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2012年3月31日土曜日

プリンストンへのふざけ半分の手紙(ロバート・ルービン)

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ルービンという名前を聞くと、クリントン政権時代の閣僚で日本経済をこてんぱんにしてくれた印象があり、これまではなんとなく近寄るきっかけがありませんでした。が、少し前にチャールズ・エリスの『ゴールドマン・サックス』を読んだところ、控えめな言動ぶりが意外で(他の歴代頭領は、ごり押し型が多いのです)、彼に対して少しばかり興味を持ち始めていました。そして別の理由もあり、めぐりめぐって『ルービン回顧録』を手にとることになりました。

今回は同書からの引用で、ちょっとした粋なやりとりです。こういったウィットを交わせる大人になりたいものです。

[ハーバード大学を]卒業後、私は四年前不合格にされたプリンストン大学の入試部長にふざけ半分の手紙を出した。「貴大学の卒業生を追跡調査しておられることと拝察いたします。他方で貴大学に合格を許されなかった学生のその後にも興味がおありではないかと存じます。このたび私は最優等とファイ・ベータ・カッパ[優等学生友愛会の会員資格]をいただき、ハーバード大学を卒業いたしましたことをお知らせしたくお手紙を差し上げました」。すると、部長から折り返し返事があった。「お手紙ありがとうございます。毎年、プリンストンでは非常に優秀な学生を何名か不合格にしなければならないと考えております。ハーバードにも、すぐれた学生が入学できるように」 (p.87)


蛇足ですが、上述の『ゴールドマン・サックス』は楽しめた本です。アツい男たちのチーム・プレーや心意気が描かれており、ひきこまれました。自分の人生やポリシーとはまったく違うので、この手の世界には無意識にあこがれているのかもしれません。

2012年3月30日金曜日

シルバーの投資でいちばんへまをやった人

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ウォーレン・バフェットに対する反論としてマーク・ファーバーの見解を以前ご紹介しましたが(過去記事)、今回はシルバー陣営からのものをご紹介します。Jim Cookという、シルバー・アナリストのエッセイREMEMBER SILVERから引用します。(日本語は拙訳)

先日、ウォーレン・バフェットがゴールドについて否定的なコメントを出したので、ウォール街の住人やワシントンの役人たちを刺激したようです。ゴールドの信奉者は怒り心頭ですよ。しかし、バフェット氏の矛先がシルバーには向いていなかったのは、なぜでしょう。それは、彼こそがシルバー投資でいちばんへまをやった張本人だったからかもしれませんな。なにせ、一時期は世界中のシルバーの供給量の37%を保有していたんですよ。1オンス6ドル平均で1.3億オンス[合計で約800億円]買ったのが、1998年の5月。ところが2006年になって1オンス7.5ドルで売ってます。もし2010年まで我慢していれば、50億ドル[4000億円]の利益がでたでしょうに。そうそう、2006年にこういってましたな。「早く買ったのですが、早く売ってしまいました。シルバーは失敗しました」

His recent negative comments on gold titillated the Wall Street and Washington establishment. Gold bugs seethed with resentment. However, Mr. Buffett didn’t mention silver in his latest barrage of opinions. That’s probably because he’s the dumbest silver investor in history. At one time he owned 37% of the worlds known silver supply. In May 1998 he purchased 130 million ounces of silver at an average price of $6.00. He sold it in 2006 for $7.50 an ounce. If he had held it until 2010 he would have made a profit of $5 billion. He commented in 2006 that “I bought early and sold early. Silver was my fault.”

シルバーでの失敗というとハント兄弟のほうが有名ですが、あちらは「投資」ではなく「投機」といったところでしょうか。

さて、ここでご紹介したかったのは、実はこの一節ではなく、同じサイトに転載されているTed Butlerの文章です。過去のものがこちらに一覧されています。テッドは、世界でいちばん信頼されているであろうシルバーのアナリストで、わたしがシルバーに投資しはじめたのも彼の文章を読んだのがきっかけでした。ネタが少ないので話題が繰り返されていますが、基本的な知識を得るには役に立つかと思います。

最近はゴールドと共にシルバーの価格も下がってきており、再び注視する時期がやってきました。

2012年3月29日木曜日

やることがありません(ウォーレン・バフェット)

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あれやこれやとじたばたしても、何もやることがない。そんなときには、ウォーレン・バフェットのこの文章がぴったりです。1992年度「株主のみなさんへ」から引用です。(日本語は拙訳)

[買うほうと比べると]株式を売るほうは状況が違いました。それはもう、さびれた村の一軒しかない宿に泊まることになった旅人のようなものです。部屋にはテレビもなく、退屈な夜が待っていました。と、そこでベッド脇のテーブルの上に置かれた1冊の本に目がとまりました。題名をみると『寒村での楽しみ方』。これはもしぞやと表紙をめくると、そこに書いてあるのは、ほんの一言だけでした。「今まさに、あなたがやっていること」

Selling, however, is a different story. There, our pace of activity resembles that forced upon a traveler who found himself stuck in tiny Podunk's only hotel. With no T.V. in his room, he faced an evening of boredom. But his spirits soared when he spied a book on the night table entitled "Things to do in Podunk." Opening it, he found just a single sentence: "You're doing it."

1990年代前半のS&P500のチャートを以下に挙げました。たしかに1992年は騰落幅が小さいですね。11月の大統領選をはさんで一本調子で上昇しているのはお約束でしょうか。そういえば、今年も大統領選の年ですね。


2012年3月28日水曜日

4兆円の始まり(ウォーレン・バフェット)

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3/26付けのForbesの記事Warren Buffett's $50 Billion Decisionは、パートナーシップを設立した頃の思い出をウォーレン・バフェット自身が書いたものです。アリス・シュローダーによる伝記『スノーボール』でも知られた内容ですが、微妙にニュアンスが異なっているあたりが含みを感じさせます。以下に一部を引用します。(日本語は拙訳)

大学を卒業した時[1950年]の資産は9,800ドル[現在価値で約650万円]でしたが、1955年の末には127,000ドル[8,000万円]に増えていました。ですから、[ニューヨークを離れて]オマハに戻って、大学で授業をとったり、読み物にふけったり、そんな引退生活をしようと考えていたのです。1年間で12,000ドルもあればやっていけますので、127,000ドルの資産からすれば楽勝だと思いました。妻には「複利で増えるので、いずれ金持ちになれるよ」と説明しました。

(中略)

当初は、パートナーシップをはじめたり、仕事をやるつもりはありませんでした。自分で運用する分には何も心配なかったからです。他人に株を売ってまわる仕事はもうごめんでした。ところがひょんなことから、親戚も含めた7人の知り合いが相談してきました。株の商売をしていたのだから、自分たちの資金をどう運用したらよいか教えてほしい、と。そこで私は答えました。「株を売るのはもうやりませんが、ベン・グレアムとジェリー・ニューマンがやっていたようなパートナーシップだったら作れます。私も入れておきたければ、それでもかまいません」。そういうわけで、義理の父、大学時代のルームメイトとその母親、おばのアリス、私の妹、義理のきょうだい、私の弁護士の7名が判をつきました。まったくの偶然でしたが、それがはじまりだったのです。

