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2012年6月30日土曜日

集団を頼るよう隠れた脳が指令する

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前々回にご紹介した『隠れた脳』から、今回は集団行動に関する話題を引用します。

進化の歴史を見れば、集団でいるほうが、安全が保たれる。ときとしてそれが裏目に出る場合もあるが、私たちの脳は、総合的にうまくいく手段がわかるよう進化しているし、進化で身につけた自己保存のための本能は、必然的に単純である。警報が鳴ると不安が引き起こされ、集団を頼るよう隠れた脳が指令する。それは私たちの祖先の時代から、集団でいたほうが危険にさらされる可能性が低く、安心と安全が手に入りやすかったからだ。

しかし今の時代、集団でいる安心感を優先すると、個人が危険にさらされるケースが以前より増えた。それは現代の危険があまりにも複雑で、一体何が起こっているのか、誰にもわからない場合が多いからだ。私はここで、集団の行動は常に間違っていると言いたいわけではない。集団は誰も気づかないうちに、個人の自主性を奪ってしまうことがあると言いたいだけだ。同僚たちは間違っているかもしれないが、彼らについていくほうが、自分で考えて行動するよりはるかに楽だ。集団は安心を与えてくれる一方、自主性は不安を引き起こす。しかし災害に巻き込まれた状況では、不安こそが正しい反応なのだ。根拠のない安心は死を招きかねない。
(p.168)


ちなみに、上に挙げた引用が登場する場面では、911アメリカ同時多発テロ事件のときにWTCで働いていた人たちを取り上げて、何が生死をわけたのか考察しています。

2012年6月29日金曜日

レストランを品定めするように(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその5「株式を買う際には、優良企業の中から割安なものを選びなさい」の説明文です。引用元はこちらです。(日本語は拙訳)

どういう企業であれば質が高いといえるのでしょうか。例えば、成長市場で売上のリーダーとして足場を固めていたり、技術革新を要する分野において技術面でリードしていたり、過去の実績に裏付けられた強力な経営陣がいたり、新規市場に最初に踏み入れた企業の中でも十分な資本を有していたり、有名かつ信頼のおけるブランドで消費者向け製品を提供して高い利益を得ている、といった企業があてはまるでしょう。

当然ですが、そういった様々な「質」を個別に考えるべきではありません。たとえば、低コストが売り物の企業であっても、自社の製品が顧客の望むものではなくなっていたら、質の高い株とはいえません。同様に、ある技術面でリードしていても、事業を拡大したりマーケティングを進めるのに必要な資本が不足していれば、あまり意味がないのです。

株の質を見極めるには、レストランを品定めするように考えるとよいでしょう。完全無欠というのは難しいですが、優れたところがなければ3つ星や4つ星はあげられない、といった具合です。

Quality is a company strongly entrenched as the sales leader in a growing market. Quality is a company that's the technological leader in a field that depends on technical innovation. Quality is a strong management team with a proven track record. Quality is a well-capitalized company that is among the first into a new market. Quality is a wellknown trusted brand for a high-profit-margin consumer product.

Naturally, you cannot consider these attributes of quality in isolation. A company may be the low-cost producer, for example, but it is not a quality stock if its product line is falling out of favor with customers. Likewise, being the technological leader in a technological field means little without adequate capitalization for expansion and marketing.

Determining quality in a stock is like reviewing a restaurant. You don't expect it to be 100% perfect, but before it gets three or four stars you want it to be superior.


アメリカのファンド・マネージャーは、しばしば「質が高い」(high quality)という表現をします。本ブログでもgonchanさんがコメントして下さっていますが(過去記事)、具体的に何をさしているのだろう、とわたしも気にはなっています。今回ご紹介したテンプルトン卿は大御所だけあって漠然とした感もありますが、噛みしめてみるとなかなか味わい深いですね。

2012年6月27日水曜日

気づかぬ間にオートパイロットが働いている

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以前とりあげたセス・クラーマンの話題の中で、「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている」とする心理学者ダニエル・カーニマンの主張がありました(過去記事)。最近読んだ本『隠れた脳』が、これを主題としていたのでご紹介します。題名から想像できるように、主にシステムその1の働きに焦点をあてています。

今回は、隠れた脳とはどういうものかを説明した箇所を引用します。

なぜ人間は意識的な脳と、隠れた脳の両方を持っているのか、説明する方法はいくつもある。一つ例をあげてみよう。わたしたちの経験には二種類ある。新しい経験と、繰り返されるおなじみの経験だ。意識的な脳は合理的で、慎重で、分析的なので、新しい状況に対処するのが得意だ。しかし状況を理解し、問題を解決するルールを見つけたら、その経験をするたびに考え込む必要はない。見つけたルールを使って、機械的に対処すればよい。こうした作業には、隠れた脳のほうが向いている。決まった作業を効率よく行うため、頭の中で思考の近道をすることをヒューリスティックスというが、隠れた脳はこのヒューリスティックスの達人である。スキルを身につけるということは、たいていの場合、隠れた脳にひとまとまりのルールを教えるということなのだ。初めて自転車に乗るときは、倒れないよう意識を集中しなければならない。しかしバランスを取るためのルールをいったん覚えたら、あとは隠れた脳に作業をすべて任せてしまえばいい。考えなくても、自然にできるようになるのだ。言葉についても同じで、新しい言葉を覚えるときは、一つ一つ単語を覚えたり文法を勉強したりしなければならないが、マスターすれば、苦労して単語を思い出したり、正しい文法を考えたりはしない。 (p.26)

