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2024年1月14日日曜日

日本企業は離陸していた(GMO)

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 GMOのリーダーたるジェレミー・グランサムは、米国市場全般に対してはあいかわらず弱気な見解を持ちつづけています(参考記事)。他方で、同社が目を向けている投資分野のひとつに日本株があります。最近発表された論考では、「4つの4」という観点で日本株への投資を勧めています。「4つの4」とは以下のものです。


THE FOUR 4s BEHIND THE COMPELLING OPPORTUNITY IN JAPAN EQUITIES 
(GMO; 2023/12/21付)


・4%の実質リターン

・4つの新規政策

・小型バリュー株に重点を置くことによる、4%のリターン上乗せ

・円安による4%の追い風効果


同文書では、これらについて定量定性の両面から説明を展開しています。根拠がやや弱いと感じられる説明もありますが、全体としては日本の現状をそこそこ妥当にまとめていると感じました。日本バリュー株ファンドを運営する筆者らが声高に主張しているのをみると、従来(2010年前半まで)の日本企業が全体としてみたときに外国の機関投資家から評価されていなかったことがわかります。


今回ご紹介するのは、同文書の中でもっとも印象的だった図を含む箇所から引用した文章です。(日本語は拙訳)



本質的業績の改善が寄与し、4%の実質リターンが期待される


当社GMOが予測を立てるうえで鍵となっている推進力は2つある。価値評価、そして本質的成長である。日本株はここ最近上昇したことで、市場全般でみたときの価値評価は妥当な水準となった。この話の興味深い部分は「本質」のほう、つまりファンダメンタルズにある。「直近でみられてきた力強いファンダメンタルズは、まやかしにすぎないものであり、いずれは低水準へ回帰するだろう」と多くの人たちが確信している。しかし、そうでない証拠があるのだ。

 
(図1)


日本企業がすぐれた本質的成長をここ何年間も果たしてきたことを、ほとんどの投資家は認識できていない。図1では、配当および本質的成長の形で株主が受けたリターンを示している。そこに、価値評価水準の変化分は含んでいない。図中の青色線は平準化した年率リターン4.5%を示しており、株式から低調な成績しか得られない場合を描いた我々の予想シナリオに一致している。これは直近10年間において株式市場に達成してほしいと我々が考えていた成績に近いものである。


興味ぶかいことに、これは米国企業がこの期間にあげた成果とほぼ精確に一致する。しかし日本企業はもっと好成績、つまり6.5%の本質的な成果をあげていた。これには驚くかもしれない。ドルベースでみたときには、米国株式市場のほうが日本のそれよりも好成績だったからだ。しかしそれは価値評価の水準が変化したからであり、さらには日本企業が果たした本質面での優位をうち消す以上に為替が変動したからである。投資家は米国株をこの10年間にわたって保有してきたことで優れた成果をおさめたが、根底にある企業業績をみると実際は日本のほうが優れていたのだ。(中略)


(図2) 


驚くことではないが、日本企業が残念な本質的リターンしかあげられなかった80・90・00年代は、ROC(Return On Capital; 資本利益率)が残念な結果にとどまった時期と一致していた。図2の左図の赤色線で示すように、その数十年間における日本のROCを均してみると、先進国で達成すべきだと我々が算定した値(4.5%、青色線で示す)の半分にしか達していなかった。実際のところ2018年あたりまでは、日本市場はその程度のROC(緑色の平坦線)に回帰するだろうと予想していた。つまり標準的な利益率の半分にだ。しかし我々は2018年までに、無視しがたい変化がROCに現れていることをみてとった。我々のデータにおいて標準的と定めた値をはじめて超過したのだ。そして高いROCを達成した年が何年か続いたことで、日本が恒常的な変曲点に到達したと我々は確信した。


図2の右図は[計量経済学上の]構造変化モデルで、ROCが平坦な緑色線の周辺へと回帰しない可能性を推し量るものだ。そしてこのモデルは、構造変化が2018年までにほぼ確実に生じたことを示している。それゆれ我々は予測モデルを、「日本における利益率は、先進国市場における標準値へゆるやかに遷移している(左図の緑色線が階段状になっている部分)」と変更した。日本企業のROCが改善したのはまやかしではなく、先進国水準へ収束し、以前の平坦線へ戻ることはないだろう。それが我々の見解である。

 4% Real Return Forecast Supported by Improving Fundamental Performance

 

Two key drivers underpin GMO’s forecasts: valuations and fundamental growth. After the recent run in Japanese equities, valuations look fairly valued for the broad universe. The interesting part of the story lies with fundamentals. While many believe recently strong fundamentals are a head fake and will revert to lower levels, evidence suggests otherwise. 


Most investors do not realize that Japan has been delivering superior fundamental growth for years. Exhibit 1 charts the returns shareholders earn from distributions and fundamental growth, ignoring the effects of valuation change. The smooth 4.5% annualized return line is consistent with what we expect stocks to earn in our “Low” base-case forecast scenario, and it’s roughly what we think equity markets should have delivered over the last 10 years.


Interestingly, it is almost exactly what U.S. companies earned over this period. Japanese companies, however, did much better delivering 6.5% fundamental performance. This might be surprising given the U.S. equity market outperformed the Japanese market when measured in dollars, but that is because valuation changes and currency movements more than offset the fundamental advantage Japan delivered. While investors did better owning U.S. equities over the last decade, underlying corporate performance was actually better in Japan. 

 

(snip)

 

Not surprisingly, Japan’s disappointing fundamental return in the eighties, nineties, and aughts corresponded to a period where returns on capital were disappointing. During those decades, Japan’s ROC, shown in red on the left of Exhibit 2, averaged only about half of what we estimate companies in developed markets should deliver (i.e., the blue line at 4.5%). Indeed, up until about 2018 our base case when forecasting Japanese market returns (the flat green line in the ROC chart) was to assume that ROCs would mean revert around this level of half of normal profitability. But by 2018 we had seen a change in ROC that was hard to ignore – ROCs had, for the first time on our data – exceeded what we assume to be normal. Further, after years of stronger returns on capital, we believed Japan had reached a permanent inflection point.


The chart on the right of Exhibit 2 represents a structural break model which asks how likely is it that ROCs were no longer mean reverting around the flat green line. By 2018, the model had put the odds of a structural break as a near certainty. We therefore changed our forecast model by assuming that profitability in Japan was slowly transitioning toward developed market norms (the stairstep section of the green line on the left.) In our view, Japan’s ROC improvement was not a head fake and would continue to converge toward the developed market norm, not fall back toward the old flat line.

 


2020年6月15日月曜日

長期投資を心がける際の売却方針について(3)マイクロソフトの事例

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今回からは個人的な経験を題材にして、長期投資における気づきや教訓を掘り起こしていきたいと思います。 本シリーズの前回分投稿はこちらです。

今回取り上げる銘柄はマイクロソフト(MSFT)です。当社の株式をはじめて購入したのは2011年秋なので、保有期間は9年弱になります。現在までに若干は売却したものの、大半はそのまま継続保有中です。

<株式投資で大きな利益をあげる構図のひとつ>
話を進める前に、株式投資によってそれなりの利益をあげる基本構造を確認しておきます。

1) 投資先の価値を市場が見逃している間に、株式を購入する。
2) その価値が表面化したり、市場が認識した結果、株価が上昇する。
3) 株式を売却する。あるいは継続保有して配当金を受領し続ける。

(参考記事) 投資が簡単だと思っている人間は愚か者だな(ハワード・マークス)の3つ目の引用

<株式購入当時の状況(2011-2012年)>
当社の株式購入を検討していたのは2011年でした。そのころに市場で人気があったのはアップルやグーグルといった企業でした。「オールド・テック」とみなされた当社は、表面的には失敗が目立ちました。2012年にはタイル型UIを取り入れたWindows 8がリリースされました。携帯電話会社Nokiaに資金を投じ始めたのは2011年です。のちになってわかることですが、その取り組みの多くが失敗に終わりました。しかし表舞台で失敗していた裏側では、地道に利益をあげていました。サーバー向けソフト事業では、売上高の増加率は2011年・2012年のどちらも10%超、営業利益の増加率は15%超でした。

<株式を購入した動機>
当時の不人気ぶりは覚えていたつもりでしたが、実際には記憶以上の不人気でした。そのころに書いた投稿を読むと、市場からの評価は実績PER10倍前後とあります。個人的にも、当社の将来性が輝かしいと考えて投資したわけではありません。期待していたことはもう少しささやかで、「主力事業の収益基盤が安定しているため、その分野だけでもゆっくりと成長できる」と予想した程度でした。株式を長期的に保有する間に利益が増加して、市場からの評価もその分は上昇するだろうと考えていました。

(参考記事) 2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(マイクロソフト)

<転機の到来(2014年2月)>
当社の転機はCEO交代という形でやってきました。前CEOを務めていたのは、ビル・ゲイツの僚友スティーブ・バルマーでした。その彼が退任することになったのは、おそらく同業他社と比較した業績不振の責任を取らされたからでしょう。話題を呼んだ次期CEO選びの末に、サティア・ナデラが選任されました。対抗馬として有力視されていたNokiaのスティーブン・エロップ氏とは対照的に、サティアの専門領域は企業向けシステムでした。

(参考記事) もはやサル社長ではない
(参考記事) 米マイクロソフト次期CEOを予想する

あとから振り返ってみれば、この人選が新生マイクロソフトを決定づけたと思います。個人的にはこのできごとの重要性に気づいていませんでした。当社の株式は単に割安だというだけで継続保有していました。しかし「新CEOの登用」という埋没価値をリアル・オプションとして認識評価できていれば、当社の株価はもっと割安だと判断できていたでしょう(つまり、どこかの時点で株式買い増しに踏み切れたかもしれない)。それほどに当社や業界の将来性のことを真剣に考えていなかったわけです。さらには、当社のような代表的企業に集まる人的資源の豊かさを認識させられました。

