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2014年2月10日月曜日

公園のながめをあきらめきれない(ベノワ・マンデルブロ)

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少し前に『フラクタリスト―マンデルブロ自伝―』を読みました。マンデルブロと言えば異様な図形「マンデルブロ集合」が有名ですが、金融の世界でもファット・テールを指摘するなど、重要な成果を残しています。


科学者の伝記を読む理由はいつも同じで、偉大な業績を成した人物はどのように考えてどのように判断するのか参考にしたいからです。しかし本書ではその種の話題はあまり登場せず、第二次世界大戦期だった若者時代の逃避行や、独自の学者経歴を歩んでいく顛末・心境を中心につづられていました。その意味では当初のねらいに即した本ではなかったのですが、個人的に興味を持っている主題「逃げる」ことが少なからず描かれており、逆にそちらの話に引きこまれました。翻訳者の影響なのかもしれませんが、著者の文体は抑制が効いていて浮わついたところが少ないように感じられ、全般的に共感できる文章でした。今回はその「逃げる」ことについて本書から引用します。

最初の引用はナチス・ドイツがポーランドに侵攻する前のことで、マンデルブロの一家がワルシャワからパリへ逃げる話です。
二度と帰らない覚悟でこの地を離れるべきか? 私の年齢を考えると、タイミングは完璧だった。その一方で、パリに行った場合には父の身分がどうなるかわからず、母は仕事をやめて収入も手放さなくてはならないとすれば、ひどくまずいタイミングでもあった。しかしミルカの一件で迷いが消えた。ポーランドは両親が息子たちのために望む国ではなかったのだ。決断が下された。(中略)

両親の恐れていたあらゆることがポーランドで忌まわしい現実となる前に、二人の大胆な計画が功を奏した。私たちは南フランスへ行って土地の人のようなふるまいや話し方をして、その地でたくさんの誠実な友人を得た。(中略)

知り合いの中で、フランスへ移って生き延びることができたのは私たちだけだった。たいていの人は、ぐずぐずしているうちに状況がひどく悪化してしまった。ワルシャワ時代の知人で生き残ったのは二人だけだ。私たちの上の階に住んでいたプラウデ夫人は夫を亡くしたが、戦争が終わってから私と同い年の娘を連れてパリへやって来た。そして私の母に連絡をとり、友だち付き合いを再開した。ほかの人たちは貴重な陶磁器を手放せなかったり、べーゼンドルファーのコンサートグランドピアノが売却できなかったり、あるいは窓から見える公園の眺めをあきらめられなかったりして、動きがとれなかったらしい。母はそんな話にぞっとしながらも、感情を隠したまま耳を傾けていた。(p.79)

つぎはドイツ占領下のフランスで起きた彼の父親の話です。
フランスがドイツに占領されていたころのことだが、父の賢さと独立心と勇気を物語るエピソードがある。父は最終的な死の収容所へ連行される前の一時収容所に入れられていた。ある日、フランスのレジスタンス部隊が突入して警備兵を制圧した。ゲートを開放することはできるが収容所を防護することはできないと叫んだかと思うと、みんな逃げろと言って立ち去った。父は最寄りの町を目指して歩く収容者たちの長い列に加わったが、不吉な気配を察してわき道に入った。するとおののく父の目の前で、警備兵から連絡を受けたナチス武装親衛隊のシュトゥーカ爆撃機が、収容者たちを地上掃射した。父は家に帰り着くまでずっと細い道を選び、寝るときは人気のない小屋を見つけた。父以外で戦争を生き延びた人たちも、死の収容所へ向かう集団にいて逃げ道に気づいたら、即座にそこへ飛び込んだと言っている。父はまさにそういう人間だった。(p.42)

最後の話は、パリからフランスの中部へさらに避難したころの生活の様子です。
川を下った兵器工場のそばの平らな土地に小さなアパートがあり、その最上階に格安の貸間が見つかった。避難民支援の一環として、基本的な家具類は支給された。レオンと私は狭苦しい台所兼食堂で寝た。暖房用のストーブで料理もした。両親の部屋も暖まるようにと境のドアを開け放っても、漆喰と麦わらの混ざった三方の壁が丘陵地の外気に触れているので、部屋は冷えきってしまう。冬場には室内につららができた。一階にトルコ式トイレが一つあり、玄関には冷水しか出ない蛇口があった。言うまでもないが、浴室はなかった。(中略)

父はいつもメモをとりながら熱心に本を読んでいた。次にどんな運命が降りかかるかわからないということを忘れず、ぼろぼろの古い本で英語の書き方を勉強していた(「備えあれば憂いなし、だからな」)。何年もあとで私が見つけた革製のブリーフケースの中に、父の膨大な学習帳のうち数冊が奇跡的に残っていた。(p.110)

蛇足ですが、我が家では暖房を入れていないので、今年は寒い思いをしています。板張りの部屋の窓際に敷いた布団に入りこんだときには、マンデルブロのつららを思い返しています。