隠れた脳は効率を重視するため、正確さは二の次になるとも述べています。

つづいて、意識にあらわれている脳と隠れた脳が並んで働く場合について。

自分の意見を言えと指示されると、頭の中で意識的な脳と隠れた脳が対峙して議論を始めるが、勝つのは常に意識的な脳だ。理論的な分析は、幼稚なヒューリスティックよりも強いからだ。意識的な脳がパイロットだとすれば、隠れた脳はオートパイロット機能である。パイロットは常にオートパイロットより優先するが、パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる。 (p.109)


「パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる」とありますが、チャーリー・マンガーであればもっと厳密に書くのではないでしょうか。「パイロットが気づかぬ間にオートパイロットが働いている」と。つまり、注意しているつもりでも隠れた脳が働くということです。

われわれが失敗をふりかえるとき、「それは想定していなかった」とか「そこまで読めなかった」とか「そもそもの仮定が間違っていた」といった声をあげるものです。頭の中でオートパイロットが働いて近道をしたということですね。それ以前に経験不足ということもあるでしょう。ささいなことならともかく、影響が大きいときにはひと悶着の始まりです。当たり前のことですが、影響が大きい意思決定を行なう際にリスクを下げるには、オートパイロットがおかす誤りをみつけてくれる仕組みが望まれるでしょう。そういえばウォーレン・バフェットも、自分の誤りを指摘してくれるパートナーのことをいつも自慢していますね。

最後になりますが、本書では、実際に起きた各種のできごとを題材に取り上げて話題を展開しながら、隠れた脳がどのように働いているかを検証・考察しています。著者がワシントン・ポスト紙のライターというだけあって、選んだ素材だけでなく、話しの進め方も上手です。翻訳もなめらかです。個人的には惹き込まれた一冊でした。

2012年6月26日火曜日

あなたが秀才かどうかはどうでもよい(リチャード・ファインマン)

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仮説・検証とくれば、昨今はコンサルタントの専売特許のような感もありますが、肩肘張らずに考えれば子供でも自然にやっていることですね。先日ご紹介したファインマンの『物理法則はいかにして発見されたか』でも、科学者が新法則を探す際の手順として触れていますのでご紹介します。

一般にいって、私どもはつぎのような手順で新しい法則を捜すのです。初めに推測によってある仮説をたてる。つぎに、それにもとづいて計算を行ない、その仮説からの帰結を調べます。つまり正しいと仮定した法則から何が出るかを見るのです。その計算の結果を自然、すなわち実験、経験につき合わせる。観測と直接に比較してうまく合うかどうかチェックいたします。もし実験と合わなければ、当の仮説は間違いである。この単純きわまる宣言のなかに科学の鍵はあるのです。仮説がどんなに美しかろうと、それは問題ではありません。あなたが秀才かどうか、これはどうでもよい。だれが仮説をたてたか、名前はなんというのか、これも関係ない。もし実験に合わないならば、その仮説はまちがいなのです。これがすべてであります。 (p.239)


こちらはおまけです。「なにが科学的なのか」という命題に対して、やわらかく答えています。ファインマンらしい表現が登場していて楽しい一幕です。

科学畑でない人々は、仮説をたてたり推測をしたりするのを非科学的と思っていることが多いようですが、それは誤りです。何年か前に、私はある街のおやじさんと空飛ぶ円盤について話し合いました。私は科学者だから円盤のことをなんでも知っていると思われたのです! 「空飛ぶ円盤なんてあるとは思いませんな」と私は言いました。おやじさんはこれに反抗して、「空飛ぶ円盤はありえないって? あんた、その証明ができるのかね?」「いや、証明はできません。」私は答えました。「きわめてありそうもないことだと思うだけです。」これを聞くとおやじ、「あんた非科学的だな。証明ができないのに、ありそうもないなんて、どうして言える?」でも、科学的とはこういうことなのです。何がありそうか、何がありそうにないか、これだけ言うのが科学的なので、ことごとに可能か不可能かを証明することではありません。あのとき、おやじにこう言ってやれば私の考えが明確に伝わったかもしれない。「現にこの私をとりまいている世界のことならいくらか知識もあるつもりですが、それから考えると、空飛ぶ円盤を見たという報告は地球人の例のいかれた頭の産物のようです。いかれ加減は既知ですからな。地球外の未知の頭脳の合理的な努力の産物というのよりも、はるかにありそうなことです。」よりいっそうもっともらしく思われるーそれだけのことなのです。 (p.254)