<当社の変化(2014年2月以降)>
新CEOとなったサティア・ナデラは、積極的な改革を段階的に進めました。具体的な施策の例を以下にあげます。

・事業の選択; クラウド事業(Azureやサーバー製品等)への注力、スマートフォン事業からの撤退、その他製品のクラウド・サービス化
・社内文化の変革; エンジニアリング志向、オープン志向への転換
・潜在的顧客の獲得; 各社の買収(Mojang(マインクラフト)、LinkedIn、GitHub)、Linuxの積極的受入れ、Visual Studio Codeのマルチ・プラットフォーム提供
・消費者向け製品の差別化; Surfaceブランド製品

これらの施策がクラウド事業の拡大を手伝ったことは、あとになって考えてみればある程度理解できます。そして具体的な業績の進展をみることで、市場は当社に対する評価を上げていきました。


(参考記事) 2014年の投資をふりかえって(5)継続銘柄:マイクロソフト他

<株式売却の逡巡その1(2018年)>
この時期の市場評価は、株価が90ドル前後、実績PERが30倍強と、高い成長を織り込んだものでした。そして個人的に注視しつづけているファンド、FPAクレセントのスティーブン・ローミック氏が当社株式を一部売却したとのレターを読んだことで、そろそろ売却時かと迷いました。

どうしたものかと考えるなかで、当社のジョン・トンプソン会長の発言をとりあげた記事を目にしました(2018年2月分)。彼は「クラウドへの移行は、まだ本当に始まったばかりだ」と発言していました。具体的な根拠は示されていなかったものの、この発言内容をきっかけに市場の将来性を考え直してみました。

当社はそもそも大企業向けの事業を手がけています。その市場規模のことは、わたしよりもはるかによく理解しているはずです。その立場にあって先のような発言をするのは、額面通り正しいことを言っているか、あるいは虚勢を張っているかのどちらかだと考えました。仮に後者だとしても、平均に回帰するまでの成長分によって市場評価低下分を相殺できると判断しました。そして継続保有したまま数年が経過した時点で、彼の発言の真偽を確認すればよいだろうと。

トンプソン会長の発言がまちがっていたという証明は、今のところはできていません。クラウド事業についてFY2018-2QとFY2020-2Qを比較すると(6か月ベース)、売上高は140億ドルから220億ドルに成長し、成長率は年換算で21%,26%と推移しています。個人的に彼を信頼する度合いは、高止まりしたままです。

<株式売却の逡巡その2(2020年現在)>
現在の当社の株価は190ドル前後で、実績PERは約38倍と、さらに高い成長性を織り込んだ評価になっています。個人的には低PERに慣れているので、率直に言えば高いです。売却を迷うところです。株価が短中期的に低迷する可能性は十分にあると思います。期待度の高いクラウド事業の成長率に大きな翳りがみられれば、市場評価が下落基調に変わってもおかしくありません。しかし次の長期的期間(たとえば7年以上)までみれば、成長によって下落分を取り返せると踏んでいます。社会がコンピューティングの進展を望み、その領域と深度のいずれにおいても拡大すると予想できるからです。トンプソン会長の予言だけではなく、産業界の動きからも感じとれるように思います。またサティア・ナデラのリーダーシップにも不満はありません。そのため、少なくともしばらくは継続保有のままでいようと考えています。ただし小さくないリスクとして、国際的な安全保障面での規制圧力は高まってくると感じています。これがどのように悪影響を及ぼし得るのか、考えていくつもりです。

<今回のまとめ>
・強みを活かせる優良企業がくすぶっていた時期に、割安な値段で購入した(2011年)。
・当社自身が強みと弱みを見つめなおし、CEO交代という転換点をつくった(2014年)。
・新CEOが躊躇なく、事業や組織や文化を改革した。
・市場や当社の成長に任せて、株式を継続保有した。

2020年6月8日月曜日

長期投資を心がける際の売却方針について(2)なぜ長期投資なのか

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このシリーズの前回分の投稿で、トシユキさんのご質問にはひとまずご回答したつもりです。しかし彼がそもそも知りたかったことは、長期投資銘柄の売却についてだととらえています。もっと言えば、「長期に保有してきた銘柄を、どこかの値段で売却する必要があるのか。そうだとすれば、いつが売り時なのか」と問われていたように感じました。

その問いに対しては、トシユキさんのコメントから始まるやりとりでご紹介したフィル・フィッシャーからの引用が端的に答えています。「ときが経つほど大きな価値を生み出してくれる株は決して売らない」。さらに言えば、その条件を満たさない銘柄は売っても差し支えないことを意味していると受けとめています。

その答えを踏まえて元の問いを書き直せば、「離れるほどに漠然とする将来を、どのように値踏みすればよいのか」といった問いになると解釈しました。

この問いに対する包括的な答えを持っている人は、少なくともわたしは知りません。当然ながら、わたし自身も答えられません。それゆえに、これにて幕を引くべきなのでしょう。そうだとしても最低限のことは、たとえば先人の知恵をまとめたり、自分の経験を書くことはできるので、もう少し進んでみたいと思います。

<なぜ長期投資の方針を選ぶのか>
長期投資という方針を選ぶ理由は、その人が「他の方針と同じか、それ以上の成果が期待できる」と少なからず信じているからだと想像します。「ウォーレン・バフェットのような成功した投資家がそうしてきたから」「S&P500インデックス・ファンドに投資すれば、アメリカの成長を享受できるから」などのきっかけがあったかもしれません。たしかにそれらは過去に素晴らしい成績をあげています。しかしそこで一つ言えるのは、前者のやりかたでは個別株を選別する眼力が必要ですし、後者では「アメリカ大企業」というセクターに賭けている点です。つまり「何に投資するのか」を決めることは投資家自身に任されています。そしてその選択が長期的な当たりであるゆえに、長期的な成功をおさめられる..、さきほどのフィッシャーの引用に戻った形になりましたが、つまりこういうことでしょうか。「私には、長期的な当たり銘柄を探し当てることができる」、だから「私は長期投資をえらぶ」。

<長期投資に適した銘柄を選ぶ方法の一例>
その場合、どのようにして「長期的な当たり銘柄」を選ぶのでしょうか。見通しのきかない将来をみわけるにはどうすればよいのでしょうか。単純な戦略が一つ思い浮かびます。「好調な業績が継続中の銘柄をえらぶ」方法です。そして事業環境や競争力が、今後も継続あるいは拡大強化されること。そのような見通しを容易に立てられる銘柄があれば、候補に挙げることができるでしょう。ただし、その場合に問題となるのが「株価」です。見目麗しき銘柄には人気があつまり、将来の大きな成功を織り込んだ株価が付けられがちです。行き過ぎた株価になった銘柄をえらんで、そこから長期投資をはじめるのは難しい仕事だと思います。「買値にふさわしいほどに、将来予測の信頼性が高いこと」が要求されるからです。つまり、この戦略をとって長期投資を進める場合には、「買値及びそれに伴う投資規模」が重要な要因となってきます[参考記事]。 

今回のまとめです。

・長期投資をする際には、「長期的な当たり銘柄」を選ぶこと。(これは前提条件) 
・その買値や投資規模に見合った水準で、将来が予測できること。 (これは難しい)

結局のところ、上の文章は反語的な意味で記しましたが、救いの意味も含めてチャーリー・マンガーがウォーレン・バフェットに授けた教えを再掲します。

長続きする競争優位性を見極める
「すばらしい企業にそこそこの値段がついているほうが、そこそこの企業にすばらしい値段がついているよりも良い」

(つづく)

2020年5月31日日曜日

長期投資を心がける際の売却方針について(1)

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今年の1月5日にいただいたコメントで、「トシユキ」さんから次のような問い合わせがありました。

トシユキ 2020年1月5日 15:56 のコメント

最近、私は長期投資の売りのルールについて考えています。バフェットさんに関した本には、よく買いのルールについては詳細に書いてあるのですが、売りには殆ど言及されていない気がします。

バフェットさん自身、素晴らしい銘柄を永久に保有するという話はよく聞くのですが、個人的には永久と言われても少しピンときていません。

そこで、質問なのですが、betseldomさん自身は、銘柄を売買する際には、どういった売りのルールを設けているのでしょうか?損切りなどは取り入れているのでしょう?

まずは、トシユキさんからのお問い合わせに対して返信が遅くなったことをお詫びいたします。もたもたしているうちに世間の事態が急変し、投稿する機会を逃してしまいました。ここにきて、この話題にふさわしくない状況が少なくとも一時的には後退したと思われるため、今のうちにお答えします。

さて、ご質問に対して端的にお答えした後に、長期的な投資を意識しながらも売却に踏み切ったときを省みることで、なんらかの教訓が得られればと思います。

<用語の定義>
話題に進む前に、本ブログで使っている「長期」などの株式投資期間を指す言葉の定義を記しておきます。

・短期: 0-1年
・中期: 1-3年
・長期: 3-10年
・超長期: 10-30年だが、便宜的に「長期」に含める。

ここでは、企業が立案する事業計画上の表現や債券における区分を参考にし、さらには「3」の累乗でほぼ表現できる数を当てはめています。3年間を指して長期投資と呼ぶには短いように感じられるのはその通りで、むしろ7-10年超を長期投資と呼ぶほうがしっくりきます。しかし機械的な定義のほうが客観的で説得力があるため、個人的には上記の基準をとっています。

<売りのルールについて>
売りのルールとして漠然としたものはありますが、厳密な基準はできていません。自分が想定している企業価値の平均値を100としたときに、その周辺で売却する銘柄もありますし、150以上になった時点で売却するものもあります。そもそも企業価値を想定する上で成長性はある程度盛り込んでいますが、購入価格の水準によって譲渡益課税額の割合が異なったり、個人的な理由が他にあるため、銘柄による売却基準が異なっています。

さらに、できるだけ売却したくない銘柄の株価が短期的に高すぎると感じた場合には、信用売りをしてヘッジすることがあります(ただし、気休めにしかなりませんでした)。

<損切りについて>
損切りは実行します。そもそも新規に買う銘柄数が少ない上に上昇相場が続いたので、近年は損切りする局面がそれほどありませんでした。しかし過去記事で取り上げた銘柄に、いくつか例があります。たとえば、クックパッド(2193)やツムラ(4540)です。