(中略)

特に参加を募ったわけではないですが、面識のない人からも小切手が送られてくるようになりました。その頃、ニューヨークのグレアム=ニューマン・パートナーシップは解散中でしたが、パートナーのひとりにヴァーモント州のある大学で学長をつとめるホーマー・ドッジがいました。彼はベンにたずねました。「私の資金はいったいどうしたらよいかね」。ベンいわく「以前、うちで働いていた若いのがいるのですが..」。そんなわけでドッジはオマハまで車でやってきて、借家暮らしだった私の家をたずねてくれました。当時の私は25歳でしたが、みためは17歳といったところ、ふるまいときたら12歳でしょうか。ドッジは切り出しました。「で、きみは何をやっているのですか」私は答えました。「家族と暮らしながら、ここで仕事をしています。あなたの分もいっしょにやりますよ」

The thing is, when I got out of college, I had $9,800, but by the end of 1955, I was up to $127,000. I thought, I’ll go back to Omaha, take some college classes, and read a lot?I was going to retire! I figured we could live on $12,000 a year, and off my $127,000 asset base, I could easily make that. I told my wife, “Compound interest guarantees I’m going to get rich.”

I had no plans to start a partnership, or even have a job. I had no worries as long as I could operate on my own. I certainly did not want to sell securities to other people again. But by pure accident, seven people, including a few of my relatives, said to me, “You used to sell stocks, and we want you to tell us what to do with our money.” I replied, “I’m not going to do that again, but I’ll form a partnership like Ben and Jerry had, and if you want to join me, you can.” My father-in-law, my college roommate, his mother, my aunt Alice, my sister, my brother-in-law, and my lawyer all signed on. I also had my hundred dollars. That was the beginning?totally accidental.

I did no solicitation, but more checks began coming from people I didn’t know. Back in New York, Graham-Newman was being liquidated. There was a college president up in Vermont, Homer Dodge, who had been invested with Graham, and he asked, “Ben, what should I do with my money?” Ben said, “Well, there’s this kid who used to work for me.…” So Dodge drove out to Omaha, to this rented house I lived in. I was 25, looked about 17, and acted like 12. He said, “What are you doing?” I said, “Here’s what I’m doing with my family, and I’ll do it with you.”

2012年3月27日火曜日

ガーガー鳴くアヒル(ウォーレン・バフェット)

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まずは、下に挙げたS&P500の1990年代から現在までのチャートをごらんください。1997年以降にご注目です。









2008-2009年の暴落では、1997年初の株価水準まで戻しました。1997年といえばアメリカではITバブル真っ最中だったころですね。朝にTVをつけてNHKのニュースをみると、毎日のように新規上場企業のCEOがNYSEの鐘をついていたのを思い出します。さて、今回はそんな時代のウォーレン・バフェットによる1997年度「株主のみなさんへ」から引用です。

1997年がそうだったように、株価が上がっているときは誰でも大きなリターンを達成できるものです。上昇相場で避けなければならないのは、にわか雨がざっと降った後で「漕いで進むのがずいぶんうまくなったものだ」と考えながら、自慢げに鳴きたてて毛づくろいをするアヒルのようになってしまうことです。そうではなくて、どしゃ降りの後に他の仲間と比べて、池のどのあたりに留まっていられたかを考えるアヒルのほうが正しいでしょう。

Any investor can chalk up large returns when stocks soar, as they did in 1997. In a bull market, one must avoid the error of the preening duck that quacks boastfully after a torrential rainstorm, thinking that its paddling skills have caused it to rise in the world. A right-thinking duck would instead compare its position after the downpour to that of the other ducks on the pond.

おまけのチャートです。1997年以来のS&P500とバークシャー・ハサウェイ(BRK.A)の株価を比較したものです。









二度のどしゃ降りの中、S&P500は行きつ戻りつですが、バークシャーはずっと先まで前進していますね。

2012年3月26日月曜日

100年の大計が進められない?(信越化学工業金川会長)

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この週末は図書館で日経新聞の縮刷版を読んできました。新聞をとっていないので(過去記事)、情報を集めたり関連付けたりといった点で、新聞を読んでいる方には水をあけられていると感じています。また、年末年始にひととおり目を通した四季報からもあまりアイデアが得られず(過去記事)、最近は八方ふさがり気味です。そんなわけで初心にかえってみたところですが、半月分の紙面にざっと目を通したところで、都合のいい記事が待っているわけはないですね。

さて、今回ご紹介するのは1/5の日経新聞9面から、信越化学工業の金川会長の言葉です。「経営者」に対する辛口の批評ですが、投資家の視点で語ってくれています。

「市場が短期的な収益を求めるので『100年の大計』が進められないという経営者もいるが、ごまかしだと思う。長期的な成果は毎日毎日の積み重ねだ。今がちゃんとできない経営者は先もだめだし、私が投資家でも信用しない」

「研究開発投資などはしなければ先がないのでする。株主に説明して『今は負担だが、将来のためだ』と分かってもらえればいい。それにはまず利益という実績を示す必要がある。不信の言い訳に長期的な戦略を使ってはならない」

2012年3月23日金曜日

投資における最も価値ある道具(セス・クラーマン)

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株価が上がってしまって割安な銘柄があまり見つからなくなったら、ヘッジファンド・マネージャーのセス・クラーマンの言葉はどうでしょうか。見た目もしゃべりも温厚な雰囲気の彼ですが、投資のほうは凄腕です。今回の引用は、パートナーに向けた2004年度のレター(の転載)からです。

全額を投資せずに現金を大量に待機させておくのはギャンブルだ、という人がいます。市場に参加する時期をみはからっているのだろう、と。ですが、投資するかしないかを決めること自体、投資上の重要な要因だったはずではないでしょうか。「投資とは、あたりだろうがはずれだろうが、とにかく何か買うことだ」なんて、一体どこで決まったのでしょう。「今は投資しない」と言えない人は、投資における最も価値ある道具を投げ出しているわけです。ウォーレン・バフェットの古くからのパートナーであるチャーリー・マンガーは、こう助言してくれています。「将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引いて、それが買値以上のものをさがすのです。そして初歩的ですが、自分が有利なときだけ動くこと。勝率を見定め、勝ち目があるときだけ勝負に出るように自分を律する、これが大切です」。

Some argue that holding significant cash is gambling, that being less than fully invested is akin to market timing. But isn’t a yes or no decision the crucial one in investing? Where does it say that investing means always buying something, even the best of a bad lot? An investor who can’t or won’t say no forgoes perhaps the most valuable tool available to investors. Charlie Munger, Warren Buffett’s long-time partner, has counseled investors, “Look for more value in terms of discounted future cash flow than you’re paying for. Move only when you have an advantage. It’s very basic. You have to understand the odds and have the discipline to bet only when the odds are in your favor.

