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2013年1月11日金曜日

企業戦略を成功に導くには(ルイス・ガースナー)

いまさらですが、IBM再生の立役者ルイス・ガースナーの自伝『巨象も踊る』を読んでいます。少し前の投稿で、低迷した企業が復活できる例をウォーレン・バフェットが挙げていますが、当社の場合は「ど真ん中」の本業が苦しんだことから、ウォーレンの事例とは異なる部類だと捉えています。

経営者に関する本はたまに手に取りますが、かざらない文章にひきこまれました。本書には印象に残る文章がいろいろありますが、「こういうのを待っていた」ともっとも感じたものを、今回はご紹介します。世の経営者に対してだけでなく、自分自身の日常を叱咤するようにも聞こえました。

実行能力、つまり物事をやりとげ、実現する能力は、すぐれた経営者の能力のなかで、もっとも評価されていない部分だ。わたしは経営コンサルタントだったころ、数多くの企業の数多くの戦略の策定に加わった。ここで、経営コンサルタント業界の小さな暗い秘密をお教えしよう。ある企業のために独自の戦略を策定するのは極端にむずかしいし、業界の他社の動きとはまったく違う戦略を策定した場合、それはおそらくきわめてリスクの高いものなのだ。その理由はこうだ。どの業界も経済モデル、顧客が表明する期待、競争構造によって枠組みが決まっており、これらの要因は周知のことだし、短期間に変えることはできない。

したがって、独自の戦略を開発するのはきわめてむずかしいし、開発できたとしても、それを他社に真似されないようにするのはさらにむずかしい。たしかに、コスト構造や特許で、他社の追随を許さない強みをもつ企業がないわけではない。ブランド力も競争上の強力な武器になり、競合他社はこの面で業界のリーダーに追いつこうと必死になっている。しかし、これらの優位が他社にとって永遠に越えられない壁になることはめったにない。

結局のところ、どの競争相手も基本的におなじ武器で戦っていることが多い。ほとんどの業界で、業績向上の原動力になる要因、成功をもたらす要因を5つから6つ指摘できる。たとえば、小売り業界でマーチャンダイジング、ブランド・イメージ、不動産コストが決定的な要因であることはだれでも知っている。この業界で成功するための新たな道筋を見つけ出すのは、不可能ではないまでも、きわめてむずかしい。ドット・コム小売り企業の華々しい失敗は、業界の基礎的要因を棚上げにできないことを示す好例である。

したがって実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やり遂げること、正しくやりとげること、競争相手よりうまくやりとげることが、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。

世界の偉大な企業はいずれも、日々の実行で競争相手に差をつけている。市場で、工場で、物流で、在庫管理で、その他もろもろのすべての点で差をつけている。偉大な企業が競争相手との激闘を避けられるほど、真似のできない強みをもっているケースはめったにない。(p.302)


もうひとつ、こちらはおまけです。RJRナビスコの経営者だったルーがIBMに移ることが決まって、勤務前に同社の会議に出席したときの追憶です。

大きな会議室に案内されて、本社経営会議に出席した。本社の経営幹部が50人ほど集まっていた。女性が何を着ていたかは覚えていないが、会議に出席していた男性が全員、白いシャツを着ていたのが印象的だった。例外がひとりいた。わたしだけ、ブルーのシャツを着ていた。IBMの経営幹部としては、常識を大きく逸脱する服装だったのだ。(何週間か経って、同じ会議があった。わたしだけが白いシャツで、他の全員が色物のシャツだった)。(p.39)

4 件のコメント:

ブロンコ さんのコメント...

== 巨象も踊る ==
ガースナーはただ者ではありませんね。
私が本書の中で気に入っているのは「象が蟻より強いかどうかは、問題ではない。
その象がうまく踊れるかどうかの問題である。見事なステップを踏んで踊れるのであれば、蟻はダンス・フロアから逃げ出すしかない。」です。
本書を通じて、IBMの視点から当時のコンピューター業界の騒乱を見ることができますが、「ビル・ゲイツ―巨大ソフトウェア帝国を築いた男」ではマイクロソフトから、「スティーブ・ジョブズ-偶像復活」ではアップルの視点から見ることができ、それらの3つの視点により当時の状況を立体的に理解することができました。
??これらの本はすべて図書館で借りました。私も図書館愛好家です。)

betseldom さんのコメント...

== 立体的に理解すること ==
ブロンコさん、こんにちは。コメントをありがとうございました。
「象が蟻より強いかどうか」のくだりは、規模の経済の利点を説いた箇所ですね。巨大企業のトップらしい、重厚な語り口が印象に残りました。
ブロンコさんの言われている、関連する3冊の本を読むことで「立体的に理解」された点は参考になりました。物事を把握する際に座標軸(x,y,z)を意識することで対象を立体的にとらえる、というやりかたは新鮮です。系統立てて情報を把握するやりかたとして、自分なりに取り組んでみたいと思いました。
またよろしくお願いします。
それでは失礼致します。

ブロンコ さんのコメント...

== 多くの視点から見ると ==
多くの方向からスポットライトを当てる、つまり多くの視点から物事を見ると今まで見えなかったものが見えるだけでなく、今まで見えていたものが見えなくなることもあります。
IBM、マイクロソフト、アップルを通じてコンピューターやITを考えた結果、今の私には難しすぎるという結論に達しました。IBMについてだけの、マイクロソフトについてだけの、アップルについてだけの視点で見ればそれぞれの企業を理解可能なように思え、実像をつかんだかのように思えたのですが、結局それは心理的なバイアスがかかった状態という虫眼鏡を通して見えた、大きな大きな虚像にすぎませんでした。実像を見ていたつもりが視点を増やすと何も見えなくなってしまいました。

betseldom さんのコメント...

== 見えていたものが見えなくなること ==
ブロンコさん、こんにちは。
「見えていたものが見えなくなる」と書かれていたのを読んで、「知らないを知る」という言葉を思い出しました。ブロンコさんのご経験やご意見を読むほどに、チャーリー・マンガーがダーウィンのやり方を強く勧める理由が、また少しずつ沁みこむ感じがします。
自己を見直すきっかけを頂き、いつもありがとうございます。
それでは失礼致します。