えられるか?』)

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少し前に『脳科学は人格を変えられるか?』(著者:エレーヌ・フォックス)を読みました。題名からある程度予想できるように、本書では楽観主義者と悲観主義者の違いを脳科学の面から明らかにして、楽観的な精神を築いて維持するにはどうすればよいかを考察しています。ここで言う「楽観」とは単なるお気楽な心持ちを示しているのではなく、前途にある人生を真摯にとらえた、健やかな見方です。

本書は内容がしっかりしているだけでなく、文章の構成も巧みで、よみやすく書かれています。地味な題名に地味な表紙と、売れない条件が揃っていますが、広くお勧めしたい良い本だと思います。個人的には、今年のベスト3に入れたい作品です。

それではまず今回は「楽観」に関する文章をいくつか引用します。

あらゆる生物にとって生き残る可能性を最大化する手段は、食物や性交などの<良きもの>に接近すること、そして捕食者や毒などの<危険なもの>を避けることだ。人間のさまざまな行動や複雑な生態はすべて、これらふたつの習性から生まれていると言ってもいい。 (p.38)

シュネイルラは実験室と野外の双方で行ったすべての観察と実験の結果から、あらゆる生物を結ぶ原理は、食物と安全な場所を見つけようという衝動(=報奨への接近)と、何かに食われないようにする衝動(=危険の回避)の二つに尽きると結論した。ハトであろうとネズミであろうと馬であろうと、はたまたヒトであろうと、報奨に「接近する」ことと脅威を「避ける」ことは、行動の最大の動機づけだといえる。 (p.40)

上で引用した内容はあたりまえのことながら、チャーリー・マンガーは心理学の話題を展開した際に筆頭に挙げていました(過去記事)。いちばん大切なことをいちばん初めに説明するというのは、チャーリーであれば当然の理にかなったやりかたです。

次の3つの引用は、楽観という感情が人間に埋め込まれた避けがたい性質であることを説明しています。

サニーブレインの中でもっとも活発にはたらいている化学的メッセンジャーはドーパミン、そしてアヘンと似たはたらきをする脳内物質のオピオイドだ。側坐核を構成する細胞にはこのドーパミンとオピオイドのどちらかが含まれており、これらの神経伝達物質の活動こそが、人間がさまざまな経験を楽しんだり欲したりするのを促している。これらは、サニーブレイン全体のエンジンルームでいわばオイルの役目を果たしており、楽観をつくりあげる基本要素のひとつだ。 (p.72)

なぜ人々は、こんなふうに抑えがたい楽観を抱くのだろう? 地球規模の問題が目の前に山積しているのに、なぜそれでも未来を楽観できるのだろう? その答えは、複雑かつ興味深い。謎のひとつは、人間の脳がそもそも未来に常に希望を抱くように配線されていることだ。

これまで見てきたように、サニーブレインの重要なはたらきのひとつは、究極の報奨に向けてつねに人間を駆り立てることだ。楽観は、人間が生き延びるために自然が磨きあげた重要なメカニズムであり、そのおかげでわたしたちは、ものごとがみな悪いほうに向かっているように見えるときでさえ前に進んでいくことができる。 (p.86)

なぜ人間の脳は、こんなに楽観的な方向にかたむいているのだろうか? ひとつの理由はこの楽観こそが、毎朝人間が寝床から起き上がるのを可能にする力だからだ。楽観とは本質的には認知上のトリックだ。このトリックのおかげで人は、懸案事項や起こりうる問題や予想外の危機を過剰に心配しなくてすむ。 (p.87)

最後の引用です。こちらも重要な指摘です。

男性は進化論的な観点からいえば、できるだけ多くの相手と交尾しなければ生存競争を勝ち残れない。だからたった1回でも「つがう」チャンスを逃すことは大きな痛手になる。いっぽう相手から拒絶される痛みはほんの一瞬で、さして高くはつかない。だから男性にとって自分の魅力を過信するのは、きちんと採算のあう行為なのだ。かくして楽観主義の種は、それが現実をふまえていようがいまいが、広く蒔かれていくわけだ。 (p.89)

2014年11月28日金曜日

2014年デイリー・ジャーナル株主総会(2)何かまちがっていますか

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バークシャー・ハサウェイの株主総会ではチャーリー・マンガーはあまりしゃべらないようですが、デイリー・ジャーナル社の株主総会ではちがいます。いつもご紹介している講演のように、鋭い意見を飛ばしています。今回からは、参加者との質疑応答をご紹介します。まずはいきなり核心の話題、彼の持論である長期集中投資についてです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> ゆたかに暮らせるだけのお金ができてからは、個人としてはどれだけの投資リスクを負いましたか。

<マンガー> マンガー家の資金は、ほとんどがバークシャー・ハサウェイかコストコか、アジアに投資するファンドに投じています。デイリー・ジャーナル社への投資は勘定に入れていません。アスタリスクで示す程度の割合ですから(笑)。資金をうまく扱えると考えている人は、別のやりかたで運用しようと考えるかもしれません。彼らにしてみれば、「マンガーは自分のしていることがわかっとらん、まったくもって考えられん、あれは我々のモデルには合わん」というわけです。しかし正しいのは私で、まちがいは彼らのほうだと思いますよ。