クックパッドの場合、事業の方向性が個人的には見通せなくなったことで、株価暴落後ながらも全売却し、投資額に対して大きな比率の損失におわりました。またツムラの場合は、敬愛する企業ではあるものの、事業環境を踏まえると買値に不満が残ったため、購入後それほど間を置かずに、いったん売却することにしました。

2018年の投資をふりかえって(2)全売却銘柄:クックパッド(2193)
2014年の投資をふりかえって(8)その他:日精ASB,任天堂,しまむら,ツムラ

今になって振り返ってみると、ウォーレン・バフェットが触れてきたような投資の基本方針からはずれていると個人的に強く感じた際に、損切りに踏み切っていたように思えます。

投資家が見極めるべき5項目(ウォーレン・バフェット1993年)

超一級の企業ではなくても十分に割安だと思える銘柄は、多くの場合、含み損があっても損切りせずに継続保有します。一方、投資利益はあがりながらも見誤ったと感じられる銘柄は、適宜売却しています。

(つづく)

2018年7月28日土曜日

(解答)プロの投資家たちが選ぶ数を当てよ(おまけ、バブル3景)

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まずは、前回の投稿でとりあげた問題に対する解答です。(日本語は拙訳)

66を越える答えがいくつもあったことには、少しばかり首をひねりましたね。そもそも取り得る数の最大値は66です。だれもが100を選んだ時にちょうどそうなる数字です。図表7をみると度数の上昇が認められることから、さまざまな水準で帰納的推論がなされたことがわかります。各参加者が選んだ数字の平均は26でした(この手のゲームではよくある値です)。それゆえ、平均値の2/3は17.4となります。このゲームにおいて他の人たちから一歩先んじることが、実に難しいことがわかる数字です。(p. 6)

(出典: 後述)

The fact I got a number of answers above 66 is a little disturbing! The highest possible answer is 66, because to pick this one must believe that everyone else has just picked 100. In Exhibit 7, you can see spikes at various levels of induction. The average number picked turned out to be 26 (which is fairly typical of such games), and thus the two-thirds average was 17.4. It proved incredibly hard to be one step ahead of everyone else in this game.

もうひとつご紹介する内容は、バブルについてです。今回引用した文書の著者ジェームズ・モンティエ氏は、現在の(主に米国)株式市場は一種のバブル状態にあると評価しています。ただしバブルには次に示すような種類があり、現在のバブルは上述したような「美人コンテスト的バブル」だと述べています。なお、引用元の文献は以下のとおりです(少し前に発表された文書のため、すみませんがURLが見つかりませんでした)。

The Advent of a Cynical Bubble (James Montier, GMO Asset Allocation Insights, Feb 2018)

1つ目の種類のバブルは典型的なもので、「XX現象」や「XX狂」と呼ばれることもあります。まさしくこれは「信念」がバブル状態にあるものです。この種のバブルでは、「今回ばかりは違う」「新たな時代が始まったのだ」と信じ込むようになります。巨大バブルの歴史を飾ってきた実例を挙げてみると、ドットコム・バブル[ハイテク、メディア、通信関連業界]、日本でのバブル、米国住宅バブル、行け行けの1920年代、があります。それらはいずれも、「妄想的な新時代思考」を示した輝かしい事例として際立っています。

2つ目の種類のバブルは「本源的バブル」と描写されるものです。このバブルでは、バブルの源にファンダメンタルズが存在します。さらに言えば、利益の上昇率が継続不能な水準まで増加することで、投資家が[将来の見通しをそのまま]外挿したり、過剰資本を起こしがちになります。米国住宅バブル期の金融企業は、この種のバブル状態にあった好例でした。住宅市場で沸いたバブルのおかげで彼らの利益は増大しましたが、多くの投資家はその事実を認識していませんでした。

3つ目の種類のバブルは、アカデミックな文献において「近合理的バブル」として知られています。個人的には、この命名にまるで賛成できません。その言葉は「見せかけの敬意」を匂わせていますが、私としては価値が認められないからです。私からすれば、このバブルは「さらなる愚者を待つ市場」をうまく描写したものだと考えています。「当該資産を妥当な価格(あるいは本源的価値)で買えたとは考えてもいないのに、バブルがはじける前にもっと高値で他人へ売りつけたいがゆえに買う」点で、なんとも冷笑的なバブルです。シティバンクの元CEOだったチャック・プリンスは、よくある冷笑的バブル思考を的確に披露してくれました。2007年7月にそれを示す言葉を口にしたのです。「曲の演奏がつづく限り、席を立って踊り続けねばなりません。当社はまだ踊り続けているのです」と。(p. 3)

The first and canonical type of bubble is the what might be called the “Fad” or the “Mania.” This is truly a bubble of belief. In this type of bubble, people really do believe that this time is different, that a new era has been begun. These are the great bubbles of history: the TMT bubble, the Japanese bubble, the US housing bubble, and the Roaring 20s all stand out as shining examples of delusional new age thinking.

The second type of bubble is described as an intrinsic bubble. In an intrinsic bubble, it is the fundamentals that are the source of the bubble. That is to say, earnings booming at an unsustainable rate, which then often gives rise to extrapolation and overcapitalization by investors. Financials during the US housing bubble were a good example of this kind of bubble. Their earnings were inflated by the economic bubble in the housing market, and this wasn’t recognized by many investors.

The third type of bubble is known in the academic literature as a near rational bubble. I am not a great fan of this nomenclature as it suggests a veneer of respectability that I find undeserved. To me these are really better described as greater fool markets. They are cynical bubbles in that those buying the asset in question don’t really believe they are buying at fair price (or intrinsic value), but rather are buying because they want to sell to someone else at an even higher price before the bubble bursts. Chuck Prince, the former CEO of Citibank, aptly demonstrated the typical cynical bubble mentality when in July of 2007 he uttered those fateful words, “As long as the music is playing, you’ve got to get up and dance. We are still dancing.”

2018年7月24日火曜日

(問題)プロの投資家たちが選ぶ数を当てよ

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以前に取り上げたことのあるマネー・マネージャー(M氏としておきます)の文章を読んでいたところ、おもしろい試みを取りあげていたので、ご紹介します。

M氏は現在の市場の成り行きを表現する上で、有名なケインズのたとえ話「美人コンテスト」をあげました。

職業家としての投資とは、新聞が主催する次のような競技に例えられるかもしれない。「参加者は、100枚ある顔写真の中から、もっとも美しい6名を選び出さなければならない。その際に、全参加者の選んだ平均にもっとも近い選択をした者が優勝となる」。各参加者は、もっとも美しいと自分自身が考える顔ではなく、他の参加者たちの気を惹く可能性がもっとも高い顔を選択しなければならない。そのため、誰もがこの問題を同じ観点からとらえることになる。もっとも美しいことが事実だったとしても、個人の判断で最上の顔を選ぶやりかたは適切ではない。さらには、平均としてみたときに純粋にもっとも美しいと思われる顔ですらない。それゆえに、この問題は第3次の水準に到達することとなる。「平均的見解とは何か」を予想する平均的見解がどのようなものかを判断するがために、知力を働かせるのだ。私が思うに、4次や5次さらにはもっと高次の思考を巡らす者がいるはずだ。

Professional investment may be likened to those newspaper competitions in which the competitors have to pick out the six prettiest faces from a hundred photographs, the prize being awarded to the competitor whose choice most nearly corresponds to the average preferences of the competitors as a whole; so that each competitor has to pick, not those faces which he himself finds prettiest, but those which he thinks likeliest to catch the fancy of the other competitors, all of whom are looking at the problem from the same point of view. It is not a case of choosing those which, to the best of one’s judgment, are really the prettiest, nor even those which average opinion genuinely thinks the prettiest. We have reached the third degree where we devote our intelligences to anticipating what average opinion expects the average opinion to be. And there are some, I believe, who practise the fourth, fifth and higher degrees.

そのうえでM氏は、美人コンテストのアイデアを実際に試すことをねらって次のような要領のゲームを実施したことを、紹介していました。

・ゲームの参加者は、0から100の整数の中から、ある数をひとつ選ぶこと。
・「全ゲーム参加者が選んだ数の平均値の3分の2」の値に最も近い数を選んだ者が、このゲームの勝者となる。

A game based on this idea can be constructed where participants are told to choose a number between 0 and 100.
The winner will be the person who picks the number closest to two-thirds of the average number picked.

ゲームの参加者はプロの投資家1,000名超とのことで、この情報は事前に知っておいてよいものと解釈しましょう。次回の投稿で正答(=平均値の2/3)を挙げますので、ぜひみなさんも勝者になることをめざして、お考えになってみてください。

なお、わたし自身も挑戦してみました。正答ではなかったものの、2ポイント程度の差に落ち着きました。まずまずのスコアだと自己評価しましたが、細かな詰めが甘いのはいつもながらの反省点です。

2018年7月20日金曜日

ヨーロッパが豊かになった理由(『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』)

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中世までは世界の片田舎でしかなかった西欧が世界の中心部へと躍進した理由は、人文科学の領域でたびたび取り上げられる主題です。少し前の投稿でとりあげた本『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』でも、単純ながらも強力な説明をしていたので、引用してご紹介します。

この時代、科学と技術の面ではアラブ人がはるかに先を行っており、西洋ではほぼ忘れ去られていたギリシャ哲学を生かし続けたのもアラブ人だった。

同時期に、経済的にも文化的にも繁栄した中国を支配していたのは宋王朝だった。法治と高い経済的な自由のおかげで、イノベーションの気運が生まれた。中国人は活字や火薬や羅針盤を使っていた--これは1620年という時期になっても、三大発明としてフランシス・ベーコンが挙げたものだ。

でも14世紀に中国を支配した明王朝は、技術や外国人に敵対した。海洋航海を死罪にして、世界を発見したかもしれない大型船を焼き払った。同様に、イスラム世界は13世紀の蒙古侵略のあとで内向きとなり、科学と近代化の多くの発想を粛清した。オスマン帝国では新技術は阻害され、印刷術は300年も遅れてしまい、タキ・アッディンが1577年に作ったイスタンブールの近代的な天文台は、たった3年しか続かずに、その後は神をスパイしようとしているといって破壊されてしまった。

