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2012年5月30日水曜日

現金豊富な日本株の問題なところ(FPA)

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ボブ・ロドリゲス率いるファンド会社FPAで国際投資を行っているマネージャーが、モーニングスターのインタビューに応じていたのでご紹介します。話題は割安な日本株についてです。引用元のインタビュー映像(とトランスクリプト)は、A Two-Pronged Approach to Investing in European Stocksです。(日本語は拙訳)

<質問> オークマーク[ファンド]にいたときはアジアの企業をいろいろ対象にされていましたが、FPA International Valueファンドに移ってからはあまり多くは投資していませんね。金融関連の企業と同じように、これも投資に踏み切らない理由が何かあるのでしょうか。

<回答> なるほど、確かにそうですね。アジア株は何年間か追いかけていましたし、日本企業もずっと対象にしていました。日本株はPBRやEV/EBIT倍率がかなり低く、価値の面からみればとても魅力的です。しかしそういった指標が低いのも当然で、かせいだ利益を留保するばかりで、現金が貸借対照表にたまりつづけているからなのです。

経営陣や取締役といった面々と株主の向いている方向が違っているので、割安だと考えて投資するのは問題かもしれません。なぜ現金を寝かしておくかというと理由は単純で、経営陣が株主のために価値を生み出そうとする気がないからです。世界的にみても有力な企業が数多くあるにもかかわらず、経営陣が価値を創出できるかという観点でみると、我々の投資基準には届いていません。資本配分が上手な企業はいくつかはみつかりましたが、あまり割安ではないので、今のところは見送っています。ですが、中期的にはそれらの企業に投資する姿をおみせできるかもしれません。

Davis: In addition to financials, one thing that I do know that when you were at Oakmark, you covered a lot of Asian stocks, but when you look at the [FPA International Value] portfolio, there's not much at all in Asia. So that's an area you're saying no to, as well?

Bokota: That's true; that's interesting. I did spend a number of years covering Asia and a lot of time covering Japan. From a valuation perspective, Japan looks very attractive as it sells at low multiples of price to book value and low multiples of enterprise value to earnings before interest and taxes. And really the commonality there is that the reason these multiples are depressed is because cash has piled up on the balance sheet as companies have not distributed their retained earnings.

The problem that we have with investing in these companies despite their apparently attractive valuations is the lack of alignment between management/board of directors and shareholders. The problem is that management is simply not incentivized to take actions to create value for shareholders, which is why you've seen the cash pile up. So, while there's a lot of well-positioned companies that have globally competitive positions, they don't meet our standards of having management teams which create value. That said, we have identified several high-quality businesses in Japan, which do run the business well from a capital-allocation standpoint. Sadly, they are not cheap enough for us to buy at this time, but it's possible you could see us become invested over the medium term.


個人的には余剰の現預金が多い会社に目がいくほうで、上の指摘は厳しいながら、ごもっともと感じています。それでも自分なりにいくつかの点に気をつけて、そのような会社に投資しています。1点目は、経営者に株主本位の姿勢があるか。具体的には経営者がそれなりに株式を保有しており、自社株買いや増配で株主に報いているかどうかです。株式の保有比率は、過半数を超えていないのが望ましいと考えています。2点目は、留保された資金を有効に使って、会社が着実に成長しているかどうか。細かくはわからないので、過去の経営成績をふりかえって大雑把に判断しています。もちろん、資金を使わないで成長してくれるのであれば、それは一向にかまわないのですが。

蛇足ですが、上記のインタビュー映像に出てくるお二人の対比ぶりが、なんというかほほえましいですね。

2012年5月29日火曜日

誤判断の心理学(10)値段が高けりゃ、品質も一番(チャーリー・マンガー)

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今回ご紹介するのは、「頭で連想したことが、行動を引き起こしてしまう」という、人の持つ傾向です。(日本語は拙訳)

まずは商売に関する話です。

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その10)単なる連想に動かされる傾向
Influence-from-Mere-Association Tendency

心理学者のスキナーが研究した一般的な条件反射のひとつに、昔に経験した良いできごとがきっかけとなって行動を引き起こすものがあります。たとえば、あるブランドのクリームを使って靴を磨いた人が、その靴をはいて出かけたときに何かうれしいことがあったとしましょう。すると、それが報酬となり、靴用クリームが次に必要になったときにも同じものを買い求めるのです。