2014年2月8日土曜日

地獄の底がふさわしい(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の23回目です。前回のつづきで、二次的・三次的影響の話です。(日本語は拙訳)

メディケアの例で示したように、人間の作ったシステムであれば何であれ、策略が生じます。これは人の心理に深く根ざすところによるものです。そして謀りごとをする中で、巧みな才能が姿をあらわします。ゲーム理論には大いなる潜在力があるからですね。それゆえに、カリフォルニアの労災補償制度では策略が芸術的な域まで達し、結局はうまく機能しませんでした。システムにおいて策を講じるうちに、人は不正というものを学びます。これは社会の発展にとって良きことでしょうか。経済の発展につながるでしょうか。断じて否と言えます。容易にごまかしがきくシステムを設計した人は、地獄の底へ落ちるのがふさわしいでしょう[ダンテ『神曲』の地獄界第九圏]。

わたしの友人一族が経営する会社は、トラック・トレーラー業界の8%を占めていました。彼はちょうどカリフォルニアでの最後の工場を閉めたところでした。テキサスにも一つありましたが、そちらの状況はもっと悪く、労災にかかる費用が賃金比にして2ケタ台の割合に達していました。トラック・トレーラーの製造では、それほどの利益は出せません。彼は工場を閉鎖し、ユタ州のオグデンへ移転しました、モルモン教徒が大勢いる土地です。彼らは大家族を養い、災害補償で駆け引きなどしない人たちでした。労災費用は賃金の2%分でした。

彼のテキサス工場を占めていたラテン系の人たちは、モルモン教徒とくらべてうまれつき不正直だったり悪人だったのでしょうか。いいえ、ちがいます。単に、不正を働けば報われるように動機づけが構成されていたからです。それは無知な議員によって制定されたものです。ロースクールを卒業した者ばかりだというのに、自分たちが社会発展の足をひっぱっているとは考えなかったのです。うそをついたりごまかすことがもたらす二次的・三次的効果を考慮しなかったのですね。このことがあらゆる場所で起こるようになると経済学はこの件で持ちきりになり、これからもずっとつづくかのようになりました。

Anyway, as the Medicare example showed, all human systems are gamed, for reasons rooted deeply in psychology, and great skill is displayed in the gaming because game theory has so much potential. That's what's wrong with the workers' comp system in California. Gaming has been raised to an art form. In the course of gaming the system, people learn to be crooked. Is this good for civilization? Is it good for economic performance? Hell, no. The people who design easily gameable systems belong in the lowest circle of hell.

I've got a friend whose family controls about eight percent of the truck trailer market. He just closed his last factory in California, and he had one in Texas that was even worse. The workers' comp cost in his Texas plant got to be double-digit percentages of payroll. Well, there's no such profit in making truck trailers. He closed his plant and moved it to Ogden, Utah, where a bunch of believing Mormons are raising big families and don't game the workers' comp system. The workers' comp expense is two percent of payroll.

Are the Latinos who were peopling his plant in Texas intrinsically dishonest or bad compared to the Mormons? No. It's just the incentive structure that so rewards all this fraud is put in place by these ignorant legislatures, many members of which have been to law school, and they just don't think about what terrible things they're doing to the civilization because they don't take into account the second-order effects and the third-order effects in lying and cheating. So, this happens everywhere, and when economics is full of it, it is just like the rest of life.

2014年2月6日木曜日

2013年の投資をふりかえって(9)新規投資銘柄:インテル

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インテル (INTC)

<投資に至った背景>
2011-2012年にマイクロソフトに投資しはじめたころ、当社の株価も同じように低迷していました。しかしマイクロソフトとくらべると当社は設備投資額が大きく、資本効率が良くないことから、はじめは投資対象とみていませんでした。しかしマイクロソフトに投資するリスクのひとつとして消費者向け部門が低迷する可能性を考慮するうちに、当社のことを考えるようになりました。マイクロソフトの業績とは連動せずに、当社独自に成長する機会があるのではないかと。このように、マイクロソフトへの投資を部分的にヘッジできないか考えたのが当社に興味を持ちはじめたきっかけでした。

<事業の状況>
当社の主力製品はよく知られているようにコンピューターの中心部であるCPU(=プロセッサー)です。当社は経営管理上、プロセッサー事業を3つのグループに分けています。

・PCクライアントグループ: デスクトップPCやノートPCのプロセッサー等
・データセンターグループ: サーバー用プロセッサーやストレージ(データ記憶装置)等
・その他のIAグループ: 組込み用や通信用プロセッサー、タブレットやスマートフォン用プロセッサー等

またプロセッサー以外の主要な事業としては、次の2つがあります。

・ソフトウェア及びサービス事業: セキュリティーソフト(旧マカフィー)や組込み用OS等
・フラッシュメモリー事業

FY2013の業績(単位:百万$)は売上高が52,708、粗利益が31,521、営業利益が12,291、純利益が9,620でした。EPSは1.89$です。また以下の図は事業別の業績です。前年とくらべて増益だったのがデータセンターとソフトウェア及びサービスで、減益だったのがPCクライアント、その他のIAグループ(スマートフォンやタブレット含む)、それ以外でした。