別にヨーロッパの列強がマシだったわけではない。ヨーロッパのエリート層もまた新しいアイデアやイノベーションに反対した。でもこの大陸はあまりに断片化していた--地理的にも政治的にも言語的にも--おかげで、何か一つの集団や皇帝がそのすべてを支配はできなかった。著書『ヨーロッパの奇跡』でエリック・ジョーンズは、14世紀にはヨーロッパに1,000以上の政治単位があったと述べている。この複数主義はある意味で、競合する国民国家の体系を構築したときにもまだ残っていたといえる。新しい理論や発明、ビジネスモデルは必ずどこかでは生き延びられたし、その優位性を実証できた。それが他の人々に模倣されて、広まる。進歩は常に命綱を得られたというわけだ。

つまりヨーロッパを豊かにしたのは、優れた思想家や発明家や企業ではなく、ヨーロッパのエリート層がそれを邪魔するのにあまり成功しなかったという事実なのだった。アイデア、技術、資本は国から国へと移動できたので、国はお互いに競争して学び合うしかなく、お互いを近代化へと押しやった。これはいまのグローバリゼーションの時代と少し似ている。(p. 302)

2018年7月18日水曜日

2018年上半期、米国株式市場の総括

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何度か取り上げているバリュー投資家ウォーリー・ワイツ氏が、パートナー向けのレター(第2四半期)を公開していました。そのなかで興味深い数字が示されていたので、孫引きになりますがご紹介します。(日本語は拙訳)

2Q18 Value Matters (Weitz Investments)

テクノロジーや「確かな成長」を謳う各種のストーリーが、第2四半期にも投資家を魅了し続け、市場を高みへと導きました。なぜならそこには超大型の銘柄が含まれており、時価総額加重方式をとる同指数に対して、不釣り合いなほどの影響をもたらしたからです。経済コンサルタント会社として知られるゲイブカル・キャピタル(と同社の記事「統計で楽しもう」)によれば、2018年の前半6カ月間にS&P500があげた上昇分の71%は、アマゾン・マイクロソフト・アップルが寄与したものでした。その3社に加えて、マスターカード、さらには別のテクノロジー4銘柄が、同指数のあげた上昇分の105%に寄与していました。つまりそれら以外の492銘柄を合計すると、6月末時点では前年末比で下落していたのです。

In the second quarter, technology and other “reliable growth” stories continued to appeal to investors. They led the market higher, and because some are very large, they had a disproportionate impact on the capitalization-weighted indices. According to economic consultants, GaveKal Capital (and under the heading of “fun with statistics”), during the first six months of 2018, Amazon, Microsoft and Apple accounted for 71% of the gain in the S&P 500. Those three, along with Mastercard and four other tech stocks, accounted for 105% of the index’s gain. The other 492 stocks were, collectively, down year to date.

2018年7月8日日曜日

人類の未来が暗く思える理由(『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』)

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以前にご紹介したマット・リドレーの著作『進化は万能である』では、さまざまな社会的側面が進化的に発展してきた現実を取りあげていました(過去記事)。最近は「社会における進歩を正しく見つめよう」とする気風が高まっているのでしょうか、ビル・ゲイツも少し前から「鮮度の高い事実」を的確に認識した上で、現代社会が果たしてきた進歩の実態を啓蒙しようとしているようです(その一例)。それと似たような趣旨の本を少し前に読んだので、印象に残った一連の文章をご紹介します。

同書の邦題は『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』、黄色のカバーのポップなデザインからは軽い内容を予期させますが、実際の本文に浮わついたところはありません。参考文献から集めた事実を連ねて、社会がいかほどに発展してきたのか、いくつかのテーマに沿って堅実に文章を書き進めています。個人的には例によって100%鵜呑みにできるとは考えませんが、いくぶん割り引いたとしても、現代社会がどのような高みに位置するのかを把握するのにふさわしい一冊だと思います。

今回引用するのは、本書の「おわりに」に含まれている文章です。「なぜ人々は暗い未来を思い描いているのか」について説明しています。本来であれば巻頭で触れるべき内容だと思いますが、あえて後段に回したものと想像します。

人々は一般に、私が本書で示したような希望に満ちた世界観を持っていないと考えてまちがいない。イギリス、オーストラリア、カナダ、アメリカの回答者の54パーセントは、今後100年でいまの生活様式が崩れる危険性は、50パーセント以上だと答えている。4分の1近くは、人類が絶滅する危険性が50パーセント以上だと述べている。(中略)

こうした想定は、しばしばメディアにより形成される。メディアは世界についてのある特定の見方を強調し、ドラマチックで驚くものばかりに注目する。そうした話はほぼまちがいなく戦争、殺人、自然災害といった悪いニュースだ。(中略)

多くのジャーナリストや編集者はこの傾向を知っている。アメリカの公共ラジオジャーナリストであるエリック・ワイナー曰く「正直いって、とんでもなく不幸な場所に暮らす、不幸な人々の話は人気が出るんです」。(p. 287)

たぶん、人は心配するようにできている。例外に関心がある。新しいこと、不思議なこと、予想外のことに気がつく。それが自然だ。通常の日常的な出来事は、いちいち説明して理解するまでもない。でも例外は理解する必要がある。(中略)

私たちが危険なものすべてにとても興味があるのは、それに興味を示さなかった人はとっくに死んでいるからだ。建物が火事なら、すぐにそれを知る必要がある。そしてその火事がテレビに映っているだけでも、多少は興味を惹く。幾重もの抽象化と感覚鈍化の下で、安全なソファにすわってテレビを見ているときでも、人の石器時代の脳が多少のストレスホルモンとアドレナリンを分泌するのだ。

スティーブン・ピンカーは、世界が実際よりひどいと思わせる心理的バイアスを3つ挙げている。(中略)

第3のバイアスは、人生がもっと単純でよかったされる黄金時代に対するノスタルジーだ。文化史家アーサー・ハーマンはこう洞察している。「過去も現在もほとんどあらゆる文化は、いまの男女は両親やご先祖の基準に達していないと信じている」。(中略)

私が人々に理想の時代について尋ね、世界史上で最も調和がとれて幸せだった時代はいつだと思うか尋ねると、驚くほど多くの人々は、自分が育った時代を挙げる。だからベビーブームの人々は、1950年代をなつかしがる。(p. 296)

現代に生きる人間にはそういったバイアスがあることを承知した上で、本題の内容をもう一か所引用します。「第4章 貧困」からの文章です。

なぜ貧困な人がいるのだろうか?
これは質問がまちがっている。
貧困についての説明は不要だ。というのもそれは万人の出発点だからだ。貧困は、富を創り出すまでの状態のことだ。最も豊かな国ですら、先祖たちの生活がいかに劣悪なものだったかを人々はつい忘れてしまう。フランスのような国で受け入れられていた貧困の定義はとても簡単だった。もう1日生き延びられるだけのパンを買えるなら、その人は貧困ではない。(中略)

アドリア海のぺスカラという、要塞と兵舎を持ち、特に貧しいというわけでもない町について、1564年に調査が行われている。それによると、町の世帯の4分の3は掘っ建て小屋に住んでいた。裕福なジェノアでは、貧民たちは冬ごとにガレー船の奴隷として自分を売った。パリでは最貧民たちは対になって鎖でつながれ、排水溝を掃除するというつらい仕事をやらされた。イギリスでは、貧困者は救済を受けるために作業小屋で働かざるを得ず、そこでは長時間労働をやらされ、ほとんど無賃だった。犬や馬や牛の骨を肥料用に砕く作業をやらされた人々もいるが、1845年に作業小屋の査察で、腹の減った貧民たちは腐りかけの骨をめぐって争い、その骨髄を吸い出そうとしていたことが示されている。(p. 95)

2018年6月24日日曜日

妥当な価格で優良企業を買うためのチェックリスト(GuruFocus創業者)

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コメント欄でリュウジさんがご紹介くださった本『とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法』を少し前に読みました。投資で利益をあげるにはさまざまなやりかたがあると思いますが、本書ではあくまでもひとつのやりかたにこだわっています。題名が示すように「とびきり良い会社をほどよい価格で買う」、これだけに焦点を当てて平均以上の成績をあげるための戦術論全般を説明しています。対象読者としては「株式投資中級者」を想定しているようです。チャーリー・マンガー的な信条をそのまま掲げている点には感心しましたが、あとは本書のやりかたで望む成果をあげられるかどうかですね。

さて本書から今回引用するのは、p. 197に掲載されている「妥当な価格で優良企業を買うためのチェックリスト」です。これは完全無欠なものではないですし、状況によって要否が変わることもあるでしょう。しかし「あくまでもひな形として参考にし、個々人が吟味発展させる」という意味では、役に立つと思います(たとえば日本企業を評価する場合には、このままでは適用しにくい)。なによりも明文化され、リスト化されていることに意義があります。

なお、訳語「優良企業」に対応する原語は"Good companies"のようです。妥当な訳出だと思いますが、念のため記しました。

妥当な価格で優良企業を買うためのチェックリスト

1. 私はこの事業を理解しているか。

2. 企業を守る経営上の堀があるおかげで、今後5年から10年間、同じか類似した製品を売り続けることができるか。

3. この業界は変化が激しいか。

4. この企業には多様な顧客基盤があるか。

5. 固定資産が少ない事業か。

6. 景気循環に大きく影響される業界か。

7. この企業にはまだ成長の余地があるか。

8. 過去10年間、好景気のときも不景気のときも常に利益を出し続けてきたか。

9. 営業利益率は安定して2桁を維持しているか。

10. 利益率は競合他社よりも高いか。

11. 15%以上のROIC(投下資本利益率)を過去10年にわたって維持しているか。

12. 一貫して2桁の成長率で、売上高と利益を伸ばしてきたか。

13. 財務基盤がしっかりしているか。

14. 経営陣は自社株をかなり保有しているか。

15. 経営陣の収入は似た規模の他社と比べてどうか。

16. インサイダーはこの企業の株式を買っているか。

17. 内在価値やPER(株価収益率)で測った株価は妥当か。

18. 歴史的に見て、現在のバリュエーションはどうか。

19. これまでの不況期に株価はどうだったか。

20. 自分の調査にどれくらいの自信があるか。

著者であるチャーリー・ティエン氏が触れているように、上記のリストには投資界の達人たちが示した教えが取り入れられているので、たとえばフィル・フィッシャーの15項目と似たものがあります。ただし上記のリストは定量化しやすい項目ばかりになっているのが特徴的です(本書内で解説あり)。もちろんそれは、著者が運営する投資サイトGuruFocusで定量的評価ツールを提供していることの裏返しでもあるでしょう。しかし、閾値を厳密に定める評価には長短があることを承知していれば、「達人の教えをなるべく定量的に実践試行しつづける」ことでも、相応の成果をあげられると思います。