しかし、単に連想したことが条件反射的にそのまま行動に結びつくこともあります。たとえば、同じような商品が並んでいると、値段が最も高いものが品質も一番だと考えてしまう人はけっこういるはずです。前もそうだったから、という連想ですね。これに乗じて、平凡な製品を扱う業者でも、商売を大げさに見せることでかなり高い値段をつけてくることがあります。品質を重視する顧客ならば、値段が高いのはそれなりの理由があると考えるだろう、というわけです。産業界ではこのやりかたが売上につながり、利益を大きく押し上げてきました。たとえば電動工具業界では、長期間にわたって高値販売が成功してきました。油井の深部で使われる高価なポンプは、これからもうまくいくでしょう。高級品業界では、このやりかたが特段の効果を発揮しています。高価な商品を買えるということは、製品の風合いを楽しめるだけでなく、それだけのお金が払えるところを他人に見せることができます。つまり、商品を買った人は二重の意味でステータスを誇示できるのです。

In the standard conditioned reflexes studied by Skinner and most common in the world, responsive behavior, creating a new habit, is directly triggered by rewards previously bestowed. For instance, a man buys a can of branded shoe polish, has a good experience with it when shining his shoes, and because of this “reward,” buys the same shoe polish when he needs another can.

But there is another type of conditioned reflex wherein mere association triggers a response. For instance, consider the case of many men who have been trained by their previous experience in life to believe that when several similar items are presented for purchase, the one with the highest price will have the highest quality. Knowing this, some seller of an ordinary industrial product will often change his product's trade dress and raise its price significantly hoping that quality-seeking buyers will be tricked into becoming purchasers by mere association of his product and its high price. This industrial practice frequently is effective in driving up sales and even more so in driving up profits. For instance, it worked wonderfully with high-priced power tools for a long time. And it would work better yet with high-priced pumps at the bottom of oil wells. With luxury goods, the process works with a special boost because buyers who pay high prices often gain extra status from thus demonstrating both their good taste and their ability to pay.


今回は触れませんでしたが、広告業者もこの傾向を巧みに使っている、とチャーリー・マンガーは指摘していました。

次に、この落とし穴を避けるためにどうしたらよいか、助言を述べています。

昔の成功事例を思いおこすところがあるからといって進んでしまうと、道を誤るかもしれません。この失敗を避けたければ、次の話を覚えておくといいでしょう。ナポレオンとヒトラーはいずれもロシアに侵攻しましたが、それは他の戦線で大勝利をおさめた後のことでした[ロシア侵攻はどちらも歴史的な大惨敗に終わり、その後の戦況を変えた]。同じような結末をたどった例も山ほどあります。たとえば、よせばいいのにカジノでギャンブルをしてたまたま勝ってしまった人、こういう人はそもそも因果関係なぞないのに、再三再四カジノへと足を運んでしまうのです。もちろん、待っている先は散々な結末です。同じように、ダメな知り合いに誘われて勝ち目の薄い勝負をしたところ、ひょんな拍子に幸運をつかんでしまう。この場合も、前と同じことを繰り返し、最後はひどい結末で終わります。

過去の成功に酔っておろかな道を進まないようにするにはどうしたらよいか。まずはそれらの成功を導いた要因を洗い出し、そもそも関係なかった偶然が働いていないか調べるのです。そういうものがあると、これからやろうとしていることの勝ち目を検討する際に目を曇らせてしまうからです。次に、過去の成功時には起きたけれど今度は期待できないことを挙げ、その中に危険につながるものがないか調べます。

To avoid being misled by the mere association of some fact with past success, use this memory clue. Think of napoleon and Hitler when they invaded Russia after using their armies with much success elsewhere. And there are plenty of mundane examples of results like those of Napoleon and Hitler. For instance, a man foolishly gambles in a casino and yet wins. This unlikely correlation causes him to try the casino again, or again and again, to his horrid detriment. Or a man gets lucky in an odds-against venture headed by an untalented friend. So influenced, he tries again what worked before - with terrible results.

The proper antidotes to being made such a patsy by past success are (1) to carefully examine each past success, looking for accidental, non-causative factors associated with such success that will tend to mislead as one appraises odds implicit in a proposed new undertaking and (2) to look for dangerous aspects of the new undertaking that were not present when past success occurred.