2012年3月22日木曜日

ひきつづき慎重です(ボブ・ロドリゲス)

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慎重派ファンド・マネージャーのボブ・ロドリゲスによる講演「注意!この先危険」をご紹介したのは、1ヶ月ほど前です。それなりに注目を集めたのか、最近になって同氏に対するインタビューがありましたので引用します。引用元の記事はBob Rodriguez on the Dangers in Today's Marketsです。(日本語は拙訳)

(質問者)
投資家に対する先日の講演では、株式や債券への投資では注意を忘れず、また辛抱するよう促していましたね。ある程度の安全余裕をみたうえで、どの資産クラスが現時点では好ましい価格だとお考えですか。

(ボブ・ロドリゲス)
一般的な投資ファンドということでしたら、株式にはわずかに魅力が残っています。講演でもとりあげたのですが、この半世紀でもっとも長くPERが減少し続けており、株式市場は魅力的だとみる人が多くなっています。この50-70年間の平均PERは15-16倍でしたが、現在は12-13倍です。だから安いと考えるのですね。ですが、過去のPERと今のものを比べるのは適切でないと思います。債務面において、経済状況が根本的に大きく変化したからです。

過去を振り返ると、1929年の大恐慌の始まりには、我が国のGDP債務比率は16%でした。その前の11年間は黒字です。第二次世界大戦初期の1942年には、その前の12年間は不況に苦しみましたが、41%でした。その上、当時は簿外債務は全然ありませんでした。

現在の状況は、当時のものとはかけ離れています。ですから、単純にPERを比べるのは適切だとは思えません。企業の成長見通しが低く、利益率は天井をつけており、ビジネス上の変化も激しい。そんな時代ですから、PERは低い水準で扱うのが適切だと思います。

(Q)
You have advised investors to be patient and cautious with respect to equities and fixed income. Are there any asset classes that you believe are attractively priced now, sufficient to provide the margin of safety that you mentioned at the beginning of “Caution: Danger Ahead?”

(A)
For what I would call a generalized investment fund, I view the equity markets as marginally attractive. As I tried to explain in the speech, we have just gone through the longest decline in P/E ratios in over half a century. Many are saying the stock market is attractive, because over the last 50 to 70 years the average P/E was 15 to 16 versus 12 to 13 now; therefore we have a discount. I would argue that to compare historical P/E ratios over this period is inappropriate, given the fundamental structures of our system are so dramatically different in terms of leverage.

I try to remind people that at the beginning of the depression in 1929, US debt-to-GDP was 16% after 11 straight years of surplus. And at the beginning of 1942, World War II, after fighting depression for 12 years, we were at 41% debt-to-GDP, and we didn't have any off-balance-sheet entitlement liabilities.

What we are looking at today is so far removed from any of these periods that I don't think it is an appropriate comparison. If you have a company with slow growth expectations, peak margins and business volatility, what type of P/E is given it? Typically, it is a lower P/E.

2012年3月21日水曜日

グランド・キャニオンをわたる(ウォーレン・バフェット)

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今回は、ベン・グレアムの言葉「Margin of Safety(安全余裕)」について。ウォーレン・バフェットは、この言葉をたびたび強調してきましたが、ここで彼による例え話をどうぞ。おなじみ『Seeking Wisdom』からの孫引きで、1997年開催のバークシャー・ハサウェイの株主総会での発言です。(日本語は拙訳)

ビジネスをきちんと理解しているのでしたら、つまり未来を完璧に見通せるということですが、[株式を買う際に]安全余裕はほとんどとらなくてもよいでしょう。反対に、ビジネスに関するさまざまな出来事がおきたり、不確実なことが多かったり、ビジネスが脆弱になっていたり、変化する可能性が高くなるほど、安全余裕を多くとらなければなりません。

車両総重量が4.4トンのトラックにのって活荷重が4.5トンの橋をわたる場合、橋の高さが地面から15cmぐらいだったら、まあ安心してわたれるでしょう。しかし、グランド・キャニオンにかかる橋だったら、もっと余裕がほしくなりますよね。たとえば2トンぐらいのトラックにしておくのではないでしょうか。ですから、どれだけ安全余裕が必要かは、そこに潜んでいるリスクに応じて決まってくるのです。

If you understand a business ? if you can see its future perfectly ? then, obviously, you need very little in the way of margin of safety. Conversely, the more things can happen, the more uncertainty there is, the more vulnerable the business is or the greater the possibility of change, the larger margin of safety you require...

If you're driving a 9,800 pound truck across a bridge that says it holds 10,000 pounds and the bridge is only about six inches above the ground, then you may feel OK. However, if the bridge is over the Grand Canyon, then you may want a little larger margin of safety. And, therefore, you may only drive a 4,000 pound truck across. So it depends on the nature of the underlying risk.

2012年3月20日火曜日

(答え)男の子が多く生まれる病院はどちらか?; 究極の鍛錬

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まずは、前回とりあげた問題の回答になります。

ここで驚かされるのは、確率論のロジックに学生があまり注意を払っていないことだ。男の子の割合が60パーセントを超える日数は、小さな病院の方が多い可能性が高いと考えられる。大きな病院のほうがサンプルが多く、平均からずれる可能性が低いからだ。 (p.105)

例えば、こちらのサイトの図8-1 標準正規母集団下での標本平均値の確率変動(6.5万回の実験)がわかりやすいかと思います。ちなみに私の回答ですが、反射的に「3.ほぼ同じ」を選んでしまいました。

自分の落とし穴に気づいたのはもちろんよかったことですが、この問題をはずして小さな悟りがひらけたような気がします。それは「問題に直面したら、自分なりに解決策を検討してみること」。自分で答えを考えずに回答を読んでいたら、この初歩的な落とし穴に気づかないまま、進んでいたと思います。あらゆる問題を検討する時間はないのでどれかを選ぶ必要がありますが、投資に立ち返ってみると、自分なりにチャンスがあると考えた銘柄に対しては、きちんと評価して文書化してみる、となります。

頭の中で漫然と評価してすぐに興味を失うのではなく、自分なりの枠組みを用意して、自分なりに評価する。このような作業をこなすことで、あとになって落とし穴や盲点に気づいたり、足りない部分を補うことができるのではないでしょうか。

そういえば、以前読んだ本『究極の鍛錬』では、鍛錬方法を以下のように定義していました。

1.実績向上のため、特別に考案されている。
例えば、改善が必要な要素を鋭く限定し、鍛え上げていく。
2.何度も繰り返すことができる。
3.結果に関し、継続的にフィードバックを受けることができる。
4.精神的にはとてもつらい。
5.あまりおもしろくない。

4番目とか5番目あたりに「究極」の秘密がかくされているような気がしますね。

2012年3月19日月曜日

(問題)男の子が多く生まれる病院はどちらか?