2018年3月16日金曜日

割引率について(ウォーレン・バフェット)

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バリュー投資サイトのGuruFocusで、ウォーレン・バフェットが過去にインタビューで語った内容を取り上げている記事がありましたのでご紹介します(原典は、バリュー投資家にとっておなじみのOID誌です;Outstanding Investor Digest)。今回の文章は短いですが、前2回つづけた投稿(過去記事1, 2)のカギとなるものです。(日本語は拙訳)

Buffett and Munger on Discount Rates and How They Read Annual Reports (Grahamites氏の記事、GuruFocus)

<バフェット> 将来における現金の収支を見積もることができたら、それらの数字を現在価値へと引き直すために、割引率をいくつにすればよいかが問題になります。わたしの感覚では、ほとんどの資産においておそらく長期国債[おそらく30年債]の利回りが最適な数字だと思います。ただしわたしだけでなくチャーリーもそうですが、「金利が低い側にある」という印象を持っているときは、おそらく長期国債の利回りそのものを使おうとは考えないと思います。そのようなときには、ふつう1ポイントか2ポイント追加するかもしれません。しかし、この一連の説明を聞いた方は、長期国債の利回りを使ってみたくなるでしょう。そうだとしたら、株式と債券における経済的な面での違いは事実上なくなります。違っているのは、債券の場合は将来どれだけのキャッシュフローが得られるのか知り得るのに対して、株式の場合は自分でそれを見積もらなければならない点です。これは骨の折れる仕事ですが、ずっと大きな見返りが得られる可能性を秘めています。それゆえ、仮想的な収入には関わりたくないのでしたら、農地やアパートやそういったものを見積もったほうがいいでしょう。少なくとも、わたしたちはそうしています。

Buffett: And once you’ve estimated future cash inflows and outflows, what interest rate do you use to discount that number back to arrive at a present value? My own feeling is that the long-term government rate is probably the most appropriate figure for most assets. And when Charlie and I felt subjectively that interest rates were on the low side – we’d probably be less inclined to be willing to sign up for that long-term government rate. We might add a point or two just generally. But the logic would drive you to use the long-term government rate. If you do that, there is no difference in economic reality between a stock and a bond. The difference is that the bond may tell you what the future cash flows are going to be in the future – whereas with a stock, you have to estimate it. That’s a harder job, but it’s potentially a much more rewarding job. Logically, if you leave out psychic income, that should be the way you evaluate a farm, an apartment house or whatever. And in a general way, Charlie and I do that.

2018年3月12日月曜日

ウォーレン・バフェットの株式投資入門:金利と債券と株式について

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「バフェットからの手紙」を公開したウォーレン・バフェットが、恒例となっているベッキー・クイックのインタビューを受けていました。そのなかから、昨年後半にも話題になっていた金利に関する質疑応答を引用してご紹介します。なお長文の段落は、意味段落で適宜改行しました。(日本語は拙訳)

FULL TRANSCRIPT: BILLIONAIRE INVESTOR WARREN BUFFETT SPEAKS WITH CNBC’S BECKY QUICK ON "SQUAWK BOX" TODAY (CNBC)

<質問者: ベッキー・クイック> 株式に強気で来た理由として、現時点では金利の状況もそうだとのご意見ですが、たしか以前に「金利は株価に作用する重力であり、十分に低ければ株価は必ずや上昇する」と言われていましたね。しかし市場では実に奇妙なことが起こっています。雇用に関する報告が良好だといううれしいニュースが出たとたん、突如として不安が漂うようになりました。金利が上昇し、連銀が予想以上に上昇率を高めるのではないかと、みんな心配性になっています。朝起きて確かめる度に、10年物の国債利回りが3%へと戻りつつあります。このことで投資家は、いえ「少なくともトレーダーは」と言うべきですね、何が起きているのだろうと気がかりになっています。この件をどんなふうに捉えていますか。

<ウォーレン・バフェット> そうですね、ベッキー、もし30年物の米国債を買ったとしますよ。するとすべてのクーポンが付いてきます。今は電子的になりましたが、昔はそうだったのです。とにかくクーポンが全部付いてきます。クーポン毎に3%などが支払われるとします。今から30年後までずっとですよ。そして最後になると、額面分の金額を返してくれます。

それでは株式はどうなのかと言いますと。それと同じようなものです。クーポンがたくさん付いてきます。ただし、数字は印刷されていません。その数字を印刷することが、株式を買う投資家のやるべきことなのです。数字が10%だとしましょうか。ほとんどの米国企業は、有形資本比で10%以上の利益をあげています。この債券[的にとらえることのできる株式]が10%だとすれば、3%と書かれている債券よりも、ずっと高い価値があります。しかし米国債が10%であれば、あなたが買った債券[風の株式]の価値は変わります。GMやバークシャー・ハサウェイなどの一部を[株式として]買うということは、現金の形で徐々に戻ってくるわけです。バークシャーの場合はずっと先になりますが、大きな金額になるでしょう。それらがクーポンなのです。そのクーポンをどう考えればいいのか投資家として決断するのは、買うのは自分だからですし、価値を割り引いた金額で買うからです。しかし物差しとしての米国債の利回りが高くなれば、ほかの債券[=株式など]の価値は魅力が薄れます。これが[この手の話題についての]経済的な理屈です。

1982年や83年には長期米国債の利回りが15%になりました。当時ROEが15%だった企業は、そのような環境では簿価分の価値しかありませんでした。30年物のストリップス[=割引債]を買えば、年率15%を確実にできたからです。当時12%の利益を得ていた企業は水準以下だったことになります。しかし現在のように米国債の利回りが3%であれば、12%の利益をあげる企業はすごく素晴らしいと言えます。ですから、そういった企業には法外な値段がついているわけです。

<質問> だから以前に、「3%は15%からほど遠い」とおっしゃったのですね。

<バフェット> そのとおりです。ただし、3%から15%へ上昇した様子を目にしたことはありますが。

<質問> たしかに。その途中で「なんと、2.4%から2.9%へ上がったのね。これは大きな違いだわ」と感じる変曲点がありますか。

<バフェット> その数字はそれほどではないですね。そんなに大きくはないです。

<質問> 過去を振り返れば、まだ...

<バフェット> そのとおりです。

<質問> ...絶対的な意味で大きく変化しておらず、パーセンテージもそれほど上昇していない、と受け止めるべき段階ですか。

<バフェット> ROE12%をあげている企業が再投資をしているのと比べれば、2.4から2.9%へ上昇した数字にはそれほど意味はありません。S&P[500]の数字はそれこそ云十年分もありますが、有形資本比でみてもっと高い数字をあげてきました。ですから、もっと高い値段になっていくわけです。

<質問> その途上で転換点があるのですか。それともそういったものは徐々に減少するのですか。

<バフェット> それはだれにもわかりません。ただし、重力として働きます。つまり「債券の利回りが来年には15%になる」と教えてくれれば、今にも手放したい株がいろいろありますし、15%の債券をたくさん買いたいところです。1982年にそうしていればと思ったりしますが、実際には買いませんでした。

<質問> それでは、もし「来年の長期債は4.5から5%で売買される」と私からお伝えしたら、どうなりますか。

<バフェット> それはたしかに違いますね。しかし例のときに長期債を保有するのは愚かでしたよ。この件は年次報告書で触れていますが、まさしく愚かなことでした[過去記事]。巨大な公的年金基金やその手の機関投資家が、座して債券を保有していました。4%あるいは5%近辺で買ったのかもしれません。しかし3%前後になると、額面以上の価格で売り買いしています。そのような考えかたでは、非常にバカげた行動をとることになります。

BECKY QUICK: And part of the reason that you've been so bullish on equities for many years at this point is the interest rate environment. You've looked at interest rates and said, "Interest rates are gravity on stock prices. And when interest rates are so low, stock prices inevitably are going to climb." There's been this really weird thing that's been happening in the markets. Where all of a sudden, good news that we got from a good jobs report made people start to worry that interest rates were going to climb and that the Fed was going to raise rates more than anticipated. People got really nervous around that. You can still see it every time we get up on the ten year back towards 3%. It gives investors, or at least traders I should say, some concerns about what's happening. How do you kind of gauge all of that?

WARREN BUFFETT: Becky, a bond, if you buy a 30-year government bond, it has a whole bunch of coupons attached. In the old days it does, now it's all electronic. But it has a whole bunch of coupons. And the coupon pays 3%, or whatever it may say. And you know that's what you're going to get between now and 30 years from now. And then they're going to give you the money back.

What is a stock? A stock is the same sort of thing. It has a bunch of coupons. It's just they haven't printed the numbers on them yet. And it's your job as an investor to print those numbers on it. If those numbers say 10% and most American businesses earn over 10% on tangible equity. If they say 10%, that bond is worth a hell of a lot more money than a bond that says 3% on it. But if that government bond goes to 10%, it changes the value of this equity bond that, in effect, you're buying. When you buy an interest in General Motors or Berkshire Hathaway or anything, you are buying something that, over time, is going to return cash to you. Maybe a long time in terms of Berkshire, but it'll be bigger numbers. And those are the coupons. And your job as an investor to decide what you think those coupons will be because that's what you're buying. And you're buying the discounted value. And the higher the yardstick goes, and the yardstick is government bonds, the less attractive these other bonds look. That's just fundamental economics.

So in 1982 or '83, when the long government bond got to 15%, a company that was earning 15% on equity was worth no more than book value under those circumstances because you could buy a 30-year strip of bonds and guarantee yourself for 15% a year. And a business that earned 12%, it was a sub-par business then. But a business that earns 12% when the government bond is 3% is one hell of a business now. And that's why they sell for very fancy prices.