株式投資でも日常的に連想が働いているものです。たとえば株価が急落すれば、何か悪いことが起きたのかと疑います。あるいは、来期の業績予想が低くでると、成長が鈍ったものと短絡的に判断しがちです。これこそ、世知入門の記事でご紹介したような、チャーリー・マンガーいうところの「存在しないものが見えてしまう」典型ではないでしょうか。そういうときにこそ適切な行動がとれるように、判断力や勇気や余裕資金を持っていたいものです。

2012年5月27日日曜日

習慣を変えると連鎖反応がうまれる

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雑誌The Economist 2012/4/7号の書評で興味深いものがありましたので、一部をご紹介します。本の題名は『The Power of Habit』、習慣がもたらす影響力を取り上げたものです。(日本語は拙訳)

第二編では組織の話題が取り上げられている。著者のダヒッグ氏は、かなめとなる習慣をいくつか変えたことによって、経営陣が会社全体を変革できた例を紹介している。アルミ最大手のアルコアでは、ポール・オニールがゼロ災害を徹底させたことから始まり、同社を変革した。またスターバックスのハワード・シュルツは従業員に対して顧客サービスに注力するようにしむけたことで、同社は喫茶店業界の巨人となった。このように、かなめとなる習慣を変えると連鎖反応がうまれ、新たな習慣が組織全体へ波及するのみならず、他の習慣をも変えていくのである。

The second part of the book concentrates on organisations. Mr Duhigg shows how managers can change entire firms by changing a handful of “keystone habits”. Paul O’Neill transformed Alcoa, an aluminium giant, by aiming to establish a perfect safety record. Howard Schultz turned Starbucks into a coffee superpower by focusing his employees on customer service. Changing these “keystone habits” creates a chain reaction, with the new habits rippling through the organisation and changing other habits as they go.

成功している企業をみると、クセが強く感じられるところもあります。たとえば、ファナック、キーエンス、京セラといった企業はわかりやすいですね。しかし、そのクセはまぎれもなく企業文化にしみこみ、さまざまな習慣を生み出していることでしょう。そしてクセが強いほど他社は模倣しにくく、競争優位の源泉にもなっているのかもしれません(過去記事)。

「強いクセは、すなわちニッチである」と捉えれば、その企業が生き残るのかどうかを判断する材料にも使えそうです。

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前回記事であげた問題の回答は「厚生労働省が推定に用いた数量はドッグフードの消費量であった」でした。引用元の本は『いかにして問題をとくか・実践活用編』です(p.82)。そういえば、我が家で猫を飼っていた頃にはペットショップにせっせと通い、サイエンス・ダイエットを買い求めていました。

2012年5月26日土曜日

(問題)国内で飼われている犬の数は?

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ある本を読んでいたところ、次のような問題がでていました。

21世紀になって間もない頃、日本には約1000万匹のワンちゃんがいるという推定結果を厚生労働省が発表した。当然、その算出方法に目を向けたが、ペットショップで売買した犬の総数から求めたのではない。近所で生まれた子犬をもらったり、捨て犬を育てたりする場合なども多分に考えられるので、そのような数では実際の数は把握できない。厚生労働省が推定に用いた数量は×××であった。


さて、いかがでしょうか。わたしの場合、考える前に回答が目に入ってしまったのですが、ヒントは「逆向きに考える」です。答えは次回にご紹介します。なお、インターネットで検索するとあっというまに回答がでてきますので、ご注意ください。

2012年5月25日金曜日

金融史を読みましょう(ウォーレン・バフェット)

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今回も、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会での質疑応答からです(前回分はこちらです)。あやまちをできるだけ減らすにはどうしたらよいかという質問に対して、チャーリー・マンガーはおなじみの「他人の過ちから学ぶこと」と答えています(過去記事)。それを受けて、ウォーレン・バフェットは次のように発言しています。

金融に関する歴史を読むようにしています。混乱の時期のことは好んで読んでいました。そのおかげで、数学を得意とする人[金融エンジニアなどの専門家]たちよりも優位に立てたと思います。彼らは人間というものを理解していないのですね。わたしどもは他人の過ちから学ぶよう心がけていますが、いろいろ役に立っています。

WB: Reading financial history. I’ve always been absorbed at reading about disasters. This gave us advantage over others with a lot of math. They didn’t understand other humans. We have been a student of other’s folly, and it has served us well.

個人的には、お金のことも歴史もどちらも興味があるので、この手の本はよく読んでいます。得た知識をうまく活かせていないあたりは、まだまだですが。けっこう前に読んだ本では、キンドルバーガーやピーター・バーンスタインが楽しめました。『熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史』『経済大国興亡史 1500-1990』(原書評価は五つ星)、『リスク―神々への反逆』といったあたりは印象に残っています。