銘柄選びをうまくできるほどに聡明ならば、3つの銘柄で十分です。そのどれをとっても、みなさんの御一家を営々と支えつづけてくれるでしょう。必要な金額の1000倍も所有していれば、たとえばある年に他人の資産が10%増えたのに自分は5%減ったところで、だからどうだというのでしょうか。そういった頭のおかしな判断をする人は、実のところ他人を妬んではいません。問題なのは顧客です。他の人と同じだけ成果があがらないと、彼らの首を切るからです。おかしなやりかたですよ、みんなで同じメリーゴーランドに乗ろうというわけですから。そういうのはまったく興味がないですね。こうして待っていれば、手持ちの証券は日々新高値を付けてくれます。このやりかたで何かまちがっていますか。

Q. How much investment risk did you take personally once you had made enough money to live well?

Munger: Most of the Munger money - I don't count the Daily Journal, it's just a little asterisk (laughter) - is in Berkshire Hathaway, Costco (ticker: COST), and an Asian fund. Now, you could go to the rest of finance, they think they know how to handle money, and they'd say it's totally unthinkable, Munger doesn't know what the hell he's doing. Doesn't fit our models. But I'm right and they're wrong.

If you're shrewd enough to choose well, three holdings - any one of which would support your family in perpetuity - is enough security. What difference does it make if somebody else in some year goes up 10% and you go down 5%, when you've got 1000 times more than you need anyway? The people who make these crazy decisions don't actually have envy: what they have is clients who will fire them if they don't get the same results as everybody else. That is a crazy system. Everybody gets on the same merry-go-round. I never had any interest. As I sit here, all my securities are making new highs every day. Am I doing it wrong?

2014年11月26日水曜日

IBMで考えた戦略(前CEOサム・パルミサーノ)

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DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2014/12月号に、IBMの前CEOだったサミュエル・パルミサーノ氏のインタビュー記事「投資家をマネジメントする」が掲載されていました。今回は、同記事から一部を引用します。

サムが敷いた路線は、基本的には現CEOのバージニア・ロメッティ女史にも受け継がれていると捉えています。そのため彼の意見は、IBMにおけるマネジメントの現状を代弁しているように思えました。なお、本家であるHarvard Business Reviewに原文が掲載されたのは今年の6月号です。

まずは、対話を通じて主要な機関投資家から受けた要望についてです。

大株主の意見に耳を傾ければ、自社の戦略に合致した方法でうまく対応できることに私は気づきました。彼らは基本的には、株主にも配慮して資本を配分してほしいと申し入れているだけでした。売上げの伸びよりも、利益率の拡大やキャッシュの創出を求めていたのです。なぜなら、企業がキャッシュを生み出せば、自社株買いや配当という形で株主に還元されると心得ていたからです。だれも価値が見出せない、無意味な大型買収に走るようなことはないと百も承知なのです。 (p.43)

つぎは、IT企業のライフサイクルについてです。

企業は創業後、私が「第一幕」と呼ぶ段階を経験します。商品がヒットしたり、大成功を収めたりする第1フェーズです。現時点でも、グーグルやフェイスブックのように大成功している企業があります。このような企業はアイデアに秀で、かなりの収益を上げているでしょうが、たちまち第2幕が必要になります。はたして第2幕は、時価総額をたとえば300億ドルから1000億ドルに押し上げてくれるでしょうか。これは、少々やっかいです。マイクロソフトが現在直面しているのは、この種の課題です。 (p.46)

最後は、戦略の策定や実行についてです。

とにかく、すべてを整合させることです。まず着手すべきは戦略です。IBMの場合、利益率と創出価値がより高い事業に移行するという戦略を策定しました。すなわち、陳腐化しつつある事業から撤退し、価値を生み出せると判断した事業分野に進出するというものです。アナリティクスやクラウド、ビッグデータ、つまり数々のソフトウェアがこれに当たります。その次に、投資家が「その戦略は私にも成果をもたらす」と言えるような財務モデルに戦略を転換しなければなりませんでした。そのうえで、この財務モデルを経営システムに焼き直して、各事業部門がそのロード・マップを実行できるようなプランを策定しなければなりません。さらに報酬体系を整備し、戦略の成功可能性を高める必要がありました。つまり、戦略を起点として、端から端までをしっかり結びつけたのです。 (p.47)

IBMの企業戦略と聞けば、過去記事で取りあげたルイス・ガースナーの言葉が思い返されます。

2014年11月24日月曜日

ウォーレン・バフェットから最初に学んだこと(メリンダ・ゲイツ)

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ビル・ゲイツの奥さんであるメリンダが、ウォーレン・バフェットについて語った短い文章がありました。翻訳するほどの長さではありませんが、いつものやりかたでご紹介します。(日本語は拙訳)

Melinda Gates: Warren Buffett Taught Me How To Be A Good Friend (Business Insider)