<株価の状況>
年初は20.62$で年末は25.96$でした。上昇率は25.9%で、インデックスとくらべると低迷しました。


参考までに、以下の株価チャートは1997年以来のものです。配当は別として、見事な横線です。


<投資方針>
2013年の3月と4月に何度かに分けて購入しました(上図の赤矢印)。平均購入単価は21$強でした。ポートフォリオに影響を与えられる規模までは買いたいと考えています。現在の株価23.5$(実績PERで12.5倍前後)は買い増ししても不都合はないのですが、下落するのを待っています。なお配当利回りは3%台後半です。

投資するにあたって当社を評価している点は、主に2つです。前者は以前から考えていましたが、後者は最近になって加わったものです。

1. 他社に先行して微細化の進んだ製品を研究・開発し、製造できる技術力
コンピューターを代表とする電子製品は年々性能が向上する傾向がありますが、それというのも当社を含む電子機器業界に携わるみなさんが営々と技術革新を進めることで実現されています。そのような潮流の中で当社は技術的な優位性が大きく、それゆえに行使できる影響力も相まって、大きな経済的な見返りを受けてきたと捉えています。

CPUなどのプロセッサーを製造する半導体企業は、「小さなものを作る」すなわち微細化技術を推し進めることで、以下のような利益を享受してきました。

・高付加価値化
以前の製品に匹敵する性能をより小さな面積で実現できるようになるため、余剰な領域が生じます。小型化した形で製品化してもよいですし、余剰領域を使ってさらに高集積化して性能を向上させたり、別の周辺回路を取り込んで多機能化することができます。いずれにしても付加価値を高めることになり、売上増ひいては利益増につながります。

・コスト面の優位
製品の主な原材料であるシリコンウエハーの所要面積が小さくなるとともに、無駄になる領域の割合が減少するため、製品1つあたりの材料費が削減できます。また生産能力が実質的に増加するため、増産することができれば固定費の割合を下げることにつながり、さらなる原価低減を実現できます。

・Moat(経済的な堀)の強化
製品の微細化を進めるには、半導体製造装置においてもいっそう高度な性能が要求されます。ますますむずかしい技術的要求に対応するには、製造装置を製作する費用も高額になります。このことは、相対的に経営基盤の弱い当社の競合企業にとっては余力がなくて設備投資できなかったり、経営上の大きなリスクとなります。賭け金が大きくなると、勝負から降りる人が多くなるのと同じ原理です。そのため自社製造から撤退する企業が増え、現時点での有力企業は3社となりました。メモリー生産に強いサムスン電子、受託生産(ファウンドリー)の台湾TSMC、そしてプロセッサーやフラッシュメモリーを開発生産する当社です。

サムスンは総合力で圧倒的な存在です。TSMCはアップルから受注するなど、受託生産の駆け込み寺となっています。法人税が低いのも強力な追い風です。そして当社は最先端の技術力を有しています。興味深いのは、それぞれ独自のMoatを築いている点です。当社への投資を考え直すとすれば、これらの特徴がもたらす影響を考え直すことにあるかもしれません。

2. プロセッサー分野における全方位戦略
昨年春に当社のCEOが交代しました。先代のポール・オッテリーニが辞任したのは業績停滞がつづき、現在の状況を打開するには不適当と指摘されたからではないでしょうか。新CEOのブライアン・クルザニッチは先代とは違って理科系の教育を受けて技術畑を歩んできました。そのため、当社のコア・コンピタンスをよく理解しているはずです。その彼が最近になって明確な戦略を打ち出しました。「計算するなら何であろうと、インテル製品が一番だ」(If it Computes, it does it BEST with Intel)。これはあらゆるプロセッサー市場で勝ちにいくことを宣言しています。PCやサーバーだけでなく、タブレットやスマートフォン、ウェアラブル端末、車載などの組込み用、そして他社製品の受託生産と、プロセッサーできちんと儲けがでるならそれこそインテルの仕事だと謳っているように聞こえます。個人的にはこの戦略を評価しています。どこにも隙を残さないという姿勢を明らかにし、そして実際に行動することは、他社からは脅威として映ります。戦線が拡大して中途半端になるリスクは大きいですが、経営資源の配分の強弱は走りながら変化するでしょうから、結局は現実的に対応するだろうと想像します。先日クルザニッチは準備中だったインターネットTV事業を売却しました。そのような多角化を進めるよりも、プロセッサーに専念するほうがずっと理にかなった選択だと思います。

<リスク>
ここ数年間の業績は横ばいになり、大きな成長が見込めないことが、当社の株価低迷につながっているように見受けられます。市場が次のような不安をいただいていると考えます。

1. クライアントPC市場における売上のさらなる減少
広く報道されているように、消費者向けPCの市場が縮小しています。最近のスマートフォンやタブレット端末に満足している消費者は、古くなったパソコンを買い替える必要がないのでしょう。企業向けのPC需要はそれほど落ち込まないでしょうが、消費者向け市場ではある水準まで市場が縮小すると予想します。市場がこのリスクを警戒するのは妥当な見方だと思います。