2012年6月25日月曜日

自社株買いの利点(マイケル・モーブッシン)

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少し前にご紹介したレッグ・メイソンのストラテジストであるマイケル・モーブッサンが新しいレポートを書いていました。題名は「自社株買いをあらゆる方向からさぐる」(Share Repurchase from All Angles)。前回とりあげたウォーレン・バフェットの引用(過去記事)は、実はこの文章の中に登場していたものです。

今回は、企業の経営者は自社株買いをどのように考えるべきか触れている箇所をご紹介します。なお、このレポートの前半では自社株買いと配当の長短比較もされています。(日本語は拙訳)

自社株買いをしようとする経営陣は次の原則に従わなければなりません。「想定される企業価値より安い値段で買うことができ、なおかつこれに勝る投資の機会が他にない場合に限る」。このきまりの前半では、経営陣は既存株主の価値を最大化する道を模索すべしとしています。後半のほうは優先順位を説いたもので、設備投資や買収といった他の事案とくらべて自社株買いのほうが有利な理由をはっきりさせよとしています。

事業に投資するよりも自社株買いのほうが望ましい時があるのですが、ほとんどの経営者はこの考えに耳を傾けようとしません。というのも、ビジネスを大きくすることが最大の使命と考えているからです。しかし、成長をめざすことが既存株主の長期的価値を最大化させるという目的と合わないこともあります。現にそういう例が見受けられるものです。ほとんどの場合、企業は資本コスト以上の利益が得られるよう事業に資金を投じることで価値を生み出しています。そういった企業活動を通じて価値をつくりだすことが一番重要なのは、たしかにそのとおりでしょう。しかし、既存株主の利益になるという意味では、自社株買いを上手に実施することも理にかなった重要な施策なのです。

自社株買いは企業買収よりも望ましいことがあります。ほとんどの買収案件では、買い手からみると損得なしの値段で決着しているからです。結局のところ得られるのは払った金額(コスト込)に近いところとなるでしょう。そうなってしまう理由は単純です。魅力的な資産が売りに出されるといろんな買い手が集まってくるので、シナジー[買収後のリストラ等]から得られる価値の大半は、買い手ではなくて売り手のものとなってしまうのです。そう考えると、経営陣にとって有利になる可能性を秘めているのは、買収よりも自社株買いのほうです。企業買収の場合、まず買収先の事業継続価値を適切に判断してキャッシュフローを予測します。その上で買収先を支配するのに必要な対価として、想定されるシナジーの現在価値を超えない範囲で上乗せして払える金額を検討します。つまり、2つのハードルを飛び越える必要があります。ひとつめは市場で織りこまれた期待にこたえること、もうひとつはシナジーより低いプレミアムを設定すること。それと比べれば、買収先のキャッシュフローより自社のものを見積もるほうが簡単でしょうし、上手に自社株買いをすればプレミアムを払う必要もありません。それどころか、割安料金で株を取得できることもあるのです。

Executives should follow the golden rule of share buybacks: A company should repurchase its shares only when its stock is trading below its expected value and when no better investment opportunities are available. The first part of this rule reinforces the notion that executives should seek to maximize value for the ongoing shareholders. The second part of the rule addresses prioritization and makes clear that executives should assess the virtue of a buyback against alternative investments, including capital spending and M&A.

Buybacks can be more attractive than investing in the business. Most executives don’t want to hear this because they think that their prime responsibility is to grow the business. But the objective of growth can, and often does, come into conflict with the proper objective of maximizing long-term value for ongoing shareholders. In most cases, companies achieve value creation through operations - investments in the business that earn above the cost of capital. And building value through operations should remain their top priority. But properly executed buybacks can provide a legitimate and significant lever to build value for ongoing shareholders.

Buybacks can be more attractive than M&A. Most M&A deals are close to value neutral for the buyer, which means that they earn something close to the cost of capital. The reason is pretty simple: attractive assets typically lure multiple buyers, so most of the value of synergies goes to the sellers than to the buyers. Buybacks offer executives a potential advantage over M&A. In M&A, a company must properly forecast the cash flows of the target as an ongoing business and then attempt to pay a premium for control that is less than the present value of synergies. So a deal must clear two hurdles: deliver on the expectations already in the market and deliver on a positive spread between the synergies and the premium. It may be easier for an executive to assess the cash flows of his own business than the cash flows of an acquisition target. Further, with smart buybacks the company pays no premium - in fact, the company can acquire the shares at a discount.


「他社」を買収するのではなくて「自社」を買収する。そう考えれば、自社株買いの利点がはっきりと理解できます。恥ずかしながら、これほど単純なことに気がついていませんでした。個人的には、今回の文章には目が開かれました。ウォーレンがIBMに入れ込んでいるのも、納得がいきました。