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2013年3月13日水曜日

グロッツ印の炭酸甘味飲料(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講話『実用的な考え方を実際に考えてみると?』の第6回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

次にパブロフの条件付け[いわゆる条件反射のこと]ですが、こちらも欠かせないので考えておく必要があります。パブロフの条件付けでは、単に連想するだけで強力な効果がうまれます。エサが出てこないベルが鳴ったときでも、パブロフの犬の神経系は唾液を出すように働きました。同じように人間の男性の頭脳も、高嶺の花が手にしている類の飲み物をほしがるのです。ですからグロッツさん、称賛に値するきちんとしたものであれば、思いつく限りのあらゆるパブロフの条件付けを我々は利用すべきです。この商売を続けていく以上、消費者が自分の好きなものや賞賛するものを思い描く際には、そのどれをとっても我らの飲み物や広告が思い起こされなければなりません。

パブロフの条件付けを広範にわたって進めることになると、特に広告面で多額の費用がかかります。想像をはるかに超えた莫大な資金を費やすことになるでしょう。ですが、無駄金にはなりません。新たな飲料市場を迅速に拡大することで、競合他社がパブロフの条件付けをつくりだすために広告代を払おうとしても、全体としてみれば規模の不利益に直面するからです。これは、他の「大は力なり」効果とあいまって再び追い風を送ってくれ、あらゆる新市場で少なくとも半分は押さえられるようになるでしょう。実際のところ、我々は大量の製品を扱うがために、買い手が分散しているほど配送コストの面できわめて優位に立てるのです。

さらには単なる連想が起こすパブロフの条件付けは、風味や舌触りや色をどうすればよいのか選ぶ際の案内役にもなります。パブロフの効果を考慮すれば、ありきたりな名前「グロッツ印の炭酸甘味飲料」などとつけるのではなく、エキゾチックで高価な印象を漂わせた「コカ・コーラ」と名づけるほうが賢明でしょう。同じようにパブロフの理由から、砂糖水よりもワインに似せた感じのほうが利口です。濁らないのであれば人工的に着色し、そしてシャンパンなどの高価な飲み物を思わせるように炭酸を注入します。これは風味がよくなるだけでなく、競合製品から真似されにくくなります。最後に、風味には高級な心理的効果をいろいろ持たせたいので、他によくあるものとは異なったものとすべきです。なるべく模倣されないために、また風味上の効果がたまたま一致して既存製品が利を得ることのないようにです。

このほかにも、我々の事業に役立つものが心理学の教科書からみつかるでしょうか。ひとつあげられるのが「猿真似すること」、人間が持つ本性の強力な一面ですね。心理学者は「社会的証明」と名づけていますが、たとえば単に他人が消費しているのを目撃したことで、それを真似して消費する行動です。これは我々の提供する飲料を試してみようかと思わせるだけでなく、飲むと得られる報酬を補強する役割も果たしてくれます。ですから、我々が広告や販売促進の企画をする際には、また現在の利益を我慢して今後の消費拡大を図るには、この強力な社会的証明の要因を必ず考慮にいれることになります。他のほとんどの製品以上に、売上数の増加が販売力の強化につながるのです。

グロッツさん、ここまで3つの要因の組み合わせをみてきました。第一に強いパブロフ型条件づけ、第二に強力な社会的証明によって得られる効果、そして最後にオペラント条件付けを力強くも呼び起こす、美味上々、滋養豊富、刺激爽快、冷涼愛好な飲み物。このように我々の選んだ要因が劇的に合わさることによって、我らの事業は長きにわたって売上げをどんどん増やしていくでしょう。つまり化学でいうところの自触媒作用的なもの、より正確には複合要因によって生じる種類の「とびっきりな」効果が始まります。これこそ、私たちの望むものであります。

We must next consider the Pavlovian conditioning we must also use. In Pavlovian conditioning, powerful effects come from mere association. The neural system of Pavlov's dog causes it to salivate at the bell it can't eat. And the brain of man yearns for the type of beverage held by the pretty woman he can't have. And so, Glotz, we must use every sort of decent, honorable Pavlovian conditioning we can think of. For as long as we are in business, our beverage and its promotion must be associated in consumer minds with all other things consumers like or admire.

Such extensive Pavlovian conditioning will cost a lot of money, particularly for advertising. We will spend big money as far ahead as we can imagine. But the money will be effectively spent. As we expand fast in our new-beverage market, our competitors will face gross disadvantages of scale in buying advertising to create the Pavlovian conditioning they need. And this outcome, along with other volume-creates-power effects, should help us again and hold at least fifty percent of the new market everywhere. Indeed, provided buyers are scattered, our higher volumes will give us very extreme cost advantages in distribution.

Moreover, Pavlovian effects from mere association will help us choose the flavor, texture, and color of our new beverage. Considering Pavlovian effects, we will have wisely chosen the exotic and expensive-sounding name “Coca-Cola,” instead of a pedestrian name like “Glotz's Sugared, Caffeinated Water.” For similar Pavlovian reasons, it will be wise to have our beverage look pretty much like wine instead of sugared water. And so, we will artificially color our beverage if it comes out clear. And we will carbonate our water, making our product seem like champagne, or some other expensive beverage, while also making its flavor better and imitation harder to arrange for competing products. And, because we are going to attach so many expensive psychological effects to our flavor, that flavor should be different from any other standard flavor so that we maximize difficulties for competitors and give no accidental same-flavor benefit to any existing product.