クライアントPC市場の縮小は落ち着きをみせつつありますが、完全に底を打ったのかどうかはまだわかりません。仮にこの市場での売上がさらに2割減少した場合、EPSが現在の1.89$からたとえば1.2$に減少します。それを現在の株価水準24$とくらべると、割高ではあるものの高すぎるほどでもありません。成長しているデータセンターグループの利益増を考慮すれば、もう少し妥当なPER水準に落ち着きます。市場はこのような見通しにもとづいて当社の企業価値を算出しているのかもしれません。

2. スマートフォン及びタブレット市場における市場シェア低迷
スマートフォンやタブレット市場は、ここ数年間で大きく成長しています。代表的な製品にはスマートフォン(iPhoneやGalaxyなど)やタブレット(iPadやGalaxy、kindle fire、Nexusなど)がありますが、それらの端末では当社のプロセッサーは事実上使われておらず、シェアもほとんどゼロです。上述したクライアントPCの売上減少をこの市場で補うことが期待されていますが、現在の当社はそれを実現できていません。

スマートフォンとタブレット市場は個別に分けてながめると、少し違う様相がみえてきます。どちらの市場においても従来(昨年中盤まで)の当社製品は技術的にもうひとつで、端末メーカーに受け入れられていませんでした。しかしタブレット市場向けの製品は当社にとっては技術的なハードルが低く、現段階では競合製品と比肩あるいは上回る製品を出荷しています(Bay Trail)。昨年末から当社製プロセッサーを搭載したタブレット端末が実際に販売されるようになり、ユーザーからも少しずつ評価を得ています。タブレット向け製品は、当社製品の中で今年もっとも成長するものと予想します。

一方のスマートフォン向け製品では、まだ他社製品のほうが技術的に優位です。当社製品は特にLTE等の通信モジュールとの統合や、グラフィックス性能の面で遅れています。スマートフォン向けの製品開発を本格的に始めたのが遅かったため、追いつくまでまだ距離があります。当社のシェアは現時点でゼロに近く、端末メーカーから技術的に評価されない点が残されている以上、横綱を土俵に送ることができるのはもう少し先になります。そのような状況なので株式市場は全般として、当社がスマートフォン市場で一定のシェア(たとえば30%)を確保するのはむずかしいだろう、とみているのかもしれません。

この件は個人的には(控えめながらも)楽観的にみています。技術的な課題は解決され、当社がやがて優位に立つと予想するからです。他社にできたものは当社にもできる、というのが個人的な見立てです。一方で、2強メーカーであるアップルとサムスンがどうなるかは非常に大きな課題です。またプロセッサー・メーカーの強敵クアルコムは無線通信の分野ですばらしい位置を占めています。この領域で当社が勢力を伸ばすには少なくとも3年以上はかかるでしょうし、5年や10年かかるかもしれません。しかしクルザニッチも定年までは10年以上残されています。

なお当社はスマートフォン全盛の船に乗り遅れた印象がありますが、一概にそうとは言えません。当社はデータセンター市場におけるAMD等との争いを優先させ、スマートフォンで採用される省電力型のプロセッサーには注力していませんでした。しかしスマートフォン市場の成長がもたらす果実をデータセンター市場で得る、とする考えは容易に思いつきます。スマートフォンやタブレットのような軽量端末文化を支えるには、「クラウド」という名のサーバー機器が不可欠だからです。ユーザー各人が有する端末台数には限りがありますが、クラウドサービスは有用なものであればいくらあっても困りません。実体が見えないものに対しては、際限なく拡大していくのが人間の欲望です。インターネットの利用がますます進む世界において、成長期待の大きいサーバー事業を先に攻略するとした戦略はまちがいではなかったと思います。

3. サーバー市場における市場シェア低下
スマートフォンで採用されているプロセッサーのほとんどは、当社のライバルメーカーARMのライセンスを受けて設計されたものです。このARMベースのプロセッサーが、今度はサーバー市場に進出する話題がよく登場します。また当社の得意先であるグーグル社がARMベースのプロセッサーを設計し、自社用サーバーに採用する動きをみせているとも伝えられています。このような動きが実現すれば、当社が高い粗利益をあげているサーバー用プロセッサーが価格競争にさらされるとする見方があります。しかしこれは限定的と考えます。第一に、顧客やパートナーがサーバー上で展開しているコンピューター資産はマイクロソフトや当社製品に依存する部分もあり、当社に対して正面から対抗するのはスイッチングコストの観点からむずかしいと思われるからです。さらにこの市場では当社もすばやく低電力消費型の製品開発に着手し、すでに第一弾を出荷しています(Avoton)。この製品は高度な機能や性能が要求されないシステムを稼働させる際に適したものです。