BECKY QUICK: So 3% is a long way from 15% that you were just talking about.

WARREN BUFFETT: Absolutely. But I watched it go from 3-15% though, too.

BECKY QUICK: Right. Is there an inflection point on that way because people think, "Oh my gosh, we've gone from 2.4% to 2.9% and that is a big difference."

WARREN BUFFETT: It isn't much. That's not much.

BECKY QUICK: Historically speaking, that's still the way we should be measuring these things

WARREN BUFFETT: Absolutely.

BECKY QUICK: Not on the absolute movement or the percentage gain movement over time?

WARREN BUFFETT: 2.4-2.9% is nothing if you're comparing it with businesses that earn 12% on equity and reinvest. And the S&P, you can just look at the figures for decades, has earned on tangible equity, it's earned a lot more than that. And it translates into more, higher prices than it should.

BECKY QUICK: Is there a tipping point along the way, or is it a gradual decline in terms of these things?

WARREN BUFFETT: Nobody knows. Yeah. But it is gravity. I mean, if you told me interest rates were going to be 15% next year on bonds, you know, there's a lot of equities I wouldn't want to own now. And I would buy a lot of governments at 15%, and I kind of wish I had in 1982, but I didn't.

BECKY QUICK: If I told you that the long bond was going to trade at 4.5-5% next year, what would you (think)?

WARREN BUFFETT: It makes a difference. But it's been idiotic to own long bonds during the last, you know, I talk about this in the report. It's just been idiotic. And big, public pension funds and all that, they sat there and they owned bonds. Now, they may have bought them on a 4% or 5% basis. But if they go to a 3% basis, they're selling way above par. The way people think about it is that they do some very silly things.

2018年1月20日土曜日

金利からみた現在の株価水準(ウォーレン・バフェット、2017年10月)

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前々回の投稿で、現在の全般的な株価に対するウォーレン・バフェットの見解をご紹介しました。今回は、その際に触れた「3か月ほど前のインタビュー」から一部をご紹介します。(日本語は拙訳)

Chairman & CEO of Berkshire Hathaway Warren Buffett Speaks with CNBC’s Becky Quick on “Squawk Box” Today (トランスクリプト)

Watch CNBC's full interview with Warren Buffett (映像)

<ベッキー・クイック> (前略) 市場はと言えば、あまり反応がないようです。潜在的に悪いニュースをどれも無視しています、ダウ工業平均株価は昨日さらに記録を更新して、今では8四半期連続で上昇しています。このような市場の状況を妥当だとお考えですか。現在の市場がくだしている評価は、理にかなったものなのでしょうか。

<ウォーレン・バフェット> ええ、現在の金利水準からみると、市場の評価は妥当です。これはつまり、いずれ戻るところに照らし合わせて資金をどの資産へと振り向けるか、結局はそれで決まります。一番の基準になるのが米国政府です。10年物[の米国債]の利回りが2.3%であれば[インタビュー時点での利率]、株式のほうがかなり良い投資対象だと思います。わたしがどちらかを選ぶとしたら、現時点では株式にします。そうではなく、10年物の利回りが5あるいは6%であれば、株式の評価水準はまったく異なってきます。この件は以前に少し話をしましたね。

<ベッキー> そのことを言おうと、ちょうど考えていたところです。「重力として働くことで市場をどのように引き下げるのか、さらには現在はそうなっていない」話をしてから、何年か経ちました。

<ウォーレン> そうです、金利は重力です。もし今から最終日まで金利ゼロが続くとわかっていれば、たくさんの資金を別の資産へつぎ込むかもしれません。ゼロのところに資金を寝かせたくないですから。8年前の2009年にはここまで利率が低くなかったことを思い出します。しかし影響力は強力でした。低金利が長く続くにつれて、おなじみとなった利率近辺で考えだす人が多くなります。ですからしばらくは、この水準における株式の成績はまちがいなく債券を上回ると思います。金利が3%程度の30年物債券をショートして、一方でS&P500を買い持ちして30年間放っておくとすると、株は債券を大きく上回ると思います。ここで疑問となるのが、「どの変数が変化するのか」です。金利が変化するとはだれもが予想していますが、しかしそう予想してからずいぶん経ちました。

<ベッキー> それはつまり、もしひとつの要因が金利だとすれば、連銀が金利引き上げをにらんでいることはだれもが知っています。時間をかけて、ゆっくりと徐々に上げるようです。少なくとも、彼らはそのように匂わせています。それでは、引き上げが今後数年間は継続するほうに賭けますか。つまり、2.3%から5%まで時間をかけて金利引き上げを進めるでしょうか。

<ウォーレン> 長くかけると思います。

<ベッキー> 0.25%ずつ引き上げていくとしたら。

<ウォーレン> ええ、そうです。じっくり時間をかけると思います。ただしわたしとしては、株式市場がどうなるのか賭けたり予想したりはしません。ただ、ビジネスを買うだけですので。あえて予想すれば、もし10年債の利回りが5%になれば、株価はいくぶん下がると思います。(後略)

BECKY QUICK: And-- and you see a situation like this develop. Obviously-- our-- our-- our hearts and our thoughts are-- with-- the people of Las Vegas and the people who have traveled around to be there today. But we are talking about business, too. And as much as we should not become inured to this, if you look at the markets, it's hard to see much of a reaction. The markets have ignored just about any potential bad news badly with the Dow setting another record yesterday and with eight quarters in a row now of gains for the market. Is that-- a market that makes sense to you? Do valuations here make sense?

WARREN BUFFETT: Well, the valuations make sense-- with interest rates-- where they are. I mean, in-- in the end, you-- you measure laying out money for an asset in relation to what you're going to get back. And the-- and the number one yardstick is U.S. government. And-- and-- when you get 230 on the-- on the 10 year-- I think stocks will do considerably better than that. So if I have a choice of the two, I'm gonna take stocks at that point. On the other hand, if-- if interest rates were-- on the 10 year were five or six, you would have a whole different valuation standard for-- for stocks. And-- and we've talked about that, you know, for some time now.

BECKY QUICK: I was going to say, it's been years that you've been talking about how-- this is in relation to gravity, and pulling the market down, and how it's not happening here.

WARREN BUFFETT: Yeah, interest rates are gravity. If-- if we knew interest rates were gonna be zero from now till judgment day, you know, you could pay a lotta money for any other asset. You would not want to put your money on a zero. And I would have thought back in nineteen-- I mean, 2009 that rates would not be this low-- eight years later. But it's been a powerful factor. And the longer it persists, the more people start thinking in terms of something close to the-- the rates they've seen for a long time. So-- the one thing I'm sure of is that-- over time-- stocks from this level will beat bonds from this level-- you know? If I could be short the 30-year bond at 3% or something, and long the S&P 500, and just have it put away for 30 years, stocks are gonna far outperform bonds. And the question is: Which variable is gonna change? And everybody expects interest rates to change, but they've been expecting it quite a while.

BECKY QUICK: So does that mean-- I mean, if the one factor is interest rates, we know that the Fed is looking at raising rates. It's going to do so slowly and gradually over time. At least that's what they've been telegraphing to this point. Would you bet on that continuing for the next couple of years? I mean, 2.3% to 5% is a long way when you're moving—

WARREN BUFFETT: That'd be a long away.

BECKY QUICK: --when you're moving in quarter-point increments.

WARREN BUFFETT: Yeah. Yeah, that'd be a long way. And my-- I would-- I would guess-- I don't try and guess the stock market. I just buy businesses, how I-- but if I were to guess, if-- if interest rates-- if the 10 year moved up to 5%, I think stocks would be somewhat cheaper.

2018年1月12日金曜日

ウォーレン・バフェット曰く、「株価は高くない」(2018年1月)

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バークシャー・ハサウェイが昨日、新たな副会長として2名を加えたと発表しました(公式発表)。その補足説明ということで、ウォーレン・バフェットがCNBCのインタビューに応じていました。本題であるバークシャーの人事以外の話題として、最近の株価に関する発言もありましたので、そちらをご紹介します(日本語は拙訳)。

ひとつめは、トランプ減税の観点から見た株価についてです。

Warren Buffett says 'huge' corporate tax cut is 'not baked in' stock market (CNBC)

ウォーレン・バフェットは「株を保有する者にとって、今回の法人税改正は大きな追い風となるものだ」と信じている。

ドナルド・トランプ大統領が先月に署名したこの税制改革によって、法人税率が35%から21%に引き下げられる。

「今回の税制改正法は、価値を評価する上で非常に大きな要因になります」。ウォーレン・バフェットは水曜日に放映されたCNBCの番組スクォーク・ボックスで、そのように語った。「35%で満足していた米国企業の静かなる株主に、大きな変化が起きたわけですから。利益の35%分をとっていたところが、今や21%になりました。つまり、それ以外の株の価値が増すことになります」。

バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOである非常に裕福な彼は、減税の影響はまだ株式市場に反映されていないことも説明した。

「21%という数字は織り込まれていないと思います。それだけ巨大な削減だったわけです」、彼はそのように付け加えた。

Warren Buffett believes the corporate tax reform bill is very bullish for stockholders.

The tax overhaul, which President Donald Trump signed into law last month, lowers the corporate tax rate to 21 percent from 35 percent.

"The tax act is a huge factor in valuation," he said on CNBC's "Squawk Box" on Wednesday. "You had this major change in the silent stock holder in American business who has been content with 35 percent ... and now instead of getting 35 percent interest in the earnings they get a 21 percent and that makes the remaining stock more valuable."

The billionaire chairman and CEO of Berkshire Hathaway also explained the magnitude of the tax cut is not reflected in the stock market yet.

"I think 21 percent was not baked in. That's a huge reduction," he added.

もうひとつは、現在の金利面からみた株価についてです。なお、この話題は3か月ほど前にあった同じCNBCのインタビューでも取り上げられていました(そちらは改めてご紹介します)。

Warren Buffett says he's a net buyer of stocks, wary of cryptocurrencies (Australian Financial Review)

「金利の水準からみると、株式の評価が高いことはないと思います」

「当社は買い越しています」と彼は言った。「基本的には、昔から買いを重ねてきたのです。状況によっては売り手となることもありますが、ひとつ言えるのは、資金が集まり続ける会社なので、基本的に買い続けているわけです」

Stocks "are not richly valued relative to interest rates".