なお上記の引用元は完全にオリジナルな記事ではなく、元ネタはFortuneの記事から抜粋したとのことです。Fortuneの記事へのリンクはこちらです。(ちなみに、こちらではウォーレン自身の別の話題も登場しています)

ビルといっしょにウォーレン・バフェットにはじめてお会いして間もない頃に、彼が友人をわたしたちに紹介してくれたことも、強く印象に残っています。ウォーレンの友人はこれ以上は望めないほどのすばらしい方ばかりでした。彼は生涯を通じてそのような交友関係を築いてきたのでしょうね。そのとき「これは、わたしも友人関係を育まなきゃ」と心から感じました。

ウォーレンは友人に対してちょっとしたことをしてあげるのですね。たとえば考えたり読んだりした記事を送ったりなどです。そういうことが、わたしが友人との関係を考える上で参考になりました。

One of the things I was most impressed about when Bill and I met Warren Buffett very early on was he introduced us to his friends. And Warren has the most high quality set of friends you could meet, and these are friends that he has had over his lifetime. And it really got me thinking, "wow, I better cultivate my friends."

Warren does little things with his friends, like he will send you an article of something he is thinking about, reading about. That was a way to help me think about my friends.

2014年11月22日土曜日

お粗末だった私の経歴(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーが1998年に行った講演「慈善財団における資産運用の現状」の6回目、最終回です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

締めくくりとして、論争を招くであろう予測と、同じく論争を呼びそうな見解を述べます。

まずは、論争を招く予測のほうです。もしみなさんの中でバークシャー・ハサウェイとよく似た投資方針をとる人がいて、ずっとのちになってからそれを振り返ってみれば、何もしないようにとウォーレン・バフェットを説得できなかったとしても、後悔するところはないでしょう。一方バークシャーにとっては、投資上の競争相手がいっそう賢明になるわけですから、後悔する所以となります。しかし実際には、他の人が聡明になったせいでどのように不利になろうと、バークシャーが悔いることはありません。我々が概してこの世の現実をどう捉えているのか、他の人に対して参考にしてはどうかと勧めているのですから。結局我々は、自分たちが手にできる成功を望んでいるに過ぎないわけです。

次も批判を呼ぶと思いますが、私の見解では「財団の間では、複雑で費用が高くつく投資形態は重視しないように検討することが、もっと一般的になる」と思います。私の疑念に反してそのような形態がうまくいくようになっても、資産運用という仕事の大半には反社会的な影響が根深く及ぶでしょう。それと言うのも、その仕事が今現在つづいている有害な潮流を悪化させるからです。すなわちこの国の道徳的な若者の頭脳を、儲けの大きい資産運用の世界やそこに付随する現代的な軋轢へとますます引き寄せている傾向のことです。それは、他者に対してもっと多くの価値をもたらす仕事とは異なる種類のものです。資産運用という仕事はお手本を示していません。初期のチャーリー・マンガーが歩んだ経歴は、若い人からすればお粗末な事例でした。資本主義社会からもぎ取った見返りとしての、社会に対する貢献が不十分だったからです。しかし、他の人の似たような経歴はもっと悪いですね。

そのような事例を頼りにするよりも、財団にとってはもっと建設的な選択肢があります。賢明さゆえに称賛を集めている国内企業の数社へと、長期的に集中投資するやりかたです。

そうだとすれば、どうしてベン・フランクリンのやりかたを模倣しないのでしょうか。結局のところベンという人は、社会に貢献するという点で上手い成果をあげましたし、また相当な投資家でもありました。お手本にするならば、バーニー・コーンフェルドよりもベンのほうがずっと優れていると思いますよ。さあ、どちらを選ぶかはみなさん次第です。(おわり)

To conclude, I will make one controversial prediction and one controversial argument.

The controversial prediction is that, if some of you make your investment style more like Berkshire Hathaway's, in a long-term retrospect, you will be unlikely to have cause for regret, even if you can't get Warren Buffett to work for nothing. Instead, Berkshire will have cause for regret as it faces more intelligent investment competition. But Berkshire won't actually regret any disadvantage from your enlightenment. We only want what success we can get despite encouraging others to share our general views about reality.

My controversial argument is an additional consideration weighing against the complex, high-cost investment modalities becoming ever more popular at foundations. Even if, contrary to my suspicions, such modalities should turn out to work pretty well, most of the money-making activity would contain profoundly antisocial effects. This would be so because the activity would exacerbate the current, harmful trend in which ever more of the nation's ethical young brainpower is attracted into lucrative money management and its attendant modern frictions, as distinguished from work providing much more value to others. Money management does not create the right examples. Early Charlie Munger is a horrible career model for the young because not enough was delivered to civilization in return for what was wrested from capitalism. And other similar career models are even worse.

Rather than encourage such models, a more constructive choice at foundations is long-term investment concentration in a few domestic corporations that are wisely admired.

Why not thus imitate Ben Franklin? After all, old Ben was very effective in doing public good. And he was a pretty good investor, too. Better his model, I think, than Bernie Cornfeld's. The choice is plainly yours to make.