ただし、グーグルが自社内で独自に開発するような動きは実現するかもしれません。損得抜きで選ぶのであれば仕方のないことです。しかし経済的な合理性を考えると、本格的な採用規模には達しないだろうと予想します。自社の要求事項をプロトタイプ検証する程度の規模なのかもしれません。

4. 技術革新の限界
半導体の進歩の歴史を振り返ると、物理的な限界について度々指摘されてきました。しかし当社にはそれらを乗り越えてきた実績があります。むずかしさが増しているのは事実で、次も同じようにうまくいく保証はありません。しかし、業界をリードする技術革新をつづけていくことはほぼ確かだと思います。

2014年2月4日火曜日

人間は昔と同じままで変わらない(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その15です。質疑応答が2つで、最初が特技のウクレレについて、もうひとつはまじめな話題です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> バフェットさんは音楽の才能をお持ちだと確信するに至りました。それでお聞きしたいのですが、まだウクレレの演奏をつづけていらっしゃいますか。

<バフェット> たまにですが弾いています。これから1年後のミセスBが102歳になる誕生日のころに、オマハのローズ・ブラムキン演劇センターが開場します。以前はアストロ映画館だったところです。彼女は15年前にその劇場が解体されようとするときに買い取りました。その劇場も、この国に来てはじめて喜ばしいできごとがあった場所なのです。1920年代半ばに、彼女の娘さんのフランシスがそこで「アム・アイ・ブルー?」(Am I Blue?)を歌って表彰されたのです。賞品としてもらったのが5ドル分のゴールドの地金でした。1年後の開場式ではミセスBも出席しますが、フランシスが「アム・アイ・ブルー?」を歌うことになっています。わたしもウクレレで伴奏する予定です。

わたし自身のウクレレ演奏の話をしますと、記者クラブの席で州知事と演奏したことがあります。ですが、次は来年秋にアストロでやります。

<質問者> どんなリーダーであっても、その人の資質で私がいちばん重視しているのは誠実さです。その人が産業界あるいは政界などかは問いません。今日の産業界におけるリーダーや政界は、誠実さの点で高い水準にあると思いますか。あなたがビジネスを始めたころとくらべて低下したとお考えですか。

<バフェット> なんとも言い難いですね。調査結果が示すように、一般的なアメリカ市民はたぶん低下しているとの意見を持っていると思います。わたしとしては、さまざまな領域のいろんな種類の人たちと接してきた上での印象ですが、あなたが世間で見てきた様子とかけはなれたものではないと感じています。大人数をとりあげてみれば、釣鐘曲線のような形になると思います。中央付近にたくさんの人がいて、たいていの場合は正しくふるまうでしょうが、本当にむずかしい状況ではそうはできません。一方で曲線の右寄りにいるのがまさしく傑出した人物で、ありていに言えばわたしが敬意を抱く人たちです。しかし、時が経ったからといって大きく変わったとは思えません。それは政治の世界でも同じです。古き良き時代のありさまを懐かしむ人がたくさんいますが、人間という生き物がそんなに変わるものでしょうか。人が変われるのは、新たな文化に接してその道徳観を身につけるときだけです。残念ながら、禁欲的な文化のもとで誠実さが高まるよりも、弱肉強食的な文化の中で不誠実になっていくほうが容易です。しかし政界や産業界をながめてきた中では、30年前とくらべて著しく変わったとは思いません。どちらの世界にも注目に値する抜きん出た人がいます。まさに見習うべき人たちです。

Q. Mr. Buffett, I've been led to believe that you have some musical ability. And, I want to know: Do you still play the ukulele?

A. I play it very occasionally. A year from now, Mrs. B is going to attend, close to her 102nd birthday, the opening of the Rose Blumkin Performing Arts Center in Omaha, which was formerly the Astro movie theater. She bought that theater about 15 years ago, when it was going to be torn down. The reason she bought that theater is that it's the site of one of the first good things that happened to her in this country. Back in the mid-1920's, her daughter, Frances, won a prize there, a five-dollar gold piece for singing "Am I Blue?" And, at the opening a year from now, Frances is going to sing "Am I Blue?" I'll accompany her on the uke.

About my playing the ukulele - I did play it at the Press Club with the Governor. But my next appearance will be at the Astro next fall.

Q. The quality that I value most in any leader is integrity, whether that leader be in business or a leader in government or whatever. Do you feel that leaders in business today and the government do have a high degree of integrity? And, has it declined since you started your business?

A. It's very hard to say. I think the American public thinks it's probably declined as evidenced by polls. My own feeling from a fair amount of exposure to people in a lot of arenas, including political and business, is that the pattern is not terribly different from what you would find in the population. If you take any large group, you will have some kind of bell-shaped curve where you will find a lot of people in the middle, who, under most conditions, will behave well, but when they are in really difficult situations, they won't. You will find people who are just outstanding on the right-hand side of the curve and those are the people who are my heroes, frankly. I don't think it has changed much over the years; that's my impression. I think that's true in politics, too. A lot of people yearn for the good old days and all that sort of thing, but I don't think the human animal changes too much. I think the only way humans change is if they get into a new culture and adopt the mores of that culture. I think it's easier to drop down, unfortunately, if you get into a kind of jungle-type culture, than to move up if you are in some monastic-type culture. But, I don't think that the culture is materially different from what I saw in politics or in business 30 years ago. There are some outstanding people in both, and they're really the ones to focus on and try to emulate.