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最近読んだ本『ギャンブラーの数学』では、ギャンブルにまつわる確率や心理が取り上げられています。数学者の書いた本なのですが、個人的には歴史上の逸話のほうがおもしろく、ドストエフスキーの伝記あたりを読んでみたくなりました。

さて、確率についての基礎的な考え方はわかったつもりでいたのですが、本書を読んで反省しました。文中で挙げられていた次の問題で、答えをはずしてしまったのです。

高校レベルの確率の知識があれば正解できる簡単な問題です。解答は次回にご紹介します。

赤ん坊の50パーセントが男の子で、ある町の大きな病院では1日に約45人の赤ん坊が生まれ、小さな病院では1日に約15人の赤ん坊が生まれる。それぞれの病院で1年にわたり、新生児の60パーセント以上が男の子だった日数を記録した。では問題。
その日数が多かったのはどちらの病院か?

1.大きな病院
2.小さな病院
3.ほぼ同じ

(p.104)

2012年3月17日土曜日

誤判断の心理学(8)羨望・嫉妬する傾向(チャーリー・マンガー)

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今回の傾向は、誰にでもわかりやすいでしょう。ねたみ、そねみ、うらやみなど、微妙な意味の違いはありますが、その手の感情です。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その8)羨望・嫉妬する傾向
Eight: Envy/Jealousy Tendency

ときに不足してしまう食料を摂取するように進化した種は、最初に食料をみつけるとそれを得ようと躍起になってしまいがちです。また同じ種の自分以外の者が食料を持っているときにも、いさかいが始まりやすいものです。人の本性に深く根ざしている「羨望・嫉妬する傾向」は、進化をたどると、ここに始まるものだったと思われます。

A member of a species designed through evolutionary process to want often-scarce food is going to be driven strongly toward getting food when it first sees food. And this is going to occur often and tend to create some conflict when the food is seen in the possession of another member of the same species. This is probably the evolutionary origin of the envy/jealousy Tendency that lies so deep in human nature.


羨望や嫉妬は、現代社会でもひどくなっています。大学界を例にとると、たとえば資産運用の担当者や外科の教授が標準的な年俸の何倍もとっているとなれば、おかしな方向に進んでしまうのです。もっと極端なのが、投資銀行や法律事務所のたぐいです。大手の法律事務所あたりでは、羨望や嫉妬からくる混乱を避けて、個人の貢献度合いに差があってもシニアパートナーには一律同じ報酬をだしてきたものです。ウォーレン・バフェットと共に何十年も世間をながめてきましたが、そういえば彼はうまいことを繰り返していました。「世界を動かすのは傲慢かと思いましたが、そうではなくて、他をうらやむ力でした」

And envy/jealousy is also extreme in modern life. For instance, university communities often go bananas when some university employee in money management, or some professor in surgery, gets annual compensation in multiples of the standard professorial salary. And in modern investment banks, law firms, etc., the envy/jealousy effects are usually more extreme than they are in university faculties. Many big law firms, fearing disorder from envy/jealousy, have long treated all senior partners alike in compensation, no matter how different their contributions to firm welfare. As I have shared the observation of life with Warren Buffett over decades, I have heard him wisely say on several occasions: “It is not greed that drives the world, but envy.”


投資家は、この傾向に対して二重に注意する必要があると思います。まずは自分自身について。他人や市場の成績に追いつこうと、あせって自分の意思決定を誤ってしまうリスクが考えられます。もうひとつは投資先の経営者について。同業他社、社会動向、公私にわたるつきあいといったものが、経営者の心をゆさぶります。その経営戦略や設備投資は、本当に会社のためになっているのですか? ウォーレンが言うように、どちらに向かおうとしても企業を動かしているのは、他をうらやむ力なのかもしれませんね。

2012年3月16日金曜日

反射的に、にょきにょきと枝をのばす(チャーリー・マンガー)

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以前に取り上げましたが、チャーリー・マンガーが筆頭に挙げるメンタル・モデルは「順列と組み合わせ」でした。ただし、それを使うのが目的ではなく、狙いは決定木(Decision Tree)を描いて将来の期待値を求めることでしょう。今回もおなじみの「Poor Charlie's Almanack」の続きを引用します。過去記事では、前段にあたる文章をご紹介しています(「世の中の働きと驚くほど一致する」「慣れるように習え、そして慣れよ」)。(日本語は拙訳)

十分というには程遠いですが、多くの教育機関はこのこと[順列や組み合わせの重要性]を認識しています。例えばハーバードのビジネス・スクールでは、初年度のクラスの結束を強める上で、彼らが言うところの「決定木理論」が大きな役割を果たしています。何をやるかと言うと、高校で習う代数を実生活上の問題に適用してみる、これだけです。学生にはこれが好評で、高校時代の数学がふだんの暮らしに役立つんだと感激するわけです。

バフェットとはずっといっしょに働いてきましたが、彼のような同僚がいることの強みはいくつかあって、彼は何かを考えはじめると頭の中で反射的に、順列や組み合わせのような初歩的な計算を行って決定木を作ってしまうのも、そのひとつです。

Many educational institutions ? although not nearly enough ? have realized this. At Harvard Business School, the great quantitative thing that bonds the first-year class together is what they call “decision tree theory.” All they do is take high school algebra and apply it to real life problems. And the students love it. They're amazed to find that high school algebra works in life.

One of the advantages of a fellow like Buffett, whom I've worked with all these years, is that he automatically thinks in terms of decision trees and the elementary math of permutations and combinations.


個人的な話ですが、サイコロやトランプといった抽象度の高い事象には、順列や組み合わせといったモデルは、わりと違和感なく適用できるものです。一方、企業の見通しとなると想像力も洞察力も足りず、頭に思い浮かぶのは、ぱっとしないモデルばかりです。実践の回数を意識的に増やさないと、力が伸びないのでしょうね。

2012年3月15日木曜日

最高のリターンをあげているビジネス(ウォーレン・バフェット)

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今回の話題は「最高のリターンを挙げているビジネス」です。早速ですが、ウォーレン・バフェットによる1987年度「株主のみなさんへ」から引用します。

私どもの経験では、最高のリターンを挙げているビジネスは、5年前10年前とよく似たことを今も続けている企業ばかりです。むろん、経営者がそれに甘んじてよいとは言っておりません。ビジネスには、サービス、製品群、製造技術などを改善する機会がいつでもあるので、それらは取り組むべきでしょう。ですが、度々大きな変化にさらされるビジネスは、大失敗をするリスクも大きくなります。その上、激しく動き続ける、いわば「経済的な」地域に、堅固鉄壁なフランチャイズを築くのは難しいときたものです。そのてのフランチャイズこそ、高いリターンをあげ続けるための鍵なのですが。

Experience, however, indicates that the best business returns are usually achieved by companies that are doing something quite similar today to what they were doing five or ten years ago. That is no argument for managerial complacency. Businesses always have opportunities to improve service, product lines, manufacturing techniques, and the like, and obviously these opportunities should be seized. But a business that constantly encounters major change also encounters many chances for major error. Furthermore, economic terrain that is forever shifting violently is ground on which it is difficult to build a fortress-like business franchise. Such a franchise is usually the key to sustained high returns.