"Net we're buying," he said. "We're basically buyers over time. There could be conditions under which we're sellers. For one thing, the money keeps coming so we basically keep buying."

2017年10月28日土曜日

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)

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『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスの新しい翻訳書『かくて行動経済学は生まれり』を読みました。『マネー・ボール』でデータに基づく意思決定を取り上げた彼は、本書では人間が意思決定を行う際の矛盾に焦点を移し、昨今よく取りあげられている行動経済学の大家ダニエル・カーネマン(過去記事)と、その研究パートナーだった人物エイモス・トヴェルスキーが歩んだ学者人生や兵役生活、研究成果などをたどっています。

おもしろさという点ではマネー・ボールのほうが上をいくと思いますが、本書には評価したい側面があります。「二人の天才を取りあげたこと」は言うまでもありませんが、「天才同士の協調がどのように進められるのかを描いたこと」がそうです。「天才同士が協調して物事にあたる過程や、そこから生まれるもの」については大いに興味がありました。その典型が、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの協調によってバークシャー・ハサウェイが大きく発展した件です。その意味で本書は、予想外のうれしい一冊でした。

今回は、これからお読みになる方の楽しみを損なわない程度に、一部をご紹介します。最初に引用するのは、エイモス・トヴェルスキーの天才ぶりに触れた箇所です。

「(前略)彼は物理学のことを何も知らないのに、道端で物理学者に出会って30分話すだけで、物理学について、その物理学者が知らないことを話すことができた。わたしは最初、彼をきわめて底の浅い人物だと思った。つまり表面をごまかしてとりつくろっているだけなのだと。でもそれは間違いだった。ごまかしなんかじゃなかったんだ」(p. 111)

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エイモスの科学のあり方は、少しずつ積み上げていくというものではなかった」とリッチ・ゴンザレスは言う。「一気に飛躍して進む。既存の理論的枠組みを見つけ、その一般命題を見つける。そしてそれをぶち壊すんだ。彼自身も否定的なスタイルで科学をしていると思っていた。実際、彼は否定的という言葉をよく使った」。それがエイモスのやり方だった。他人の間違いを指摘してやり直す。そしてそのうちに、他にも間違いがあったことがわかるのだ。(p. 127)

次の引用は、さまざまなヒューリスティック(代表性や利用可能性といった、経験を踏まえて判断すること)によって、人があやまった予測をする過程を取り上げた箇所です。この種の話題は、本ブログでも何度か取り上げています。

どんな状況でも、不確実性の程度を判断するさい、人は"無言のうちに憶測"をすると彼らは述べている。「たとえばある企業の利益を予測するときは、その会社がふつうの操業状態であることを前提として推測をする」と、彼らのメモにある。「人はその条件が戦争やサボタージュ、不況、あるいはライバル会社の倒産などで、劇的に変化する可能性を考えない」。ここには明らかに、もう一つの間違いの原因がある。人は自分がわかっていないことをわかっていないというだけでなく、自分たちの無知を判断材料として考慮しようとしないのだ。(p. 216)

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現実の生活で遭遇する多くの複雑な問題、たとえばエジプトがイスラエルに侵攻するかどうか、あるいは夫が他の女のもとに走るかどうかといった問題を前にしたとき、人は頭の中でシナリオを組み立てる。そしてわたしたちが記憶をもとにつくりあげた物語が、確率の計算に取って代わってしまうのだ。「説得力のあるシナリオができると、将来を予測する思考が制限される可能性が高い」と、ダニエルとエイモスは書いている。「不確実な状況がいったんある形で知覚、解釈されると、他の形で見ることは難しくなる」

しかし自分でつくりあげた物語は、材料の利用可能性によってバイアスがかけられている。彼らは「未来のイメージは過去の経験からつくられる」と書いた。これは歴史の重要性についてのサンタヤーナの有名な言葉、「過去を覚えていられない者は、それを繰り返すそしりを受ける」の逆をいくものだ。過去についての記憶が、将来についての判断を歪めかねないと、彼らは言っているのだ。「われわれはよく、ある結果が生じる可能性はほとんど、あるいは絶対にないという判断をくだすが、それはその結果を引き起こす原因となる一連の出来事を想像できないからだ。欠陥は、わたしたちの想像力にある」(p. 219)

備考です。ナシーム・ニコラス・タレブは、想像力を発揮して未来を予測することの難しさについて触れていました。そして、エクスポージャーを予測するほうが容易だとしています(過去記事)。カーネマンのような先達がみつけた知見を踏まえた上での洞察でしょうから、参考にすべき見解だと受け止めています。

2017年10月12日木曜日

高田式、企業と自分の育て方(『伝えることから始めよう』)

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前回の投稿につづいて、今回はジャパネットたかたの高田明さんが書いた『伝えることから始めよう』から2か所ほど引用します。と言っても、高田さんが若かったころの話題は興味深く読める文章ばかりですので、お楽しみを損なわないように、短めのご紹介にとどめておきます。最初の引用は、ヨーロッパ駐在から帰ってきて、実家のカメラ店を手伝い始めたころの話です。

平戸のホテル全部と契約していましたから、毎晩いくつも宴会があって、こっちで500人、あっちで700人って、一晩で1,500枚、2,000枚の写真を撮ってプリントするんです。翌朝、売りに行く場所も十数ヵ所もあるんですよ。社員やアルバイトを十数人雇って、家族全員総出のフル稼働でした。

当時は3色刷りでしたから、1枚プリントするのに3回の手間がかかるから大変でした。現像機は1台しかありませんから、写真は晩ご飯が終わってから兄妹で交代で焼きました。できあがるのは午前4時ごろです。ホテルの朝食は朝6時ぐらいから始まりますから、毎日2,3時間ぐらいしか寝られないんですよ。

手伝えと言われたからやり始めた仕事でしたけれど、私のいいところは、自分でいいなんて言うのはおかしいですけど、過去のことはすぐに忘れて、目の前にあることに夢中になって、全力投球できるところなんですね。手伝いで撮影に行ったら、その時点でもう写真に夢中になっているんですよ。そんな性格に生んでもらって、私はつくづく幸せだと思います。(p. 21)

次にご紹介するのは、ジャパネットを経営するにあたってどのような基本方針を抱いていたのかを説明した文章です。

ジャパネットたかたの経営を振り返ってみると、「長期的なビジョンを持たない積み上げ経営」だったと思います。「長期計画のない経営」「目標を持たない経営」というテーマで講演したこともあります。計画性はほとんどなかったんです。

私は5年先、10年先の自分や会社の姿を思い描いたり、目標を立てたりして、それを達成するために今なすべきことを考えるという方法はとりません。そもそも5年先に何をしたいのか、どうなっていたいのか、ということすらあまり考えません。半年先、1年先のことも考えないんです。

軸足を置いていたのは、とにかく「今」です。今できることに最善を尽くす。そこから、次のステップが見えてくる。最善を尽くす中で次のステップが見えてきたら、スモールステップで次に進む。その繰り返しで成長を続けてきました。目標と呼べるようなものがあったとしたら、それは、とにかく昨日よりも今日、今日よりも明日、今年よりも来年と売上を伸ばし、成長していくという強い想いでした。

家業のカメラ店を手伝い始めてから、ジャパネットたかたを設立するに至った経緯はお話ししたとおりです。今を一生懸命に生きて、見えてきた課題を一つずつ克服し、すべてスモールステップを積み上げてきただけでした。

マーケティングでもそうですが、過去の事例があって数字があると、「こういうデータがあるから、こう動くだろう」と人間は考えてしまいがちです。しかし、それはあくまで過去の数字です。参考にはすべきですが、それにとらわれてはいけないと思います。数字から直近の変化をどう読み取るのかが重要なのであって、数字やデータに縛られると変化に対応できなくなります。今日売れたものが、明日は売れないということはよくあります。長期の目標だけにとらわれてしまうと、そこに危機が潜んでいるということもあると思うのです。

実際のところ、例えば、10年後に売上を10倍にする、などという目標を掲げたところで、10年後のことはだれにも予測がつきません。あまりに高い目標で、具体的に今、何をしたらいいかもわからない。無理な販売戦略を作ってしまうかもしれません。

数値目標を掲げてしまうと、数字を達成しようとして背伸びしがちです。とにかく売ろうとして、無理をして価格を安くしたり品質を落としてしまったりしてしまう。私はそういうことが好きではありません。

また、短い期間で売上を伸ばしたところで長くは続きません。どこかにひずみが出て、結果的に事業に悪影響を与えます。売上を伸ばすために、商品やサービスの品質が落ちてしまっては本末転倒だと思います。

目標を掲げること自体は悪いとは思いませんが、実力とかけ離れた目標を立ててしまうとよいことはありません。プレッシャーになるだけですよ。目標や数字にばかり気を取られ、身の丈に合わないことをしようとしたり、事業のミッションを忘れたりしてしまいます。それでは、事業をやること自体の意味を失ってしまうと思うんです。(中略)

目標は持たない経営に徹してきた私ですが、自分自身が向上する、会社を成長させるということについては強い意識を持ってきました。しかも、大きな向上を常に目指す。そんなことはできないと思われるようなことでも、成功する姿をイメージして挑戦してきました。(中略)

一流を目指す人は、「できない」なんて決めつけません。「できない」と思うようなことに果敢にぶつかっていきますよね。一流になりたいと願う人はたくさんいますが、本当になりたいなら、本気で行動しなければいけません。大きな向上を目指さないと、一流には近づいていけないと思うのです。(中略)

もうこれでいい、と思った瞬間に、その人の成長は止まってしまいます。自分を高めるという意識は、常に自分でしっかり持っていなければいけない。そして、自分を高めることができれば、結果もついてきます。(中略)

他者との比較がモチベーションになる人もいるようです。が、私はそうではありませんでした。比べるのは常に自分自身の過去でした。周囲のだれかと自分を比べて、優越感や劣等感を持ってもなんの得にもなりません。しかし、昨日の自分と比べると、自分の成長につながります。他の人に勝つことより、常に自分史上最高を目指せばいいと思うのです。(p. 231)