2014年2月2日日曜日

2013年の投資をふりかえって(8)新規投資銘柄:モザイク

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昨年の新規投資先は3社で、いずれも海外の企業でした。そのうち2社は肥料系の資源会社で、もう1社がCPUメーカーのインテルです。ポートフォリオ中の評価金額が大きい順ということで、今回は肥料会社のひとつモザイク社(The Mosaic Company)を取り上げます。

■モザイク(MOS; The Mosaic Company)

当社はアメリカの肥料会社で、主にカリウム及びリン酸を採鉱・加工・販売しています。この2つの元素はどちらも穀物などの植物を育成するのに不可欠で、窒素と合わせて「肥料の3要素」と呼ばれています。長期的な世界情勢や業界の特性、当社の財務状況や株価の水準を考慮し、当社に投資しはじめました。

<投資に至った背景>
モザイク社固有の話題に入る前に、肥料業界全般それもカリウム肥料についてふれておきます。なお、カリウム関連の話題は過去の投稿でも取り上げています。

POTについて(コメント欄でブロンコさんが解説されています)

1. カリウムとは何か
快適な生活を支えているものは数多くありますが、カリウムなどの肥料もそのひとつです。窒素、リン酸、カリウムは、人間や家畜の食物となる穀物や野菜、果実が生育するのに欠かせない元素です。20世紀からの世界的な人口増加は「緑の革命」があったからこそ達成できたと言われています。化学肥料の大規模な利用もその要因に含まれます。

土壌に施す際のカリウム肥料は化合物(主に塩化カリウムKCl; 食塩にも含まれている)の形態ですが、植物に取り込まれる際には水に溶けたイオン(K+)になります。植物内でカリウムイオンは根の発育を助けて干ばつに強くしたり、光合成を助けることで果実や種子の成長を促したり収率を高めます。反対に、カリウムイオンが不足すると発育不良の原因となります。


[カリウム肥料; モザイク社資料より]







2. カリウムの産出地域
カリウムはイオン化傾向の高い元素で、水によく溶けます。海水中にも含まれていますが、普通の海水からカリウムを取り出すには濃度が低く非効率です。しかし地形的な要因で海水の出入りが止まって水分の蒸発が進むと、塩分が濃集して固形物として堆積します。この中にカリウム化合物も含まれています。そのような条件がそろった場所では、カリウムを経済的に採掘することができます。すぐに思いあたるのがイスラエルの死海やアメリカのグレート・ソルト湖でしょう。しかし地中にあるカリウム鉱床にはもっと大規模なものがあります。ただし先に記したようにカリウムが堆積するには古地形的な条件がそろう必要があり、どこでもできるわけではありません。現在確認されている埋蔵量の90%をカナダ・ロシア・ベラルーシ・ブラジルの4か国が占めています。特にカナダとロシアの埋蔵量が圧倒的です。

[地中にあるカリウム鉱床の断面図;
肌色Potashの箇所が鉱床を示す]

3. 業界における主要企業について
産出地域が偏っていることから、カリウムの生産者も限定的です。主要企業は10社ほどありますが、以下にあげる4社合計で全世界の生産量の約60%を占めています。

a) ウラルカリ(Uralkali; ロシア)
b) ベラルーシカリ(Belaruskali; ベラルーシの国営会社)
c) ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン(PotashCorp; カナダ)
d) モザイク(Mosaic; アメリカ)


この4社は地理的に見て2つのグループに分けられます。上位2社が旧ソ連で、残りの2社はカナダです。この区分けはビジネスの現場でそのまま使われており、それぞれが共同販売会社を設立してマーケティングを行っています。

旧ソ連に位置するウラルカリ社とベラルーシカリ社はBPC(Belarusian Potash Company)として協調し、ポタッシュ社とモザイク社(と他1社)はカンポテックス(Canpotex)として海外向けに共同販売しています。この2つの共販会社は合法的なカルテルとして働くだけでなく、2つのカルテル同士も歩調を合わせてきたようで、強い価格決定力を維持していました。

4. ウラルカリ社の営業戦略転換と現在の状況
しかし2013年7月に、ロシアのウラルカリ社がベラルーシカリ社側の動向を不満とし、共販会社BPCから離脱することを表明しました。ベラルーシ政府が自国のベラルーシカリ社に対してBPCの許可なしに輸出割り当てを付与していると非難したのです。そしてウラルカリ社はそれまでの価格維持政策を翻し、マーケットシェアを重視する政策へ方向転換しました。業界の先行きを不安視した株式市場はすみやかに下落しました。ポタッシュ社の株価は7月29日の37.9ドルから翌々日には29ドルへ(23%下落)、モザイク社は53.21ドルから41.09ドルに下落しました(22%下落)。