ウォーレンの「5年前10年前云々」はトートロジー的に聞こえますが、別の言い方をすれば「製品やサービスの寿命が長い」ということだと思います。そこを足場に、何らかの強みをいかしてMoatを築く。ウォーレンやチャーリー・マンガーが好むビジネスの姿です。

そういえば、「製品寿命が長い」という戦略は、マニーの社長が強調していたのを思い出します(例えば第51期決算説明会資料のPDFファイルp.18)。同社の株価は最近の上昇相場には追いつけていませんが、間違いなく注目に値する企業のひとつです。

ウォーレンの文章でもうひとつ重要な点が、赤字で示した「度々大きな変化にさらされるビジネスは、大失敗をするリスクも大きくなる」。さりげなく確率論的な表現ですが、ウォーレンもチャーリーも数学好きですので、こういう思考は自然に浮かび上がるのでしょう。

2012年3月14日水曜日

ブラック・マンデー前夜(ウォーレン・バフェット)

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1987年の株価大暴落は10月19日ブラック・マンデーで有名です。1日の下落率が22%、日経平均10,000円の感覚では7,800円まで下がることになります。ウォーレン・バフェットにとっては重要な年で、この下落がコカ・コーラ社に投資するきっかけとなりました。今回は、ウォーレンの「株主へのみなさんへ」から数字を拾い、ブラック・マンデー前のバークシャー・ハサウェイの動きをまとめてみました。

まずは市場の動きとして、ダウ工業平均のチャートを載せました。暴落前の2年間は株価が大きく上昇し、ざっと2倍になっています。








一方のウォーレンです。「1987年の春には主要銘柄を残して他の株式は処分した」とどこかで読んだ記憶があり、そのときには「身を引くのが上手だな」と感じていたのですが、今回調べてみると若干事情が異なりました。どうやらウォーレンが1987年に売却した普通株はそれほどではなく、大半は手つかずのままだったようです。「永久保有銘柄」と宣言して保有し続けたABC、GEICO、ワシントン・ポストが、株式ポートフォリオの大半を占めていたからです。一方、その他の企業は前年の1986年までにはあらかた処分し、保有比率が小さくなっていました。








この傾向から得た、個人的な教訓は次の3つです。

1.真に価値ある企業を見つけ、機会を見て集中投資する。
2.株価が大きく上昇すれば、継続保有に値しない企業の株式は処分する。
3.機会の高まりとともに、それなりの余裕資金を準備する。

日本市場はまだ息を吹き返したばかりです。この観察が何かの役に立つのは、ずいぶん先になりそうです。

なお、上の図には挙げていませんが、優先株としては1987年に「問題児」ソロモン・ブラザーズに7億ドルを投資しています。

2012年3月13日火曜日

辛抱できなくて、何かしたくなったときには(チャーリー・マンガー)

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2000年に開催されたWesco年次総会でのチャーリー・マンガーの発言を引用します。おなじみ「Seeking Wisdom」からの孫引きです。(日本語は拙訳)

我々はより柔軟になりましたし、単にいろいろやっているというだけのアホなことをしでかさないように、ある種の原則を身につけました。じっと辛抱していられなくて何かしたくなれば、それこそやらない、という原則です。

We've got great flexibility and a certain discipline in terms of not doing some foolish thing just to be active - discipline in avoiding just doing any damn thing just because you can't stand inactivity. (p.100)


発言の時期は、ちょうどアメリカでITバブルが峠を越した頃です。この発言の文脈が想像できます。

余談ですが、当時のナスダック指数は4,000-5,000あたりで、今は3,000弱です。ダウ平均は逆に上昇しています。一方の日経平均は当時にピーク20,000円をつけて、現在は10,000円です。

2012年3月12日月曜日

みじめになれる方法、教えます(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは1986年に、自分の息子も通う高校Harvard Schoolの卒業式で祝辞を述べることになりました。一流校といっても、しょせんは高校生です。どれだけまじめに話をきくのだろうか、とチャーリーは考えたことでしょう。というのは個人的な邪推に過ぎませんが、実際の祝辞は彼らしいスタイルと内容に満ちており、ヤコビも思わずにやりとする傑作になりました。そうです、逆からやったのです(過去記事「逆だ、いつでも逆からやるんだ」)。幸せな大人になる方法ではなく、不幸な大人になる方法を説いたのです。

今回はそのうちの一部を引用します。高校卒業生というよりも、大人によく効く処方です。出典はおなじみの「Poor Charlie's Almanack」です。

みじめになるための私からの二番目の処方は、何かを学ぶにはできるかぎり自分が経験したことから学びとること。存命か故人かを問わず、他人の成功や失敗から間接的には、なるべく学ばないようにしてください。そうすれば効き目抜群、並み以下のことしか達成できず、みじめになれること間違いなしです。

My second prescription for misery is to learn everything you possibly can from your own experience, minimizing what you learn vicariously from the good and bad experience of others, living and dead. This prescription is a sure-shot producer of misery and second-rate achievement.


なお、Harvard SchoolはL.A.にあるプレップ・スクールで、ハーバード大学とは異なるものです。現在では女子校と合併し、Harvard-Westlake Schoolとなっています。2010年のForbesの記事America's Best Prep Schoolsによれば、全米で12位にランクされています。

2012年3月10日土曜日

マーク・ファーバー対ウォーレン・バフェット

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マーク・ファーバーは逆張りで有名な投資家です。見た目がちょっとこわいおじさんですが、切れ味のよい論理的な主張で人気があります。ジム・ロジャーズと同じように、ここ何年かは商品強気を説いてきました。今のところは当たってますね。

先日ご紹介したバークシャー・ハサウェイの「株主のみなさんへ」では、ウォーレン・バフェットは彼らしい表現でゴールドに対する懐疑的な評価を展開していました。今回ご紹介するのは、マーク・ファーバーによる逆の見解です。引用元の記事はBuy Gold “Right Away” Says Marc Faberです。(日本語は拙訳)

最近になってウォーレン・バフェットが、資産としてのゴールドを否定的にみる見解を表明したが、いうまでもないがファーバーは強く反対している。ゴールドを保有していない投資家は大きなリスクに直面している。ファーバーは幾度もそう述べてきた。債務不履行とか、G7各国の中央銀行が協調して自国通貨を減価させるようなこともありうる。それらのリスクはまだ消えていない、と彼は確信している。

ファーバーは言う。「ゴールドをぜんぜん保有していない?私なら今すぐ買い始めますよ。ただし、値段は下がるかもしれないのをお忘れなく」

Without saying so, directly, Faber disagrees strongly with Warren Buffett’s recent and controversial negative assessment of gold as an asset. Faber has stated on numerous occasions that investors who own no gold take on enormous risk, including debt defaults and/or currency devaluations, as central banks of the G-7 seek to simultaneously devalue its respective currencies. He believes those risks remain alive and well.