高田さんの抱く考え方は、いろいろな点でウォーレン・バフェットと似ていると感じました。うろ覚えになりますが、ウォーレン率いるバークシャー・ハサウェイは固定的な戦略を持たない主義で知られています(たとえば過去記事)。また、他人の目よりも自己評価を大切にする人ですし(過去記事)、「もうこれでいい」とは考えずに「死ぬまで現役」の人です。大きな向上をめざしてきたのは言うまでもありません。「似た者同士」はウォーレンが望むところですので、非公開企業のジャパネットさんには、事業継承でお悩みの際には、終の棲家としてバークシャーをご検討いただきたいものです(過去記事)。

2016年3月18日金曜日

おすすめのベイズ統計学入門書

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チャーリー・マンガーは機会やリスクを確率的にとらえるやりかたについて触れていましたが(過去記事例)、意思決定やリスク管理の切り口からみれば、それは一般的なやりかただと思います。個人的には、確率モデルを構築して投資対象を分析したいと意識してはいますが、なお勉強中の段階です。

そんなわけで最近読んだ確率に関する本も入門書です。題名は『完全独習 ベイズ統計学入門』です。ベイス統計学の話題は以前も取りあげ(過去記事例)、別の入門書も若干読んだのですが、本書はわかりやすさの点で秀逸でした。

第一に、本質的な概念を図で示している点です。著者の方も強調されているように、確率の大小や事象発生後の状態を表現するために面積図を採用しています(要するに、長方形の大きさを比較するだけです)。2次元の情報は数字や表よりも格段にわかりやすく、読み手が理解すべき説明がそのまま伝わってきます。面積図は小学生高学年(の一部)でも駆使できるツールですから、直観的なわかりやすさは折り紙付きだと思います。

第二に、発展的な内容へ説明を進めるやりかたが自然で、かつ飛躍が小さい点です。複雑な説明は削ぎ落しながらも、各々の本質的な説明が展開されているので、短時間で読了でき、基本的な内容を理解できます。

第三に、数式が限りなく少なく、本文の文字自体も少ない点です。それでいて読み手は重要な諸概念をそれなりに理解できるのですから、著者は本書のアーキテクチャーを検討する際に苦心なさったことと想像します。

ところで、おなじみの「モンティ・ホール」問題が本書でも取り上げられていました。その際に著者は「直観に反する」という表現を使っておられますが、投資家として個人的に追いかけているのが、まさしくその言葉です。確率(数学)と心理学(生物学)の両方を学び、その両者が交わった「直観に反する」機会を見定めたい。それが実利的な願望のひとつです。

2016年1月30日土曜日

理性か知性を欠いた者だけが挑戦できる(『バッテリーウォーズ』)

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前回と同じように、『バッテリーウォーズ』から印象に残った文章を引用します。今回も本筋とは少し離れますが、ベンチャー・キャピタリストのビノッド・コースラ氏の大胆な発言です。なお彼は、UNIXやJavaで一時代を築いたサン・マイクロシステムズの創業者の一人です。

講演の冒頭でコースラは、ガソリンが無敵だという前提に異議を唱えた。最近の実績を見れば、現在使われているほかのテクノロジーと同じくガソリンも脆弱だということがわかるはずだという。ガソリンに勝てる見込みが低いという事実こそ、まさに彼が勝利を目指す理由だった。勝てれば天文学的な金銭的利益が得られるからだ。「専門家たちは一様に2008年の金融危機について物知り顔で語っていますが、2008年6月の時点では誰もあんなことは予想していませんでした」と彼は言う。エネルギーについても事情は同じで、専門家はシェールガスの将来について今でこそきわめてはっきりした言い方をしているが、2008年には誰もそんなものが使いものになるとは予見していなかった。

「成功の確率が0.01パーセントだと言われても、私は受けて立ちます」と彼が言った。

壁にスライドが映し出された。「見えない方のために説明します。縦軸が成功の確率、横軸がインパクトの大きさを表します。テクノロジーの失敗する確率が90パーセント以上の場合、きわめて破壊的なインパクトが生じやすいということです」ベンチャーキャピタリストにとって、確立されたビジネスパターンの破壊、そしてそれに伴う新しいビジネス手法の創出は、ずば抜けて大きな利益をもたらすことが多い。

たいていのベンチャー投資家やエンジェル投資家はそんなやり方をしない、と彼は言う。失敗のもたらす結果と成功のもたらす結果に極端な差が生じない程度までリスクを抑えようとするのだ。

「私が提案したいのは、その正反対のやり方です」とコースラが言った。大きなリスクとそれがもたらす潜在的なメリットをむしろ歓迎すべきだという。

コースラは、目の前に座る出席者のほとんどまたは全員の耳に彼のメッセージが届いてはいても、聞き入れる者はごくわずかだとわかっていた。「ほぼ不可能なことに挑戦できるのは理性か知性を欠いた者だけ」だからだ。侮辱的な言葉を浴びせれば、少なくとも相手を困惑させるくらいの効果はあるかもしれない。「物事がうまくいかない理由を常に説明できる専門家は、理性と知性を備えた人間を常に脅かして、途方もないアイデアへの挑戦を妨げることができるのです」と彼は語った。(p.269)

2015年12月28日月曜日

動物はパターンを見つけずにはいられない(『「偶然」の統計学』)

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前々回に取り上げた本『「偶然」の統計学』から、もう一か所引用します。本ブログでたびたび取りあげる「確証バイアス」の話題です。

記憶が外からの影響を受けやすいことは、2章で取り上げた確証バイアスと関連がある。確証バイアスとは、自分の信条(科学であれば仮説)を支持する証拠にはなぜか気づくのに、それらに反する証拠には気づかない、という無意識の傾向のことである。たとえばこんな状況を考えてみよう。

私が数の並びを作るルールを考えた。それに基づく最初の3個は2,4,6だ。それに対してあなたがこれに続く3個を予想し、私はそれが合っているかどうかを言う。そして同じことを繰り返す。つまり、あなたは先ほどの数に続く数を3個予想し、私はそれが合っているかどうかを言う。私たちはこれを、私のルールがわかったとあなたが確信するまで続ける。

この例のような状況において、人間はえてして数の並びに関する自分の仮説に沿った3つ組を次々と探す。なので、この例においてあなたが私のルールを「偶数を挙げること」だと予想したなら、あなたは続く3個として8,10,12と言うだろう。そして、それが正しいと言われたら、それに続く3個として14,16,18を挙げる。それも正しいと言われたら、あなたは自信をもって、数が単純に2ずつ増えていくというのが私のルールだと思うに違いない。

あなたの挙げた並びが私のルールを満たしていることは確かだが、実はあなたが予想したルールは私が考えていたものではない。私のルールは、順次大きくなる整数からなる任意の集合だった。この例では、自分の仮説に沿う数の3つ組ばかりを探し、反証となりうるほかの3つ組で仮説を検証しようとしない、というバイアスが働いている。

興味深いことに、科学の理想像においては、科学者は仮説を思い付いたらそれを反証すべく実験をする。反証に耐えるほど、その仮説が正しい可能性は高まる。だが、科学的な評価はうまくいく仮説――そうした反証に耐える仮説――を思いついたことが基になるので、人間はおのずと自説の検証をあまり難しくしないようにしがちだ。

(中略)

2,4,6,8,10,12……という並びの背後にあるルールを探す例における関心の的は、人間が(そして動物も)パターンを見つけずにはいられないこと、そして現に見つけるのがうまいことである。すでに何度か触れたが、これは進化の自然な産物である――トラが近づいてくる兆しを見つけられれば、近隣の好戦的な部族の何人かが忍び寄ってきたのがわかれば、あるいは果実が食用に適していることを示す特徴を掴めれば、あなたが生き残って遺伝子を次の世代に伝えられる可能性は高まる。だが、迷信を取り上げたときに見たように、出来事のパターンは背後に何の原因もなく偶然生まれることもある。実際には何の関係もない2つの出来事に相関がある(片方の発生がもう片方の発生と関連がある)と信じることは、よく「錯誤相関」効果と呼ばれている。そして、ここに統計的な推論の出番がある。その目的は、偶然生じたパターンと背後に何らかの原因が本当に存在するパターンとを区別することだ。(p. 225)

2015年12月24日木曜日

平均への回帰(『「偶然」の統計学』)

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一般向けに書かれた確率や統計の本はぽつぽつ手にとっています。最近は『「偶然」の統計学』という本を読みました。本書では、稀と思われる事象が「しばしば」発生する理由を中心に説明しています。そうは言いながらも確率や統計全般の話題もとりあげていて、気負わずに楽しみながら読み通せる一冊です。

今回本書から引用するのは「平均への回帰」です。よく知られた現象ですが、昨年同様、締めくくりの時期にふさわしい話題だと感じています。

平均への回帰の効果は至るところに見られ、それに意識が向くようになればどこにでも見つかる。スコアや結果や反応にランダムな要素があれば、その効果は必ず現れる。たとえばパフォーマンスについて考えてみよう――試験でも、仕事でも、スポーツでも、何でもいい。パフォーマンスには実力や準備などの要因に左右される面が当然あるが、偶然にも左右される。その日はとりわけ調子が良かったとか、試験のヤマが当たったとか、売り込みに行った先の担当者が高校の同期だったとか。良いパフォーマンスにおける偶然の貢献分は次回になくなる可能性が高く、そうなるとパフォーマンスが下がったように見える。平均への回帰は、結果を額面どおり受け取る前に注意が必要だと警告する。飛び抜けたスコアは主に偶然のおかげかもしれないのだ。

ということは逆も言える。飛び抜けたパフォーマンスが部分的にでも有利な偶然のおかげなら、とりわけひどいパフォーマンスも部分的には不利な偶然のせいということになる。

この話をふまえると、あらゆる類いのランキング(スポーツチーム、外科医、学生、大学などなど)についてはっきり言えることがある。上位にいる要因の大半が偶然なら、次回は下位に沈む可能性が高い。(p.169)