物流体制が整備されていなかったベラルーシカリ社に対して、ウラルカリ社は値下げ攻勢をかけ、インドや中国を中心にシェアを拡大した模様です。

ベラルーシ政府にとってカリウムの輸出は外貨を獲得できる重要な手段です。それを封じ込められるのは死活問題と、ベラルーシ政府自身が行動に移りました。昨年末までの半年間はベラルーシ政府だけでなく、ロシア政府もまきこんだ生ぐさい局面がつづきました。その詳細はここではふれません。カリウムのスポット価格も漸減し、300$前後の水準まで下落しました。しかし局面を変える打開策がとられ、最新の報道では両社の抗争は落ち着きをみせており、よりを戻すという観測もでています。

このように昨年2013年は後半からカリウム業界の見通しが悪化し、各社の業績は低迷しました。その状況からどこまで回復できるのか、今年も目が離せない状況がつづきます。

5. カリウム事業の魅力
上記では供給側企業の現状をあげましたが、ここからは主に需要側の観点をとりあげます。カリウム肥料の需要拡大要因として次のようなものがあげられます。

a) 人口増大
国連の推計では世界人口は現在の70億人から2050年には90億人超へ増加すると見込まれています。年平均換算で約0.9%の増加です。穀物に対する需要もこれに伴って継続的に増加する可能性が非常に高いと思われます。

b) 肉食型食生活への変化
生活水準が向上すると、穀物主体の食生活をおくっていた人が肉食の割合を高める傾向は一般的にみられます。穀物消費の観点からみると、人間が穀物を直接摂取するよりも家畜を育てて肉として摂取するほうがより多くの穀物を費やします。上の項目と同様に、穀物需要の増加は肥料需要の増加につながります。

c) 耕作可能地の減少
人口増加やその他の要因によって1人当たりの耕作地面積は減少傾向にあり、残された耕作地において単位面積当たり収穫量を向上させることが要求されます。特に中国やインドでは相対的に窒素が過剰に施肥されており、単収改善が真剣な課題になってくれば、肥料の質という意味でもカリウムの利用が伸びると予想されています。

d) 気象等による災害
干ばつ、低温、日照不足、水害、台風、降灰などの災害は、収穫を一時的に減少させうる要因です。これらは穀物価格や在庫水準に影響し、間接的に肥料の需要を高めます。

e) バイオ由来燃料の利用促進
穀物生産の盛んなアメリカやブラジルを中心に、今後もバイオ・エタノールの利用が見込まれています。

f) 新規参入が限定的であること
「想定されるリスク」の項目でも取りあげますが、新規参入する競合は皆無ではないにしても、限定的だと思われます。一からの鉱山開発には投下資本が莫大にかかるだけでなく(たとえば2Mtあたり5000億円)、生産開始までの期間も長期にわたるため(たとえば7年間)、資本力と安定した経営基盤が求められるからです。

上にあげた要因は一般に知られているもので、特に新しい指摘ではありません。ここで個人的に重要と考える点は、これらの要因は独立して働くものでなく、協調して同じ方向へと向かう可能性があることです。人間社会において科学技術が継続的に発展してきた結果、生産性が上昇して生活水準が向上したり人口増加をうながすと共に、自然環境に影響を及ぼしてきました。この潮流がつづけば、チャーリー・マンガーの言う「とびっきりな効果」が生まれる可能性が高まると予想します。あるいは、すでに起こっているのかもしれません。これらの傾向は長期的なもので、仮に頂点に達するとしても時間がかかると思われます。カリウムの商売に投資するというのは、そのような長期的な波に乗って進むことと捉えています。

<当社の説明>
当社は2つの会社が合併して2004年に設立されました。合併元企業は、食品コングロマリットのカーギルから分離した肥料部門と、肥料会社IMCグローバルでした。現在、主力の事業は2つあります。売上げ規模が小さいほうがカリウムで、大きいほうがリン酸肥料です。ただし利益率はカリウムのほうが高水準です。


カリウム生産の主力拠点はカナダのサスカチュワン州で、リン酸はアメリカのフロリダ州です。中国やインドにも輸出していますが、現時点の当社の主要な市場は北米及び南米です。特に成長著しいのはブラジルで、同国における物流体制を強化している最中です。

<株価の動向>
年初段階で55.21$、年末には47.27$と、14.4%の下落でした。1月31日(金)現在の株価は44.66$です。


<当社に対する投資方針>
7月末に株価が暴落してから情報を収集・検討したので、購入しはじめたのは2013年の秋になってからです(上図の赤矢印)。ポートフォリオに占める現時点の投資規模は、準主力級です。平均購入単価は46$前後で、現在は含み損です。現在の株価水準であれば、もう少し買い増したいと考えています。