“If you don’t own any gold, I would start buying some right away, keeping in mind that it could go down,” states Faber.


こちらは、ゴールドの現在の価格水準についての見解です。

ゴールドがバブルかどうか議論されているが、ファーバーはそのような説は抱いていない。ゴールドにはバブルの兆候がみられない、と彼は何度も言ってきた。ゴールドを保有している投資家はほとんどいないのだから、「ナスダックや不動産に投資すれば金持ちになれると言われたけれど、今回もそれと同じだ」というような雑音は気にしないように、とも。

「ゴールドはバブルではない。まだバブルじゃなかった1973年には、40%も調整したのだ」とファーバーは言う。200ドルの記録的な水準をつけたあとに100ドル近くさがったときの、否定的だった見方を振り返った。

As far as the debate whether gold is in a bubble, Faber doesn’t hold to that thesis. He, on several occasions, has said the signs of a bubble in the gold market aren’t there. So few investors hold any gold, never mind raving about it as a road to riches, as was the case of the Nasdaq and real estate.

"No, gold is not in a bubble. It wasn’t in a bubble in 1973, either, but it still corrected by 40% then," says Faber, referring to the negative sentiment at that time in the gold market after the price sank to nearly $100, from a record high of $200.


2000年前半には、ウォーレンもシルバーを大量に買い集めていました。価格が大きく上昇する前に処分してしまいましたが、商品の動向は引き続き監視していると思います。単なる予感にすぎないのですが、ウォーレンは今後のゴールド・バブル(とその後の急落)を想定し、警告の意味を含めてあのような文章を書いたのかもしれません。

2012年3月9日金曜日

もうかってますか?(ベン・グレアム)

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このところは日本の株式市場が好調ですね。そんなときには、この引用をどうぞ。ベンジャミン・グレアムのThe Intelligent Investor第8章からです。ちなみに、この章はウォーレン・バフェットも目からうろこが落ちたやつです(過去記事「2011年株主のみなさんへ」)。手元に翻訳版がないので、日本語は拙訳です。

真剣な投資家は日々や月々の株価がどう動いたからといって、もうかったとか損したとは、思い込んだりしないものです。

A serious investor is not likely to believe that the day-to-day or even month-to-month fluctuations of the stock market make him richer or poorer.

2012年3月8日木曜日

バークシャー・ハサウェイの夜明け

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個人的な思い込みですが、2008年以来の日本の株式相場の低迷は、1970年代のアメリカのものと似たところがあります。1973年と1974年にはS&P500指数も大きく落ち込み、-14.8%と-26.4%の減少でした(配当込み)。ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイも同様に純資産が伸び悩みましたが、その後の上昇ぶりは相当なものです。1975年からの4年間のゲインは、21.9%, 59.3%, 31.9%, 24.0%です。今回はウォーレンによる1978年の「株主のみなさんへ」からの引用で、1970年代中盤以降にウォーレンがとっていた投資姿勢です。(日本語は拙訳)

ご参考までに、当時のアメリカ株式市場の動きとしてS&P500のチャートを文末に載せています。ウォーレンの文章を読んでから、ごらんになってください。

ここで打ち明けてしまいますが、保険部門で行っている株式投資については、すごく楽観的にみています。もちろん、無条件に株に入れ込んでしまうわけではありません。状況によっては、保険屋が普通株へ投資するのはほとんど意味がないときもあります。

今はわくわくしながら、保険部門の純資産の大部分を株式投資へ向けています。ただし、投資対象は次の条件を満たすものに限っています。私どもがビジネスを理解しており、長期的な見通しが明るく、誠実でいて有能な人が経営しており、そしてとても魅力的な値段がつけられている場合です。最初の3つの条件を満たす投資候補は若干は見つかるものですが、最後の条件がそろわずに投資に踏み切れないことはよくあります。例えば、1971年にはバークシャーの保険部門における普通株投資の資産規模は、簿価ベースで10.7百万ドル[現在価値で約58億円。以下同様]、時価評価額では11.7百万ドル[63億円]でした。素晴らしい企業はあったのですが、株価のほうはほとんど興味を持てませんでした。(書かずにいられないので書いてしまいますが、年金基金の[資産運用]マネージャーは、1971年当時には純資産の122%を株式へ投資していました。高値での買い物だったので、十分には買えなかったようです。一方、株価が底値をつけた後の1974年には、株への投資比率は21%と、記録的な低水準にとどまりました)

この数年間、われわれの歩みは変わりました。1975年末に保険部門が保有していた普通株は、時価では39.3百万ドル[160億円]、簿価ベースもちょうど同じです。それが1978年末の株式(転換優先株含む)は、簿価ベースで129.1百万ドル[520億円]、時価で216.5百万ドル[870億円]に増えました。普通株の売却益は税引前で24.7百万ドル[100億円]でしたので、この3年間での株式投資からの利益は、含み益を合わせると112百万ドル[450億円]になります。同期間のダウ平均は852から805ポイントへ下がりました。バリュー株の投資家にとっては最上の時期でした。

証券市場では競売によって価格が提示されるので、まさしくずば抜けた企業に対して、ぱっとしないビジネスを取引相手から買うときよりも、大幅に割り引かれた値段がつくことがあります。私どもはそのような機会を探し続け、保険部門の株式ポートフォリオに組み入れていきます。

(訳注)1ドル=100円で計算しました。

We confess considerable optimism regarding our insurance equity investments. Of course, our enthusiasm for stocks is not unconditional. Under some circumstances, common stock investments by insurers make very little sense.

We get excited enough to commit a big percentage of insurance company net worth to equities only when we find (1) businesses we can understand, (2) with favorable long-term prospects, (3) operated by honest and competent people, and (4) priced very attractively. We usually can identify a small number of potential investments meeting requirements (1), (2) and (3), but (4) often prevents action. For example, in 1971 our total common stock position at Berkshire's insurance subsidiaries amounted to only $10.7 million at cost, and $11.7 million at market. There were equities of identifiably excellent companies available - but very few at interesting prices. (An irresistible footnote: in 1971, pension fund managers invested a record 122% of net funds available in equities - at full prices they couldn't buy enough of them. In 1974, after the bottom had fallen out, they committed a then record low of 21% to stocks.)

The past few years have been a different story for us. At the end of 1975 our insurance subsidiaries held common equities with a market value exactly equal to cost of $39.3 million. At the end of 1978 this position had been increased to equities (including a convertible preferred) with a cost of $129.1 million and a market value of $216.5 million. During the intervening three years we also had realized pre-tax gains from common equities of approximately $24.7 million. Therefore, our overall unrealized and realized pre-tax gains in equities for the three year period came to approximately $112 million. During this same interval the Dow-Jones Industrial Average declined from 852 to 805. It was a marvelous period for the value-oriented equity
buyer.

