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2012年9月7日金曜日

ルー・シンプソンの5つの投資原則

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最高経営責任者バフェット』は10年ぐらい前に出版された本で、バークシャー・ハサウェイの子会社で活躍する経営者たちの仕事ぶりや横顔を描いたものです。あまり表舞台に出てこないルー・シンプソンも、ここではインタビューに応じています。今回は同書から、ルーがとっている投資上の5つの原則をご紹介します。

1. 独自に考える
「人気のない企業でもおろそかにはしません。それどころか、こうした不人気株こそ絶好の機会を提供してくれることが多いものです」

2. 株主志向の経営を行っているハイリターン型の企業に投資する
「長い目で見れば、株価はROE(株主資本利益率)、つまり、株主の投資した資金に対して企業がどのくらい利益を上げたかに連動して上昇していきます」

「儲けている企業の経営者は往々にして余剰資金を大して収益性もない新規事業に使ってしまうものです。しかし自社株買いは多くの場合、余剰資源の有効活用にはるかに役立ちます」

3. 優良企業でも値ごろ感がなければ買わない
「どれほど素晴らしい企業であっても、購入価格については規律を守るようにしています」

4. 長期的な展望を持って投資する
「株主志向で経営されている優良企業の株は、長期的には市場平均を上回るリターンをもたらしてくれる可能性が十分にあります」

5. 過度な分散投資は控える
「良い投資案件、つまり基準を満たすような企業はなかなか見つかるものではありません。ですから、これと思えるものを一つ見つけたら、大きく買いに出ます。ちなみに、GEICOの株主ポートフォリオでは持高上位5銘柄だけで保有株式全体の50%を超えています」(p.96)


参考までに、ウォーレン・バフェットが挙げる項目は過去記事「10秒ください」などで取り上げています。

もうひとつおまけです。文中で登場するGEICO時代のルーのオフィスは「サンディエゴ郊外の山中にあり、周囲には大きなお屋敷や乗馬道、ゴルフコースがある。不動産仲介業者、銀行、投資顧問業者、証券会社が立ち並ぶ一風変わったこの村(p.86)」とありますが、Google Mapsではこのあたりでしょうか(住所はこちら)。いまはメリルリンチの支店が入っているようです。となりはモルガン・スタンレーで、そのとなりはバンカメですね。

2012年9月5日水曜日

ルー・シンプソンのその後

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バークシャー・ハサウェイの損保子会社GEICOで、長年にわたって株式運用に携わっていたルー・シンプソンは、2010年に同社を引退しました。ウォーレン・バフェットは自分のリリーフとして彼を指名していましたが、70歳半ばになる彼としては思うところがあったのかもしれません(過去記事)。

ところがどうやら完全には引退していなかったようで、少し前に投資関連のサイトdataromaを閲覧していたところ、ルー自身のファンドが活動していることを知りました。ファンドの名称はSQ Advisors, LLCで(概要はこちら)、EDGARを検索してみるとたしかに所有株式の現況(13F-HR)が提出されていました(こちら)。登録上の所在地はフロリダのネイプルズ、裕福な引退者の街です(Google Mapsはこちら)。

また天然ガスの大手企業チェサピーク・エナジーの取締役も務めているとのことです(略歴はこちら)。

会いたかった昔の友人と再会できたような気分です。ルーの話題はもう少し続きます。

2012年9月4日火曜日

誤判断の心理学(14)剥奪に過剰反応する傾向(チャーリー・マンガー)

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今回ご紹介する引用では、チャーリー・マンガー自身の投資上の失敗例も取り上げられています。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その14)剥奪されることに過剰反応する傾向
Fourteen: Deprival-Superreaction Tendency

人が10ドルを手に入れて感じる喜びの大きさと、10ドルを失って感じる不快の大きさは、ちょうど同じにはなりません。得ることで感じる喜びよりも、失うことで傷つくほうがずっと大きいのです。すごくほしかったものがまさに手に入ろうとしたときに、最後の最後で逃げてしまう。そういうことがあると、人はずっと自分のものだったものを失くしてしまったかのようにふるまうでしょう。よくある2種類の喪失体験、所有していたものをなくす場合と、あと少しで手にできたものをなくす場合。ここではまとめて「剥奪されることに過剰反応する傾向」と呼ぶことにします。

The quantity of man's pleasure from a ten-dollar gain does not exactly match the quantity of his displeasure from a ten-dollar loss. That is, the loss seems to hurt much more than the gain seems to help. Moreover, if a man almost gets something he greatly wants and has it jerked away from him at the last moment, he will react much as if he had long owned the reward and had it jerked away. I include the natural human reactions to both kinds of loss experience - the loss of the possessed reward and the loss of the almost-possessed reward - under one description, Deprival-Superreaction Tendency.