What else, from the psychology textbook, can help our new business? Well, there is that powerful “monkey-see, monkey-do” aspect of human nature that psychologists often call “social proof.” Social proof, imitative consumption triggered by mere sight of consumption, will not only help induce trial of our beverage. It will also bolster perceived rewards from consumption. We will always take this powerful social-proof factor into accounts as we design advertising and sales promotion and as we forego present profit to enhance present and future consumption. More than with most other products, increased selling power will come from each increase in sales.

We can now see, Glotz, that by combining (1) much Pavlovian conditioning, (2) powerful social-proof effects, and (3) a wonderful-tasting, energy-giving, stimulating, and desirably cold beverage that causes much operant conditioning, we are going to get sales that speed up for a long time by reason of the huge mixture of factors we have chosen. Therefore, we are going to start something like an autocatalytic reaction in chemistry, precisely the sort of mutifactor-triggered lollapalooza effect we need.

2 件のコメント:

リュウジ さんのコメント...

こんにちは。いつも勉強させてもらっております。

少し前に『レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか』という本を読了したのですが、レッドブル社の成功とチャーリーの「実用的な考え方を実際に考えてみると?」との共通点の多さに戦慄すら覚えました。と同時に、近年高成長を続けているエナジードリンク業界でNO2の位置にいるモンスタービバレッジ(mnst)はおもしろい銘柄ではないかと考えています(レッドブルはCEOのディートリッヒ・マテシッツが株式を公開する気がないようなので)。

ここでmnstの商品であるモンスターエナジーをチャーリーの講話内容に当てはめてみると

1.水を加工した商品を扱っている。
2.独特の味わいと香りのある砂糖とカフェインの入った炭酸飲料であり、日本ではコンビニ・ドラッグストアなどでほぼ確実に手に入れることができる(オペラント条件付け)。
3.エクストリームスポーツの選手やアーティストのスポンサーとなり大会などを開催することによって得られる社会的証明と「モンスターとは缶に詰められたライフスタイルである。」というコンセプトに、モンスターという威圧的な名称に引っ掻いたようなおどろおどろしいしいロゴを組み合わせることで非日常的な存在というブランドイメージを構築する(パブロフの条件付け)。
4.一般的な清涼飲料と比べて高めの価格設定による利益率の高さ(値段が高けりゃ、品質も一番)。
5.これらを組み合わせることによって購入者に非日常的な体験、高いステータス、滋養豊富、刺激爽快などを想起させる(とびっきり効果)。

などなど、価格を除くとコカ・コーラのブランド戦略を連想させるものばかりです。
またmnstは10年平均で営業利益率25%、ROE40%台を叩き出しており、さらにレッドブル・mnstの2社で世界シェアの80%を占めていることから、mnstはエナジードリンク業界において高いブランドイメージによる競争優位性を持っていると考えられます。

ただ、こんなわかりやすい銘柄が安値で放置されているわけもなく、実績PERは43倍と安全域を見出すのは難しい水準ですし、大恐慌や死亡事故といった大きなトラブルに巻きこまれない限り株価が下落することは考えられないので、商品の単純さとは対照的に手を出すタイミングが非常に難しい銘柄でもあります。地道に待つしか方法はなさそうです。

蛇足ですが、こういった銘柄を調べれば調べるほどKOをPER26倍の時に仕込んだウォーレンのように、バークシャーの投資行動は原則などでまとめられているほど簡単ではないのだということを思い知らされます。

まとまりのない文章を長々と失礼しました。

betseldom さんのコメント...

リュウジさん、こんにちは。

エナジードリンク業界に関する本やチャーリー・マンガー的分析のケーススタディーをご紹介くださり、ありがとうございました。飲料業界は監視していなかったので参考になりました。

リュウジさんがあげられたご指摘を読んで、「モンスタービバレッジ社(mnst)の成長は、ソフトドリンク業界全般に有効と思われるマーケティングが、エナジードリンクというカテゴリーでも通用した」ことを示していると感じました。またニッチから攻めて展開する戦略も定石どおりのように思われます。コカ・コーラ社の例をあげたチャーリーの文章は、ソフトドリンク・ビジネスという山の登り方をより形式的・本質的な表現を使って表したものと、個人的には解釈しています。そのため成否を問わずさまざまな事例は、チャーリー的表現へ還元できるように思えます。

そこまではよいとしても、投資家各人には次の判断が迫られます。「たとえば10年後の姿(収益力や競争力)を高い確度でどこまで予想できるのか」「すぐれた企業をみつけるのはかんたんだが、いま支払うに値する値段はいくらなのか」「逆に考えるとどうなのか」といったことです。チャーリーはこれらを定量的・確率的に考えるやりかたや例も示していますが、「神は細部に宿る」という言葉のとおり、肝心な部分は各人が埋めるしかないと思います(あるいは好機が来るまで辛抱するか)。

mnst社固有の視点としては、被買収候補としてシナジーを考慮した潜在的価値が評価されているのかもしれません(すでにCokeも出資提携しているようですね)。しかしこの件は不確実性が高いので(言い換えると業界動向に疎いため)、ここで申し上げられることは特にありません。

「投資が簡単だとは思えない」とはチャーリー自身の言葉です。だからこそ個人的には「投資をするのは簡単な時期だけ」とみずからに言い聞かせるこの頃です。

またよろしくお願いします。それでは失礼します。