カリウム鉱山会社への投資を考える際には、まずポタッシュ社(POT)が思いつくかと思います。低コスト操業でいて、かつ同業他社にも資本参加しており、利益の絶対額と利益率のどちらも高水準です。また余剰の生産能力が大きく、急激な増産局面があれば利益を享受できる会社です。さらには配当利回りも4%台半ばと魅力的です。一方の当社は相対的に利益水準の低いリン酸が売上高ベースで最大の事業であり、投資対象としてポタッシュ社より見劣りがします。しかし、以下の理由をふまえて当社を選びました。

1. カリウム業界における余剰生産能力
数年前にカリウム・ブームが起こったこともあり、各社は余剰の生産能力を有しています。増産投資もつづいています。そのため、たとえば10年先の需給予測をみても現在と同じ比率で生産能力に余剰があることが予測されています。さらには新規に参入してくる業者として、BHPビリトン(英豪)及びユーロケム(ロシア)が見込まれています。このような状況で、能力拡大に向けた再投資はしにくいものです。そのため、ポタッシュ社のとる余剰利益分の資本政策としては再投資ではなく、配当か自社株買いか借入金返済に使われる可能性が高いと予想します(窒素事業やリン事業に再投資する可能性もあります)。一方で当社の最大規模の事業はリン酸ですが、カリウム業界ほど集約されていないため、事業拡大の余地が相対的に残されています。つまりカリウムで稼いだ資金をリン酸に回す、という資本配分が期待できます。他業界とくらべてみれば、リン酸事業自体の利益率はひどいというほどではないため(直近3年間の営業利益率の平均は15%)、規模を拡大して利益の質と量を追求する価値はあると思います。

2. ブランドの構築
当社はコモディティー事業に甘んじることなく、高付加価値化をはかって製品ブランドを構築しています。現在はリン酸肥料について主に北米市場で展開し、成功をおさめています。カリウムについても今年度から取り組む予定で、事業展開の方向性として評価できます。

3. 原価低減の見通し
当社のカリウム事業における利益率が他社とくらべて相対的に低いのは、坑内における塩水(かん水)対策費用がかかっているためです。この問題を抜本的に解決するために主力鉱区で新規の縦坑(K3)を開発中です。稼働開始は2017年を予定しています。塩水対策を要する設備を停止してK3で生産を代替させることになれば、現状のカリウム事業の粗利益率が10%程度改善される模様です。

4. 余剰資金の使途
ポタッシュ社とくらべて当社が優位な点は財務です。これはカーギル一族等が保有する株式を買い取るために留保しておいたもので、余剰資金が約2000億円あります。また今後も一族の持ち分買戻しが残されています。そのため資本の有効活用という観点では、当社は「買戻しがつづく数年間は、株価が低迷するほど既存投資家に有利」な状況です。

<想定されるリスク>

1. 他社との競争の激化
ウラルカリ社のシェア重視政策がひきつづき継続され、利益を削る消耗戦に引きずりこまれる恐れがあります。しかしウラルカリ社は借入金の比率が高く、今回の騒動が始まる前の2013年度上半期時点でインタレスト・カバレッジ・レシオが3倍未満でした。新興資本家が大株主のためか配当金支払いも欠かせなく、利益のあがらない値下げはいつまでもつづかないとみています。

一方、数年後にはBHPビリトン社やユーロケム社の新規参入が予想されています。また中国系の企業も生産量を増やしています。市場価格が一定以上であれば(たとえば平均400$/t)、それら企業の参入や能力増強は不可避とみます。そのため長期的にみても供給がひっ迫する可能性は小さく、カリウムの市場価格が高騰する場面があったとしても、その価格幅は以前よりも小さくなると予想します。カリウムの市場価格高騰が長くつづき、それに伴って当社の株価も上昇しつづける可能性は、個人的にはほとんど想定していません。

2. 肥料価格の低迷
他社との競争状況が現在と変わらないままでも、市場価格が現在と同水準のまま推移する恐れがあります。しかし、これは実現しにくいと考えます。肥料価格は穀物価格との連動性が高く、その相場に影響されがちです。穀物の生産活動自体に周期性がある以上、需給にタイムラグが生じることになり、穀物価格もある種周期的に変動しつづけると思います。

仮に穀物の価格が低位安定するようであればマクロ的にみた余剰分が別の産業(工業など)に回り、発展を加速させます。ひいては、それらの産業における企業の価値向上につながります。ポートフォリオの一部としてたとえば工業セクターの企業にも投資しておけば、当社のような資源系企業への投資と補完的に働くことが期待できると思います。

3. 環境規制の強化
当社のリン鉱山の主力はアメリカのフロリダ州にあり、環境規制が多く、現在も何件か起訴されています。採鉱停止や和解金・補償金を要求される可能性がますます高まる恐れがあります。しかしリンも食糧面の安全保障上重要な元素であるため、業界トップの当社に一定の責があるとしても連邦政府や裁判所は現実的な水準(たとえば和解金の数割増し)で手を打つのではないでしょうか。なお、当社としても環境保全の対応は継続して実施しています。また現段階で負債に計上されている環境対策引当金の総額は600億円程度(総資産の約5%)です。