かつてマンガー家では、人なつこくて気性のよい犬を飼っていたことがありましたが、「剥奪されることに過剰反応する傾向」の犬バージョンをみせてくれました。この犬に噛み付かせる方法は一つしかありませんでした。そう、口にくわえた食べ物を取り返すのです。すると、よくなついた犬だというのに反射的に噛み付いてきました。こればかりはどうしようもなかったようです。自分の主人にかみつくほど愚かな犬はいないのですが、とめられないのですね。おのれの性分として「剥奪されることに過剰反応する傾向」が組み込まれているからです。

人間もまた、このマンガー家の犬とよく似ています。人はたいてい価値あるものなら何でも、たとえば財産、愛、友情、占有している領域、機会、地位といったものですが、そういったものをほんのわずかでも損をしたり損が出そうになると、理不尽なまでに反応するものです。当然のことですが、官僚がなわばり争いをするような内輪もめは、組織全体で見れば莫大な損失をもたらしかねません。GE社内の官僚主義をぶちこわすために、なぜジャック・ウェルチが長きにわたって戦ってきたのか、その知恵の深さがわかるでしょう。ビジネスの世界でも、そのような賢明な行動をつかさどる指導者はほとんどいませんでした。

The Mungers once owned a tame and good-natured dog that displayed the canine version of Deprival-Superreaction Tendency. There was only one way to get bitten by this dog. And that was to try and take some food away from him after he already had it in his mouth. If you did that, this friendly dog would automatically bite. He couldn't help it. Nothing could be more stupid than for the dog to bite his master. But the dog couldn't help being foolish. He had an automatic Deprival-Superreaction Tendency in his nature.

Humans are much the same as this Munger dog. A man ordinarily reacts with irrational intensity to even a small loss, or threatened loss, of property, love, friendship, dominated territory, opportunity, status, or any other valued thing. As a natural result, bureaucratic infighting over the threatened loss of dominated territory often causes immense damage to an institution as a whole. This factor, among others, accounts for much of the wisdom of Jack Welch's long fight against bureaucratic ills at General Electric. Few business leaders have ever conducted wiser campaigns.


賭けたいという思いをとめられず、破滅に向かってしまう。そのような事態に導いてしまう大きな要因のひとつが「剥奪されることに過剰反応する傾向」なのです。たとえば損失に嘆くギャンブラーは、損をするほどにさらに賭けたいと考えてしまうものです。また賭けごとでいちばんハマる例が「あと少しだったのに」が続くときで、惜しい目が出るたびに「剥奪されることに過剰反応する傾向」が呼び起こされます。スロットマシンのメーカーは人の弱みをとことんさぐり、たとえば機械が電子化されたことを利用して「7=7=チェリー」のような、実は意味のない並びを連発させられるようになりました。このおかげで、あと少しで大当たりだったのにと考えるおバカさんがゲームをやめられずに続けることが、ぐっと増えたのです。

Deprival-Superreaction Tendency is also a huge contributor to ruin from compulsion to gamble. First, it causes the gambler to have a passion to get even once he has suffered loss, and the passion grows with the loss. Second, the most addictive forms of gambling provide a lot of near misses and each one triggers Deprival-Superreaction Tendency. Some slot machine creators are vicious in exploiting this weakness of man. Electronic machines enable these creators to produce a lot of meaningless bar-bar-lemon results that greatly increase play by fools who think they have very nearly won large rewards.


ここからが、チャーリーの失敗談です。

ここで教訓を残しておきたいので、私自身の大失敗をお話しします。この失敗は、「剥奪されることに過剰反応する傾向」が無意識に働いたことも一因となって起こったものです。ある仲のよい株式ブローカーが電話をくれました。ベルリッジ・オイルという会社の株を300株どうかと言うのです。提示された値段は115ドル、ごくわずかしか取引されていない銘柄だったのですが、とんでもないほど割安でした。私は手持ちの現金があったので買うことにしました。ところが次の日です。今度は同じ値段で1,500株買わないかと持ちかけられました。しかし私はその話を断ってしまったのです。何かを売るかお金を借りるかしないと17万3千ドル[現在価値で4,200万円]を用意できなかったという事情もあったのですが、この決断は実に非合理なものでした。私は無借金で余裕がありましたし、損失を出すリスクもなかったのです。そのようなリスクなしの機会が再びやってくるとは思えませんでした。それから2年後のことです。ベルリッジ・オイルはシェル石油に買収されることになりました[1979年]。1株あたり3,700ドルの取引だったので、私がもっと鋭敏だったらと考えると540万ドル[13億円]損したことになります。この逸話が言わんとするのは、心理学の面で無知なままだとひどく高くつくこともあるよ、ということです。

I myself, the would-be instructor here, many decades ago made a big mistake caused in part by subconscious operation of Deprival-Superreaction Tendency. A friendly broker called and offered me 300 shares of ridiculously underpriced, very thinly traded Belridge Oil at $115 per share, which I purchased using cash I had on hand. The next day, he offered me 1,500 more shares at the same price, which I declined to buy partly because I could only have made the purchase had I sold something or borrowed the required $173,000. This was a very irrational decision. I was a well-to-do man with no debt; there was no risk of loss; and similar no-risk opportunities were not likely to come along. Within two years, Belridge Oil sold out to Shell at a price of about $3,700 per share, which made me about $5.4 million poorer than I would have been had I then been psychologically acute. As this tale demonstrates, psychological ignorance can be very expensive.

