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2014年4月28日月曜日

ジャック・ウェルチはダンスを踊るか(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門、20回目です。今回は耳の痛い話です。しかし見識ある人が率先してこのような発言をしているわけですから、次の世代の人間としてすなおに見習うべきと受けとめています。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> コカ・コーラ社の失策を話題にしていましたが、それではアップル社がやったまちがいについて何かご意見はありますか。

<マンガー> まさにちょうどぴったりの答えをしましょう。GE社のCEOであるジャック・ウェルチを真似たものです。工学の博士号をとった彼は実業家としても第一人者であり、そして非常に優れた男です。その彼がつい最近、ウォーレンの同席している場でこんな質問を受けました。「ジャック、アップルはなにをまちがったのでしょうか」。

彼がどう答えたかって? 「その問いに答えられるほどの特有な能力は、私にはまるでないですね」。まさしくそれと同じように答えましょう。私にとってその領域は、何か特別な洞察を提供できるところではありません。

その一方、ジャック・ウェルチを真似する中で大事なことを伝えようとしているつもりです。つまり、「自分の知らないことだったり、特有の能力がないときには、躊躇せずにそう言うこと」です。

昆虫のハナバチの生態にみられる例と似たことをする種類の人がいます。ハナバチは花の蜜をみつけると巣へ戻ってダンスを舞い、蜜のありかの方位と距離を仲間に教えます。遺伝子に刻まれたものがそうさせるのですね。40年か50年ほど前に、ある頭のいい科学者が花の蜜を外側へ引き出したらどうなるか試してみました。ハナバチの通常の生活では、そのように蜜が外に飛び出していることはありません。さて、あるハチが蜜をみつけて巣へ戻りました。しかし蜜が飛び出していることを伝えるダンスのやりかたは、遺伝子には組み込まれていません。それではどうしたと思いますか。

ジャック・ウェルチのようなハチであれば、黙ってじっとしていたでしょう。しかしそのハチが実際にやったのは一貫性のないダンスで、わけのわからないものでした。人間にもそのハチのような人がたくさんいます。質問されたときに、そうやって答えようとするわけです。これはとんでもないまちがいです。「どんなことでも全部知っていますよね」などとは、誰も期待していないのですから。

実際のことはまるで知らないのに、質問に対していつも自信満々に答える。そんな人がいれば追い出すようにしています。私からすれば、ハチが一貫性のないダンスをするのと同然です。まさに巣全体を混乱させるだけです。

Q: You discussed Coke's mistake. Do you have any thoughts about where Apple went wrong?

Let me give you a very good answer - one I'm copying from Jack Welch, the CEO of General Electric. He has a Ph.D. in engineering. He's a star businessman. He's a marvelous guy. And recently, in Warren's presence, someone asked him, "Jack, what did Apple do wrong?"

His answer? "I don't have any special competence that would enable me to answer that question." And I'll give you the very same answer. That's not a field in which I'm capable of giving you any special insight.

On the other hand, in copying Jack Welch, I am trying to teach you something. When you don't know and you don't have any special competence, don't be afraid to say so.

There's another type of person I compare to an example from biology: When a bee finds nectar, it comes back and does a little dance that tells the rest of the hive, as a matter of genetic programming, which direction to go and how far. So about forty or fifty years ago, some clever scientist stuck the nectar straight up. Well, the nectar's never straight up in the ordinary life of a bee. The nectar's out. So the bee finds the nectar and returns to the hive. But it doesn't have the genetic programming to do a dance that says straight up. So what does it do?

Well, if it were like Jack Welch, it would just sit there. But what it actually does is to dance this incoherent dance that gums things up. And a lot of people are like that bee. They attempt to answer a question like that. And that is a huge mistake. Nobody expects you to know everything about everything.

I try to get rid of people who always confidently answer questions about which they don't have any real knowledge. To me, they're like the bee dancing its incoherent dance. They're just screwing up the hive.


備考です。今年の初めに『ミツバチの会議: なぜ常に最良の意思決定ができるのか』という本を読みました。意思決定の方法を参考にする目的で手に取ったのですが、フィールドワークを楽しむ著者の想いがじんわり伝わってくる作品で、個人的にはとても楽しんで読めました。本ブログで引用してしまうと主題の種明かしになるので取りあげませんでしたが、生物界から学ぶことを好む方にはお勧めできる本です。もちろんダンスの話題も満載です。

2 件のコメント:

ブロンコ さんのコメント...

== No title ==
とてもすばらしい内容ですね。
私はアリストテレスが言ったとされる言葉をアレンジしてモットーにしています。
あれこれしゃべって「あいつは知らないことを知っていると思い込んでいるだけのやつだ」と思われるよりは、何もしゃべらずに「あいつは何も知らないんだな」と思われる方がよい。
何もしゃべらずに「あいつは何も知らないんだな」と思われるより、「わたしは知らない」「私にはわからない」と言って「あいつは本当に何も知らないんだな」と決めつけられるほうがよい。

betseldom さんのコメント...

== ブロンコさんへ ==
ブロンコさん、こんにちは。コメントをありがとうございます。
チャーリー・マンガーは、物事の善悪については自分の意見をはっきりと述べがちですが、市場などが「いつどうなるか」や、政治に関する複雑な問題をどうやって解決するかについては、わからないの一言で済ましていたように覚えています。
しかしブロンコさんの書かれた「『あいつは本当に何も知らないんだな』と決めつけられるほうがよい」という文章には、しびれました。
またよろしくお願いします。