We continue to find for our insurance portfolios small portions of really outstanding businesses that are available, through the auction pricing mechanism of security markets, at prices dramatically cheaper than the valuations inferior businesses command on negotiated sales.

1975年末のバークシャーには株式の含み益がなかったとは、なんとなく勇気付けられるものです。といっても、その後に大きなゲインをあげたのは、ワシントン・ポストとGEICO。どちらもバークシャー躍進の中心銘柄です。ただし、両社ともウォーレンが経営判断に関わるようになっていくので、ふつうの個人投資家とは、若干趣きが違いますね。

最後になりましたが、S&P500のチャート(1970年代)はこちらです。


2012年3月7日水曜日

「フランチャイズ」と「ビジネス」の違い(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーは、投資候補の企業がMoat(経済的な堀)を持っているかどうかを重要視しています。Moatとはあいまいな表現ですが、今回引用する言葉「フランチャイズ」は、もう少しかみくだいた例を示しています。ウォーレンによる1991年の「株主のみなさんへ」からの引用です。(日本語は拙訳)

経済的な「フランチャイズ」を有している製品やサービスには、次のような特徴があります。第一に、必需品あるいは嗜好品である。第二に、顧客にとって他に似たような代わりがない。第三に、価格統制の対象外である。その3つがそろった企業は、価格改定を定期的かつ大胆に実施できます。これは高い資本利益率へとつながります。その上、経営上の失敗があっても「フランチャイズ」にはそれに耐える力を持っています。無能な経営陣が「フランチャイズ」から得られる利益を減らすことはあっても、致命傷を負わせるほどにはなりません。

反対に、「ビジネス」から素晴らしい利益を挙げるには、低コストに徹するか、製品やサービスの供給がタイトな場合に限られます。供給がタイトな状況というのは長くは続きません。また優れた経営が行われている企業では、それよりは長い期間にわたって低コスト体質を維持できるかもしれません。ですが、競合企業との絶え間ない競争からは逃れられません。「ビジネス」が「フランチャイズ」と違うのは、経営が悪いと会社がおしまいになることがある点です。

An economic franchise arises from a product or service that: (1) is needed or desired; (2) is thought by its customers to have no close substitute and; (3) is not subject to price regulation. The existence of all three conditions will be demonstrated by a company's ability to regularly price its product or service aggressively and thereby to earn high rates of return on capital. Moreover, franchises can tolerate mis-management. Inept managers may diminish a franchise's profitability, but they cannot inflict mortal damage.

In contrast, "a business" earns exceptional profits only if it is the low-cost operator or if supply of its product or service is tight. Tightness in supply usually does not last long. With superior management, a company may maintain its status as a low- cost operator for a much longer time, but even then unceasingly faces the possibility of competitive attack. And a business, unlike a franchise, can be killed by poor management.


個人的には、この3つの基準でしぼりこむのは厳しいので、別の基準とあわせて使っています(過去記事「競争優位性とは」)。いずれにせよ、「顧客が離れにくい」とか「顧客が集まりやすい」点が決定的だと捉えています。

2012年3月6日火曜日

企業の目的とは何か

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前にご紹介した赤門マネジメント・レビューの論文長期存続ものづくり‘中企業’の群発(岸本 太一)を読んでいて目にとまった文章をご紹介します。この論考の筆者は中小企業の製造業経営者と接する中で、彼らが抱いている「企業の目的」とは何か、を肌身に感じています。よく言われることではありますが、研究者によるフィールドワークの成果ゆえ、生の声が感じられます。

ペンローズや既存の戦略論の学者は「利潤の最大化」を企業の目的と仮定して、理論の構築を行なっている。しかし、私が現場で見た国内ものづくり‘中企業’の目的は、どうもそれだけではない。「従業員(家族) の雇用の確保」および「企業(家業) の存続」といった目的も強く存在するように見受けられた。特に‘中の小’企業では、「利潤最大化」よりこれらの目的を優先していることを感じさせるコメントに、数多く遭遇した。また、「長期存続と成長がトレードオフとなる状況に、これまで何度も直面してきた」という話も何度も伺った。そのひとつが、第2 節で紹介した豊田周辺地域に所在する自動車2次サプライヤーにおける海外展開と国内開発能力維持のトレードオフの話であった。やはり、(日本製造業の)‘中企業’と大企業は同じ企業という生き物でも、種がやや異なるのであろう。 (PDFファイルのp.37)

中小企業では資本と経営が一体となっていることが多いので、自分たちのニッチを見つけてそこで暮らすことができれば、どれだけ成長を望むかは経営者すなわち資本家次第です。長く存続してきた中小企業は大きくは成長できなかったかもしれませんが、生き残ってきたという実績があります。あるいは成長したいという誘惑よりも、もっと充実したものをみつけたのかもしれません。

株式を公開したり資本参加を募った企業は、一転して投資家から冷徹な扱いを受けます。うまくいけば喝采が、そうでなければ非難が待っています。投資家と経営者の距離が離れるだけで、二者の関係は大きく変わるものです。「信用」という言葉は、実に重い意味を持っていますね。

競争に明けくれ、利益があがらず、行き先に迷っている大企業はいったいどこへ行けばよいのでしょう。その答えは、上にもあげた「ニッチ」という言葉にあると思います。つまり、人とは違う自分の居場所を探す、それに尽きるのではないでしょうか。

2012年3月5日月曜日

投資に活かす世知入門(はじめに)(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは学問的な話題を好んでとりあげます。彼には大きな持論があり、全てはそこに流れ込みます。学問は各専門領域にとどまるべきではなく、領域を超えて連携したり融合して使うことでもっと大きな力を発揮する、という主張です。その知識やスキルが、ビジネスや投資判断や日常生活にも適用できるとなれば、私のような一般大衆にとってはうれしいものです。チャーリーは自らがそれを実践し、体現してきました。その成果のひとつがバークシャー・ハサウェイです。バークシャーは売上高が10兆円を超える企業となりましたが、もしチャーリー・マンガーがいなかったらどうなっていたでしょう。企業規模はもちろんのこと、今のような存在感は出せなかっただろう、と思います。

学問的知識やスキルを横断的かつ自在に使えるにはどうしたらよいのか。チャーリーは「頭の中に多面的、学際的なメンタルモデルを作る」ように説いています(過去記事「ほとんどの人より、うまくいくやりかた」)。では、何から取組んでいくのがよいのか。チャーリーは細かな指針はあまり出さないタイプですが、ここではそれらしいことを示しています。短いですが重要な文章なので、ご紹介します。出典はおなじみの「Poor Charlie's Almanack」です。(日本語は拙訳)

基礎的なミクロ経済学的モデル、少しばかりの心理学、少しばかりの数学、そういった一切合財は、私が言うところの「世知を支える普遍的な礎(いしずえ)」を築くのに役立つでしょう。

Well, so much for the basic microeconomic models, a little bit of psychology, a little bit of mathematics, helping create what I call the general substructure of worldly wisdom.