2012年9月3日月曜日

ワシントンDCを水没させるには

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少し前の投稿で南極の氷の話題を取り上げましたが(過去記事)、最近読んだ本『2050年の世界地図―迫りくるニュー・ノースの時代』では地球温暖化による「氷の崩壊」のほうを取り上げていたのでご紹介します。

非常に懸念されるのは、西南極氷床の崩壊だ。この広大な一帯は海にせり出す氷のミニチュア大陸のようで、大部分は海面の下にある岩盤まで凍っている。この氷床が崩壊すれば、非常に多くの南極の氷河が海へ向かって進みはじめ、最後には世界の平均海面をおよそ5メートル上昇させる。過去にも同じことが起きたという地質学的証拠があり、再び起きるとしたら、とくにアメリカは打撃を受けるだろう。さまざまな理由で、世界の平均海面の上昇は、どの海域でも同じように上昇するわけではない--平均より上昇するところと、平均を下回るところが出てくる。そうした氷床の崩壊は、メキシコ湾岸と東海岸を平均以上に浸水させ、マイアミ、ワシントンDC、ニューオリンズ、およびメキシコ湾岸の大半を水没させるだろう。気候の魔物という話になると、西南極氷床はその魔物が潜む醜いランプだ。(p.307)


本書では地球温暖化によって変わりゆく北方諸国の将来をテーマとしていますが、話題が多岐にわたっていて、人口問題、資源・エネルギー問題、水問題、少数民族問題なども取り上げられています。なお、この手の本をたびたび読む理由は、食糧関連の投資先をみつけたいという思いもあるからです。ジェレミー・グランサム(過去記事)やジム・ロジャーズといった投資家の影響を受けています。

2012年9月1日土曜日

華麗なる経営者(チャーリー・マンガー)

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経営者の素養に関わる話題が続きます。今回のチャーリー・マンガーも、少し前のウォーレン・バフェットとそっくりなことを言っています(過去記事)。以前に「誤判断の心理学」で「(その12) 自尊心過剰の傾向」をとりあげましたが、その際にご紹介しなかったくだりです。(日本語は拙訳)

行き過ぎた自尊心ゆえに、誤った人材採用をしてしまう例がみられます。採用する側は自分の下した結論をひどく過信するものですが、その判断には面接時の相手の印象が大きく影響するからです。この種の軽率さを避けるには、面接時の印象には重きをおかず、そのかわりに応募者のこれまでの実績を重視することです。

私がある大学の人事委員会で委員長をしていたときに、この方針を正確に実行したことがあります。私はフェロー推薦委員会のメンバーに対して、これ以上の面接は行わないよう説得しました。そして単純に、応募者の中でいちばんよい実績を残してきた人を採用するようにしたのです。大学自治の適正手続きに従っていないのではと聞かれたら、こう答えています。学術の持つ価値を忠実に守っているだけです、と。というのは、将来を予測するには面接時の印象ではお粗末であることを、学術的な研究が示しているからです。

人間というのは本質的に、面と向かって話す際に自分が能動的に関わっていると、そのときの印象に大きく影響されやすいものです。現代社会における経営者探しのような場ともなると、これが原因で大きな危険につながることがよくみられます。それは、見事なプレゼンテーションを披露する者が候補者の中に現われるときです。私のみたところではヒューレット・パッカードがそのような危機に直面しました。同社は新たなCEOを探し求めて、能弁で活力あふれるカーリー・フィオリーナをインタビューしたのです。ヒューレット・パッカードにとってフィオリーナ女史を選んだのは誤った決断だったと思います。また心理学にもっと通じていれば、予防的な手順を踏み、そのような悪手は打たなかっただろう、と考えています。

Excesses of self-regard often cause bad hiring decisions because employers grossly overappraise the worth of their own conclusions that rely on impressions in face-to-face contact. The correct antidote to this sort of folly is to underweigh face-to-face impressions and overweigh the applicant's past record.

I once chose exactly this course of action while I served as chairman of an academic search committee. I convinced fellow committee members to stop all further interviews and simply appoint a person whose achievement record was much better than that of any other applicant. And when it was suggested to me that I wasn't giving “academic due process,” I replied that I was the one being true to academic values because I was using academic research showing poor predictive value of impressions from face-to-face interviews.

Because man is likely to be overinfluenced by face-to-face impressions that by definition involve his active participation, a job candidate who is a marvelous “presenter” often causes great danger under modern executive-search practice. In my opinion, Hewlett-Packard faced just such a danger when it interviewed the articulate, dynamic Carly Fiorina in its search for a new CEO. And I believe (1) that Hewlett-Packard made a bad decision when it chose Ms. Fiorina and (2) that this bad decision would not have been made if Hewlett-Packard had taken the methodological precautions it would have taken if it knew more psychology.