少しばかりの数学として、順列と組み合わせは以前にご紹介しました(過去記事「世の中の働きと驚くほど一致する」)。心理学は既に「誤判断の心理学」シリーズを進めています。このシリーズでは、残りのモデルについて少しずつご紹介していきます。

2012年3月3日土曜日

誤判断の心理学(7)カントの「公正」なる傾向(チャーリー・マンガー)

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??公正さ」についてはチャーリー・マンガーの話を聞くまでもなく、我々日本人にきちんとしみこんでいる概念でしょう。具体的には表現しにくくても、見ればそれが公正かどうかわかる、そういうものです。ただ、この指摘は冷静に活かすべきで、例えば商売を進める上で公正を悪用する者には注意すべきだし、あるいは公正さを貫いて顧客からの信頼を築くのが王道だとも受けとれます。後に取り上げる「返報の傾向」と同様、この文章も人間の心理的側面をあらわにするものです。

今回も短い文章ですので、原文全てになります。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その7)カントの言う「公正」の傾向
Seven:Kantian Fairness Tendency

カントは「定言命法」で有名ですが、これは一種の黄金律で人の従うべき行動基準を示しており、あらゆる人がこれに従うならば、人間をとりまくあらゆるシステムは完璧に機能するというものです。文化的に様変わりした現代人は多くの公正をあらわにし、また他人からも期待するものですが、元はといえばカントが定義したものです。

アメリカではよくみられる光景ですが、小さな街で車が1台しか通れない幅の橋やトンネルがあると、譲ってもらった相手に返礼を返すものです。お互いに何も合図をしていないのに、です。高速道路でも同じように、車線変更などをしてくる他のドライバーが前に入るように譲ります。私もそうですが、立場が逆だったら自分にもそうしてほしいからです。それだけではなく、現在社会では他人から様々な礼儀をうけています。これは、「早い者勝ち」をよしとする傾向に則ったものです。

また、人はしばしば自発的に、先行き不透明な幸運や不運を共に分かち合うものです。そのような「公正な配分」をする振る舞いがあるゆえ、期待をうらぎって公正にしないと意趣返しされることがよくあります。

世界中に広まっていた奴隷制度がこの300年で粛々と廃止されていったのは、興味深い出来事です。過去には長きにわたって、世界中の多くの地域でそれぞれ許容されてきたものです。こうなったのも、カントの言うところの公正なる傾向が大きな役割を果たしたものと、私は考えています。

Kant was famous for his “categorical imperative,” a sort of a “golden rule” that required humans to follow those behavior patterns that, if followed by all others, would make the surrounding human system work best for everybody. And it it not too much to say that modern acculturated man displays, and expects from others, a lot of fairness as thus defined by Kant.

In a small community having a one-way bridge or tunnel for autos, it is the norm in the United States to see a lot of reciprocal courtesy, despite the absence of signs or signals. And many freeway drivers, including myself, will often let other drivers come in front of them, in lane changes or the like, because that is the courtesy they desire when roles are reversed. Moreover, there is, in modern human culture, a lot of courteous lining up by strangers so that all are served on a “first-come-first-served” basis.

Also, strangers often voluntarily share equally in unexpected, unearned good and bad fortune. And, as an obverse consequence of such “fair-sharing” conduct, much reactive hostility occurs when fair-sharing is expected yet not provided.

It is interesting how the world's slavery was pretty well abolished during the last three centuries after being tolerated for a great many previous centuries during which it coexisted with the world's major religions. My guess is that Kantian Fairness Tendency was a major contributor to this result.

2012年3月2日金曜日

こわくて眠れなかったんだよ(ジョリー・オルソン51歳)

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アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの記事Investors' Sell Signal: Surging U.S. Stocksで、株式投資信託の資金状況の記事がありました。最近の相場の上昇とは反対に、個人投資家は解約傾向が続いているとしています。以下の右図でピンク色の棒がマイナス側にでており、ファンドからの資金流出を示しています。

(出典:The Wall Street Journal)









記事中のインタビューに応じている人は、株式を売って債券を買っているとのことです。51歳になるエンジニアの彼は、こうも話しています。(日本語は拙訳)

「2009年の春に、どんなにひどい思いをしてたか、思い出すようにしてるんだ」、彼は危機当時の安値に言及した。
「こわくて眠れなかったんだよ。今は状況が逆になっているけど、上がったのと同じように下がるのも速いんじゃないの」

"I remind myself of how bad it felt in March 2009," he said, referring to the crisis-era low. "I just didn't sleep because it was horrible. Now, we're on the other side of that swing and this could just as easily go down as it could go up."

上記の記事にならって、日本の状況がどうなっているか、グラフにしてみました。原資料は投資信託協会がとりまとめている公募投資信託の資産増減状況(実額)になります。








赤線が株式投資信託への資金の純流入出額を示しています。アメリカと違って、日本で大きく流出超になった時期は、2008年10月と、この2011年10月以降です。2011年4月にもそうでしたが、大震災直後のためと思われます。短期的な変動はともかく、こうして長期間の傾向をみると2006年から2007年にかけた活況ぶりがよくわかりますね。

2012年3月1日木曜日

IBMの株価は、簿価の何倍?(チャーリー・マンガー)

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以前に一部をご紹介した、チャーリー・マンガーの講演その2 「投資やビジネスで活かす世知入門」(A lesson on Elementary, Worldly Wisdom as It Relates to Investment Management and Business)で、IBMの名が引き合いに出されていました。今回はその部分を引用します。出典は、おなじみの「Poor Charlie's Almanack」です。(日本語は拙訳)

株式市場では、すぐれた競合や強い組合に頭を悩まされている鉄道会社には、簿価の三分の一の値になることもあります。対照的に、全盛期の頃のIBMは簿価の6倍で取引されていたものです。まさしくこれが、パリミュチュエル方式なのです [賭けの配分方式。代表的な例が競馬]。大ばか者なら、単に鉄道会社よりもIBMのほうが商売の見通しがよいからとみるでしょう。しかし株価を式に当てはめてくらべてみると、どちらの株を選んだほうがよいのか、あまりはっきりしなくなります。パリミュチュエル方式とよく似ています。だからこそ、勝つのは難しいのです。

In the stock market, some railroad that's beset by better competitors and tough unions may be available at one-third of its book value. In contrast, IBM in its heyday might be selling at six times book value. So it's just like the pari-mutuel system. Any damn fool could plainly see that IBM had better business prospects than the railroad. But once you put the price into the formula, it wasn't so clear anymore what was going to work best for a buyer choosing between the stocks. So it's a lot like a pari-mutuel system. And, therefore, it gets very hard to beat.

ところで現在のIBMの株価はUS$200の少し下ですが、PBRのほうは11となっています(Mkt. cap.が230Bで、Total IBM stockholders' equityが20B)。自社株買いを続けているため、株主資本が低く抑えられています。上述の講演は1994年のものですから、時代は変わるものですね、チャーリーさん。